第40話:ミニチュア女王の反乱。~「私の魔導砲、水鉄砲以下の威力なんですけど!?」~
空中要塞の裏庭に新設された「月面箱庭レイヤー」。
そこには、1/1000スケールで再現された銀色の都市が広がり、親指ほどのサイズになった月の民たちが、絶望と困惑の中で生活を始めていた。
「おのれ、おのれぇ……! 地上の改竄者め、この月の女王セレナを、このような『虫籠』に閉じ込めるとは、万死、いや億死に値するわ!」
セレナは、自身の身長よりも大きな「庭の芝生」をかき分けながら、要塞のメインエリアへと続くテラスを目指していた。
彼女の背中には、月の科学の結晶であるフローティング・ビットが浮遊している。本来ならば一撃で山を穿つ魔導砲だが、今のサイズでは線香花火のような火花が出るのが精一杯だ。
「見ておれ……。奴が寝ている隙に、あの『編集ゴーグル』を奪い取ってやる。そうすれば、サイズ変更など一瞬……。元の姿に戻った暁には、この家ごと握り潰して――」
その時、セレナの視界に「巨大な絶望」が映り込んだ。
「……あら。月のゴミが、勝手に箱庭から這い出してきましたか」
上空から降り注ぐのは、絶対零度の声。
見上げれば、そこにはルナが立っていた。15センチほどの距離にある彼女の靴は、セレナにとってはそびえ立つ断崖絶壁だ。
「ひっ……! 第一聖女、ルナ……!」
「カナタ様は今、昨夜の演算負荷でまだお休み中です。ノイズは、私が排除しておかなければ……」
ルナが杖を向ける。だが、彼女はセレナを殺そうとはしなかった。代わりに放たれたのは、空間を固定する『ピン留め』の魔力。セレナの体は、まるで標本のように床に縫い付けられた。
「な、何をする! 離せ、この狂信者が!」
「黙りなさい。……貴女には、新しく来た『ペット』として、まずはこの要塞の『秩序』を学んでもらいます。……セレスティア、準備はいいですか?」
「……はい、ルナ様。……新しい、おもちゃ。……汚れを、一つ残らず、落としてあげます……ッ!」
影の中から現れたセレスティア。その瞳は、もはや光を通さないほど濁っている。
彼女が手に持っていたのは、カナタが以前「細部を磨くために」と作成した、超極細の綿棒(掃除用ツール)だった。
「……ま、待て。その棒で何をするつもりだ! やめろ、私は女王だぞ! ああぁぁぁっ!?」
セレスティアの手により、セレナは「洗浄レイヤー」へと放り込まれた。
親指サイズの女王を、綿棒と特製の洗浄液で文字通り「隅々まで」磨き上げる。抵抗も虚しく、セレナは自尊心を粉々にされながら、物理的にも精神的にもピカピカにされていく。
その様子を、リビングのソファでリリアーヌが優雅に眺めていた。
「ふふ、賑やかですわね。でもルナ様、あまりいじめすぎては、カナタ様が起きた時に悲しまれますわよ? カナタ様は、可愛いものがお好きですから」
「……分かっています。だからこそ、このゴミを『可愛いだけの置物』に作り替えているのです」
磨き上げられ、呆然と魂が抜けたような顔で床に転がるセレナ。
彼女の視線の先、寝室の扉が開き、眠そうな目を擦りながらカナタが現れた。
「……ふわぁ。……ん? みんな、朝から何してんだ? ……あ、女王様、箱庭から出てきたのか。散歩か?」
カナタが指先で、ひょいとセレナをつまみ上げる。
セレナにとって、その指先は温かく、同時に世界を滅ぼす神の御手そのものだった。
「……あ……う……」
「元気ないな。テツ、こいつの『空腹パラメータ』、ちょっと上げてやってくれ。あと、朝飯にパンの耳でも置いてやれよ」
『了解です、カナタさん。……ついでに、彼女の「服従心」のレイヤー、勝手にルナさんたちが弄ってますけど……まあ、いいですよね?』
カナタの「うっかり」が招いた、月の民のペット化。
女王セレナは、カナタの掌の中で震えながら悟った。この要塞の主は神だが、その隣に侍る女たちは、神すらも汚させない「怪物」なのだと。
月の女王を加え、空中要塞のヒエラルキーはさらに歪な形へと進化していく。
【次回予告】
第41話:『地上の「勇者」が、要塞のインターホンを鳴らした件。~「聖女を返せ? ああ、今お風呂掃除(物理攻撃)中だけど」~』
月との決戦を目撃した地上の連合軍が、ついに「勇者」を派遣!
正義感に燃える勇者が要塞の玄関に辿り着くが、そこで彼を待っていたのは、カナタに完全に調教(磨き上げ)されたセレスティアの「お出迎え」だった。
【作者よりお願い】
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