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第52話:初期設定の「俺」。~「一番最初にデリートしたはずの、人間らしい心が襲ってくる」~

ゴミ箱から溢れ出した「過去の敵」の残骸を、コピー・カナタとの連携で次々とクリーンアップしていくカナタ。

 だが、ノイズの霧が晴れたその奥底に、一人の「男」が立っていた。

「……なんだよ。まだ消し残しがあったのか?」

 カナタがモニター越しにその姿を捉えた瞬間、心臓が跳ね上がった。

 そこに立っていたのは、神のような【空間編集】スキルを手に入れる前、会社をクビになり、狭いアパートで将来に絶望していた頃の――「ただの人間だった頃のカナタ」だった。

『……カナタさん。あれはバグじゃありません。貴方がこのスキルを初めて使ったあの日、無意識に「邪魔な弱さ」として切り捨て、ゴミ箱の奥底にアーカイブ(封印)していた……貴方自身の「良心」と「常識」のバックアップデータです』

 テツの声が、いつになく真剣に響く。

 過去のカナタは、感情のない瞳で今のカナタを見つめ、静かに口を開いた。

「……なぁ、今の自分を見て、どう思う? 月を歪め、時間を弄び、地上の人間をダンスの駒にして……。お前が欲しかったのは、こんな狂った神様ごっこなのか?」

「……うるさい。俺は、俺たちの居場所を守ってるだけだ」

「居場所? 違うだろ。ここはただの隔離された『プロジェクトファイル』だ。……お前が愛していると思っているあの女たちも、お前が都合よく『編集』した結果のバグなんじゃないのか?」

 その言葉が響いた瞬間、要塞内の空気が凍りついた。

 バルコニーで待機していたルナ、リリアーヌ、そしてコピーを抱えていたセレスティアが、同時に過去のカナタへと殺意を向けた。

「……聞き捨てなりませんわね。……カナタ様が、私たちを『バグ』と呼ぶなど。……たとえ過去の貴方であっても、その言葉……一文字残らず『上書き』して差し上げます」

 ルナの魔導杖から、世界を白紙に戻すほどの【初期化光線】が放たれる。

 だが、過去のカナタはそれを「ただの人間」のまま受け流した。彼はスキルの影響を受けない「システムの原点オリジン」だったからだ。

「……不純物。……今の主様を、迷わせる、最大の汚れ。……過去の、弱い主様なんて……私が、磨き潰して、消して、あげます……ッ!」

 セレスティアが狂気の速度で肉薄し、過去のカナタの喉元に「トリミングバサミ」を突き立てる。

 しかし、過去のカナタは消えない。それどころか、彼の存在が強まるにつれ、今のカナタの【空間編集】スキルのUIが、次第に透過し、薄れていく。

「……やめろ、セレスティア! こいつを攻撃すれば、俺の『根源データ』まで壊れるかもしれない!」

 カナタは、過去の自分が突きつける「常識」という名のナイフに、初めて恐怖を感じていた。

 もし、人間としての心を取り戻してしまったら。

 今手にしている全能の力も、ヤンデレヒロインたちとの狂った日常も、すべて「エラー」として消えてしまうのではないか。

「……選べよ、今の自分。……このままバグった世界で神様を続けるか。……それとも、すべてを『Ctrl+Z(元に戻す)』して、あのアパートに戻るか」

 カナタの指が、キーボードの上で激しく震える。

 神の全能感か、人間としての平穏か。

 空中要塞という密室で、自分自身のアイデンティティを巡る、最も静かで最も凄惨な「自己解体」が始まった。

【次回予告】

第53話:『上書き保存の決意。~「俺がバグなら、世界ごとバグらせてやるよ」~』

過去の自分をデリートできず、消えかけるカナタの権限。

だが、ルナたちがカナタの手を取り、禁断の【合体編集】を提案する!?

「主様、貴方が選べないなら……私たちが、貴方の心を『再設計』して差し上げますわ」

過去の自分を飲み込み、カナタは真の「攻略ライバー」として覚醒する!

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