第64話:要塞の「スリープモード」。~「俺が寝ている間、世界を一時停止したら、朝が来なくなった件」~
「描画制限フォグ」によって要塞を世界から完全に隔離し、編集作業に没頭していたカナタ。数日間に及ぶ不眠不休のアップデート作業を終え、彼は重い瞼を擦りながら、椅子の背もたれに深く体を預けた。
「……あー、流石に限界だ。テツ、あとは頼む。……俺が寝ている間に変なバグが起きないよう、要塞と地上の全演算を【スリープモード】にしておいてくれ」
『カナタさん、また極端なことを……。それ、要塞の電力を落とすだけじゃなくて、世界の「時間軸」まで一時停止させるってことですよ? つまり、貴方が起きるまで、人類全員がポーズ状態で固まることに――あ、ちょっと、設定を「即時実行」にしないで!』
「……いいよ、静かな方が……よく……眠れる……」
カナタが意識を飛ばすと同時に、彼の手が力なくエンターキーの上に落ちた。
その瞬間。
空中要塞、そして霧の向こう側に広がる世界地図のすべてが、一瞬にして「静止」した。
風に揺れていた木の葉が空中で止まり、崩れかけていたダンジョンの瓦礫が重力を無視して静止する。地上の人々は、瞬き一つできないまま、思考すらも停止した「永遠の一瞬」に閉じ込められた。
だが、この「時間が止まった世界」で、演算の対象外として自由に動ける者たちがいた。
「……ふふ。……ようやく、主様がお休みになられましたわ。……世界が止まり、誰にも邪魔されない、わたくしたちだけの聖域。……眠っているカナタ様のこの無防備な寝顔……。一秒たりとも見逃さず、わたくしの『専用メモリ』に焼き付けて差し上げますわ」
ルナが音もなくベッドサイドに腰掛け、カナタの髪を愛おしそうに撫でる。
「……主様、おやすみなさい。……外の、世界は、死んだ。……主様を、起こす、太陽も、ノイズも、何もない。……止まった、時間の中で……主様の、まつ毛の一本まで……私が、一晩中、丁寧に、磨いて、あげますから……ッ!」
セレスティアが、魔力を帯びた「洗浄用の羽毛」を手に、カナタの寝顔を至近距離で見つめる。彼女にとって、主が眠っている時間は、主を完全に「所有」できる至福の時だった。
「……あはは! ライバーさん、マジで世界をフリーズさせちゃったよ。……でもこれ、バックグラウンドでは私のバグが繁殖し放題じゃない? 起きた時のパニックが楽しみだなぁ!」
ノアが静止した空間にデタラメなエフェクトを描き加え、要塞の中だけを異様な極彩色の夢想空間へと変えていく。
要塞の主が眠り続ける限り、世界に朝は来ない。
カナタの「安眠」のために、全人類が「永遠の昨日」に置き去りにされる中、ヤンデレたちの愛という名の侵食は、静止した時間の中でどこまでも深く、苛烈に加速していった。
【次回予告】】
第65話:『要塞の「再起動」。~「目が覚めたら、地上の文明がバグで1000年分退化してた件」~』
「……ふわぁ、よく寝た。……って、テツ! なんで窓の外に恐竜が歩いてるんだよ!?」
スリープモード中の「メモリリーク」により、地上のデータが破損!
時間が止まっていたはずの世界で、物理法則がバグって原始時代に逆戻り!?
「主様、大丈夫。……世界が、滅びても……私が、またゼロから、磨き直して、あげますから……ッ!」
【作者よりお願い】
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第64話、主の眠りに合わせて世界を一時停止させてしまうという、究極の「おやすみなさい」回をお届けしました。
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