第53話:上書き保存の決意。~「俺がバグなら、世界ごとバグらせてやるよ」~
「過去の俺」が突きつける、あまりにも正論なナイフ。
空中要塞の制御システムは、この「原点」の出現によって激しいコンフリクトを起こし、カナタの視界にはノイズが走り始めていた。
「……どうした、今の俺。手が止まっているぞ。怖いのか? 自分が作り上げたこのハリボテの世界が、ただの『編集ミス』だったと認めるのが」
「……っ」
過去のカナタが歩み寄るたび、カナタの【空間編集】ウィンドウが一つ、また一つとエラーを吐いて消滅していく。
無能と言われたはずの【空間編集】が、今や現実の理を書き換える神スキルへと至った。だが、その根底にある「自分」という存在が揺らげば、すべては砂上の楼閣に過ぎない。
「カナタ様、惑わされてはいけませんわ! その男は貴方の弱さそのもの……。今すぐ私たちが、その魂ごと『完全消去』して差し上げます!」
ルナが狂おしいまでの執着を魔力に変え、過去のカナタに飛びかかろうとする。
だが、その手は空を切った。過去の自分は実体を持たず、カナタの「記憶」の中にのみ存在する絶対的なバグだったからだ。
「……主様。……迷わなくて、いい。……過去が、邪魔なら……私が、主様の脳を、直接、磨いて……その記憶、全部、削り取って、あげます……ッ!」
セレスティアが震える手でカナタの頬を包み込む。彼女の瞳には、主が「普通の人」に戻ってしまうことへの、底知れない恐怖が宿っていた。
「……テツ、どうすればいい。このままじゃ、要塞のOSが『初期化』されちまう」
『カナタさん! 過去を消しちゃダメです! 消せば、貴方が今のスキルを手に入れた歴史そのものが消滅する! ……残された道は一つ。「上書き保存」ではなく、過去の自分を「統合」して、新しいバージョンに進化するしかないんです!!』
テツの叫びが、ノイズの嵐を切り裂いた。
カナタは、震える指を空中に走らせた。
選択するのは「削除」でも「修正」でもない。これまで一度も使ったことのない、禁断の【レイヤー統合】コマンド。
「……過去の俺。お前の言う通り、俺は逃げてたのかもしれない。……でもな、このバグった世界に、俺を『神』として必要としてくれるやつらがいるんだ。……たとえ俺がバグでも、この愛ごと抱えて生きてやるよ!」
カナタが、目の前の「過去の自分」に向かって、思い切りエンターキーを叩き込んだ。
「【全システム、強制統合】! ――俺の『良心』も『狂気』も、全部まとめて一つのファイルにぶち込んでやる!!」
要塞全体が、真っ白な閃光に包まれた。
カナタの脳内に、会社をクビになった日の絶望、ダンジョンが現れた日の高揚、そしてヒロインたちと過ごした歪な日々が、凄まじい濁流となって流れ込む。
過去の自分と今の自分が、激しく衝突し、混ざり合い、やがて一つの新しい「人格」へと昇華していく。
「……あ、あぁ……ッ!!」
光が収まった時。
そこには、以前よりも少しだけ落ち着いた、けれど瞳の奥に底知れない深淵を湛えたカナタが立っていた。
彼の背後には、ルナ、セレスティア、リリアーヌが、まるで祈るように寄り添っている。
「……おかえりなさいませ、カナタ様。……いえ、真の『攻略ライバー』様」
ルナが微笑む。
カナタは、手元に浮かぶ新しくなったUIを確認した。
そこには【空間編集:Ver. 2.0】の文字。
「……さて。ゴミ掃除は終わった。……次は、このバグりまくった地上の世界を、もっと俺好みに『レンダリング』し直すとしようか」
過去の自分を飲み込み、迷いを断ち切ったカナタ。
真の全能を手にした彼の「攻略」は、ここからさらなる次元へと加速していく。
【次回予告】
第54話:『新装開店・空中要塞。~「家具の配置をいじったら、地上の都市が一つ消えた」~』
覚醒したカナタが、要塞の「模様替え」を決行!
ソファの座標を少しズラしただけで、地上では大陸が分断される大惨事!?
さらに、覚醒したカナタに惹きつけられた「新たなヒロイン(バグ)」が、異次元からログインしてきて――。
【作者よりお願い】
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