第47話:要塞の「音量調節」。~「世界が静かすぎて、自分の鼓動がうるさい件」~
【次回予告】】
第48話:『世界の「再生速度(FPS)」を変更してみた。~「俺だけ倍速で動けるの、めっちゃ効率的じゃん」~』
「作業を早く終わらせたい」という理由で、カナタが世界の【タイムスケール】を操作。
要塞の中だけ時間を加速させた結果、外の世界では一瞬で数年が経過!?
「ちょっと昼寝しただけなのに、地上の文明が滅びかけてるんだけど……」
時間軸のバグが引き起こす、ヤンデレたちの「永遠の独占」作戦!
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地上の人々が、高解像度すぎる「弾丸の雨」から逃げ惑い、ようやく雨が止んだ頃。空中要塞のリビングでは、カナタが耳を押さえながら不機嫌そうにモニターを見つめていた。
「……なぁテツ。さっきから地上の連中の叫び声とか、復興作業のハンマーの音とか、こっちまで響いてこないか? ノイズキャンセリングの設定を最強にしてるはずなのに、集中できないんだよ」
カナタが作業している動画の音声トラックには、地上の喧騒が「環境音」として微かに混じり込んでいた。
『カナタさん、それは世界が「一つのプロジェクト」として繋がっている以上、仕方のないことですよ。人々が生きていれば、音が出るのは当然で――あ、待ってください。その「スライダー」には触れないで!』
「いや、マスターボリュームを絞ればいいだけの話だろ。……よし、世界の【マスター音量】を……0に設定」
カナタが仮想ミキサーのスライダーを一番下まで引き下げた。
その瞬間。
世界から、あらゆる「振動」による伝達――すなわち『音』が消失した。
風の音も、波の音も、赤ん坊の泣き声も、崩れるビルの轟音ですらも。
地上は一瞬にして、真空の中に放り出されたかのような、恐ろしいほどの無音に包まれた。人々は口をパクパクと動かすが、自分の声すら聞こえない。あまりの静寂に、人々は自分の心臓の鼓動が耳元で爆辞を叩いているかのような錯覚に陥り、発狂寸前の恐怖に晒された。
「……あ、すっきりした。これで作業に集中できるな」
『カナタさん! 静かすぎますよ! 音がない世界なんて、ホラー映画の無音シーンが一生続いてるようなもんです! 地上の王たちが「ついに耳までデリートされた!」って絶望のあまりジェスチャーで遺書を書いてますよ!!』
バルコニーでは、ルナが優雅にハープを奏でていたが、音が出ないことに気づくと、少しだけ首を傾げた。
「……あら。音が聞こえませんわね。でも、カナタ様の耳に障るような雑音が消えたのは、掃除の手間が省けて素晴らしいことですわ。……どうしても音が必要なら、わたくしが直接、皆様の脳内に『主様を讃える聖歌』を24時間ノンストップで流し込んであげましょうか?」
「……賛成。……外の、音は、汚い。……主様の、吐息だけ、聞こえれば、それでいい。……無音なら、私の、足音も、消えて……主様の背後に、もっと、忍び寄りやすくなる……ッ!」
セレスティアが、音もなくカナタの背後の影に溶け込み、包丁を磨き始める(火花は散るが音はしない)。
「……いや、流石にちょっと寂しいか。……よし、テツ。俺が作業用によく聴いてる『著作権フリーのBGM素材』を、地上全域にループ再生で流してやれよ。無音よりはマシだろ?」
『……カナタさん、そのBGMって、まさかあの……』
「ああ、お気に入りの『爆音ハイパー・トランス:激動の24時間』だ」
カナタが【BGMレイヤー:有効化】を押し、音量を最大まで上げた。
――ドゥンドゥンドゥンドゥン!!
――イェァァァァァッ!!
音を失っていた世界に、突如として天から「脳を揺らす重低音」と「ハイテンションな合成音声」が、逃げ場のない全方位スピーカー状態で降り注いだ。
「な、なんだ!? 突然、頭の中でダンスミュージックが鳴り止まないぞ!?」
「悲しい葬式の最中なのに、BGMが明るすぎて勝手に体が踊り出してしまう!!」
地上の人々は、悲しみも苦しみもすべてトランス音楽にかき消され、強制的にハイテンションなリズムに乗らされる羽目になった。農夫はクワを振りながらステップを踏み、王たちは重厚な玉座で頭を激しく振り(ヘドバン)、世界は「音のない絶望」から「逃げられない狂乱」へと一瞬で塗り替えられた。
「……お、いい感じに盛り上がってるな。みんな楽しそうだ」
『……カナタさん。あれ、楽しんでるんじゃなくて、リズムに合わせて強制的に労働させられてるだけですよ……』
カナタの「善意の音響編集」により、世界は史上最大の「強制ダンス会場」へと変貌してしまった。




