第39話:解凍厳禁。~「主様、このファイルから変な悲鳴が聞こえます」~
神話級の巨神兵を沈め、さらには降下してきた『真・月球都市』をまるごと「zip圧縮」するという前代未聞の荒業を成し遂げたカナタ。
空中要塞に再び静寂が戻ったが、それは平穏とは程遠い、嵐の前の静けさだった。
「……はぁ、はぁ。……テツ、状況は?」
カナタは、激痛に耐えながら掌の中にある銀色の結晶体――圧縮された月球都市――を見つめた。その中には、数万の月の民と、彼らの高度な文明が、高度な演算処理によって数センチの立方体に押し込められている。
『カナタさん、冗談抜きでシステムがパンク寸前です! 月一個分の質量を「データ」として保持し続けるなんて、要塞の魔力炉にとっては、超高画質の4K動画を数万本同時にストリーミングしてるようなもんですよ!』
テツが、火を吹きそうなコンソールを必死に叩きながら叫ぶ。
『このままじゃ要塞ごと「クラッシュ」します! 早くどこかに「展開」するか、完全に削除してください!』
「デリートは流石に後味が悪いだろ。……よし、じゃあ『新規レイヤー』を作成して、この要塞の地下……いや、裏庭の空きスペースに、箱庭として「解凍」してやる」
カナタはフラつく足取りで、要塞の広大な庭園へと向かった。
ルナ、セレスティア、リリアーヌの三人も、満身創痍の体を引きずりながら、主の背中を追う。
「……カナタ様、それは危険です。その結晶の中には、まだ奴らの敵意が圧縮されたまま……」
「大丈夫だ。解凍する時に、『敵対心』のパラメータだけ一括で0に設定し直す。……テツ、やるぞ。対象オブジェクト、展開開始!」
カナタが結晶を空中に放り投げ、指先で『解凍ツール』を起動した。
ドォォォォォン!!
凄まじい光とともに、要塞の裏庭に新たな空間が拡張されていく。
だが、カナタの「うっかり」はここでも発動した。
要塞の容量に合わせて『リサイズ』をかけてしまったため、本来数キロメートル四方あったはずの都市が、ドールハウスのような「ミニチュアサイズ」で解凍されてしまったのだ。
「……あ。スケール設定、1/1000にしてた」
目の前に広がるのは、膝の高さほどしかない銀色の高層ビル群。そして、そこから這い出してきたのは、親指ほどのサイズになった月の民たちだった。
「な、ななな……何という屈辱! 我ら誇り高き月の民を、このような虫籠のような場所に閉じ込めるとは!」
ビルの中から、ひときわ豪華な衣装を纏った「小さな影」が飛び出してきた。
それは、月の民を統べる女王、セレナだった。
彼女は本来、神々しいまでの威厳を持つ美女のはずだが、今のサイズでは、怒って地団駄を踏む姿も、カナタたちには「可愛らしい妖精」にしか見えなかった。
「……あら。カナタ様、新しい『ペット』ですか? 随分と騒がしいゴミですが、私が踏み潰して掃除しておきましょうか?」
セレスティアが、虚ろな瞳で女王セレナの上に足をかざす。
「ひ、ひいぃっ!? 止めるのです、この野蛮な地上の女! 私は女王……あ、待ちなさい、その大きな雑巾で私を包まないで――!」
「……磨く。……小さい……。磨き甲斐が、ある……。主様、この子……ピカピカに、しても、いいですか……ッ?」
「わたくしも混ぜてくださいな! お人形遊びの相手にはちょうど良さそうですわ!」
ルナ、セレスティア、リリアーヌ。
先ほどまで死闘を繰り広げていた三人のヤンデレたちが、今や小さな月の女王を「共有の玩具」として愛でる(という名の調教)を開始しようとしていた。
「……なあテツ。……なんか、思ってたのと違うけど、これで一応、解決……だよな?」
『……カナタさん。これ、解決じゃなくて、新しい「火種」を要塞に飼い慣らしただけですよ。……あと、月の女王を解凍したせいで、要塞の「愛のパラメータ」が、さらに異常な数値を叩き出してます……』
月の都市を「箱庭」として所有することになったカナタ。
空中要塞という密室に、新たな(極小の)ヒロインが加わり、主を巡る争奪戦は、さらにカオスな多層構造へと突入していく。
【次回予告】
第40話:『ミニチュア女王の反乱。~「私の魔導砲、水鉄砲以下の威力なんですけど!?」~』
要塞の「観賞用」として飼われることになった女王セレナ。
何とかして元のサイズに戻ろうと、カナタの「編集ゴーグル」を盗み出そうと画策するが……。
そこで彼女が見たのは、ルナたちによる、想像を絶する「主様への奉仕活動」の現場だった。
【作者よりお願い】
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