第43話:勇者の逆襲(物理)。~「この芝刈り鎌、伝説の武器より切れるんですけど!?」~
空中要塞の広大な庭園。かつて伝説の勇者と呼ばれた男、カイルは、泥にまみれながら地面を這いつくばっていた。
彼の目の前には、リリアーヌ王女から「これで一晩中芝を毟りなさいな」と投げ渡された、一本の錆びついた鎌がある。
「……クソッ。私は、私は選ばれし勇者だぞ……。こんな、ゴミ同然の道具で、一生を終えてたまるか……ッ!」
カイルは怒りに震える手で、その鎌を握りしめた。
その瞬間。彼の脳内に、これまでの人生で一度も感じたことのない「異質な重み」が流れ込んできた。
「……な、なんだ、この感覚は……!?」
その鎌は、カナタが「消しゴムツール」で消去した空間の断片と、不要な「切れ味」のデータを適当に合成して作った、いわば**『概念のゴミ捨て場』から生まれた魔具**だった。
見た目はボロいが、その本質は「対象の存在定義を断ち切る」という、カナタのスキルの一部を物理化したような代物である。
試しにカイルが、庭に生えていた「カナタ製・絶対破壊不能の強化芝」を軽く撫でてみる。
すると、伝説の聖剣ですら傷一つつかなかった芝が、まるでお湯に入れたバターのように、音もなく綺麗に切り裂かれた。
「……切れる。いや、これは『切れる』なんて次元じゃない……。世界そのものが、私の刃の前にひれ伏している!」
カイルの瞳に、暗い希望の灯が宿った。
レベル1。ステータスは村人以下。だが、この手にあるのは、あの「編集者」の首をも跳ね飛ばせる、神殺しの刃だ。
「これなら……これなら勝てる! あの傲慢な男を殺し、リリアーヌ様やセレスティア様を、この悪夢から解放して差し上げられる!」
カイルは影に潜み、要塞のメインエリアへと繋がる階段を駆け上がった。
狙うは、ソファで無防備に昼寝をしている(ように見える)カナタの首一点のみ。
「死ねぇぇぇっ! 諸悪の根源――」
全力の踏み込み。鎌が空を裂き、カナタの首筋へと届こうとした、その刹那。
「――あら。その道具、まだ返却時間ではありませんわよ」
背後から、氷のような冷気がカイルの全身を包んだ。
気がつけば、カイルの振り上げた鎌は、セレスティアの素手によって、指一本で受け止められていた。
「な……!? バカな、この鎌は空間すら切り裂くはずだぞ!」
「……確かに、その鎌は『切れ味』だけは一流です。主様が、昨日消したゴミをまとめて作ったものですから」
セレスティアが、無表情にカイルを見下ろす。彼女の指先からは、鎌の「因果切断」の力を無効化するほどの、圧倒的な「執着(ドロドロとした魔力)」が溢れ出していた。
「ですが……そんなに鋭いものを、汚れきった貴方の手で振り回されると……せっかくの、主様の、絨毯が……傷ついて、しまいます……ッ!」
セレスティアの手が、カイルの顔面を掴んだ。
彼女にとって、勇者の命など「落ちているゴミ」以下の価値しかない。
「……掃除、開始。……不純物は、一粒残らず、削り取って……主様の、肥やしに、してあげます……ッ!」
「あ、あああああああッ!?」
セレスティアはカイルの手から鎌を取り上げると、それを「爪楊枝」でも扱うかのように軽く振るい、カイルの装備していたボロ布(元勇者服)を、皮膚一枚傷つけずに粉々に切り刻んだ。
さらに、彼女はカイルを逆さまに吊るし上げると、特製の「強力洗剤」を全身にぶっかけ、要塞の床を磨くための『生きた雑巾』として引きずり回し始めた。
「……あ、セレスティア。また勇者で遊んでんのか?」
物音で目を覚ましたカナタが、欠伸をしながらその光景を眺める。
「いえ、カナタ様。……この子が、道具の使い方が下手だったので……『教育』をしていただけです」
「ふーん。まあ、床が綺麗になるならいいけどさ。……テツ、その鎌、切れ味良すぎて危ないから、後で『バターナイフ』くらいの硬さに設定下げといてくれ」
『了解です、カナタさん。……勇者さん、あと一歩だったのに……。あの人たち、主様への「殺気」には、0.1ミリ秒で反応する設定になってるんですよ』
勇者カイル。
一瞬の希望は、さらなる絶望へと上書きされた。
彼は今、全裸に近い姿で、セレスティアに「磨き布」として扱われながら、要塞の廊下をピカピカにするための道具へと成り下がっていた。
【次回予告】
第44話:『要塞の「お客様アンケート」。~「えっ、地上の国が全部合併して『カナタ帝国』になった?」~』
カナタが「月をハートにする」「勇者をゴミに出す」などの奇行を繰り返した結果……。
恐怖した地上の王たちが、「もう敵わない」と悟り、勝手にカナタを皇帝に指名!?
「俺、ただ動画作ってるだけなんだけど……」
戸惑うカナタの元に、各国から「貢物」という名の新しいヒロイン(犠牲者)たちが続々と送られてきて――。
【作者よりお願い】
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
3,000文字級のボリュームで、勇者の儚い反抗とセレスティアの圧倒的な狂気を描きました。
もし「勇者の扱いが酷すぎて同情するw」「セレスティアの強さがヤバい!」と思っていただけましたら、
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