第37話:月と地球のデッドヒート。~「データの残骸(ゴミ)の中に、最強の盾を見つけました」~
視界が白濁し、脳内を数千の針が突き刺すような激痛が走る。
カナタの意識は、空中要塞の制御システムと完全に同化し、かろうじて保たれていた「自分」という境界線が、膨大な演算処理の波に呑み込まれそうになっていた。
「……ぐ、ぅ……あ、あああああッ!!」
リビングの床に膝をつき、カナタは血の混じった唾を吐き出す。
外では、巨神兵の第2形態『朔月の処刑者』が放つ、空間を圧壊させる銀翼の猛攻が続いていた。ルナ、セレスティア、リリアーヌの三人が、カナタとの「共感覚」によって限界以上の出力を出し、かろうじて直撃を防いでいるが、それも長くは持たない。
『カナタさん! 脳の処理温度が臨界点を超えてます! これ以上、強制権限を維持したら、貴方の意識は「ただのデータ」として蒸発しますよ!!』
テツの叫びが、爆音のようなノイズに混じって聞こえる。
「……わかってる……! でも、まだ……こいつを、倒す……決定打が……足りない……っ!」
月の守護者は、ダメージを受ける端から月光を吸収し、その装甲を再生させていく。カナタの「透過」も、巨神兵が放つ高濃度の月の理によって上書きされ、次第に効力を失いつつあった。
『……だったら、これを使うしかありません! ストレージの最下層……カナタさんが以前「ゴミ箱」に放り込んだデータの残骸を漁ってみました。……ありましたよ! かつて貴方が滅ぼしたゼノス帝国の遺産――「絶対拒絶障壁・アイギス」の設計図です!』
「……アイギス? あの、俺が模様替えのついでに消した……帝国の防衛システムか?」
『そうです! あの時はゴミ同然に消しましたけど、元々は地上最強の物理防御を誇る術式です。……これを今の「編集権限」で再構築して、要塞の外壁に「貼り付け」てください! 敵の月の魔力とは系統が違うから、中和されずに持ちこたえられるはずです!』
カナタは震える指先で、虚空に浮かぶ『ゴミ箱』のアイコンを叩き割った。
中から溢れ出したのは、ノイズまみれの真っ黒なデータの塊。かつて消滅させた帝国の兵士たちの叫びや、要塞都市の残骸が、ドロドロとした怨念となってカナタの腕を侵食する。
「……恨み言なら、後で聞いてやる。……今は、その力を……貸せ!!」
カナタが叫び、ゴミ箱から引きずり出したデータの断片を、要塞の外壁レイヤーへと強引にドラッグ&ドロップした。
「【データ復元:全リソース投入】! ――『絶対拒絶障壁』、再起動!!」
その瞬間、要塞全体を覆うように、幾何学模様の黄金の障壁が展開された。
直後、巨神兵が放った全力の銀光が障壁を直撃する。凄まじい衝撃波が走り、周囲の雲海が一瞬で消し飛ぶが――要塞の装甲は、傷一つついていなかった。
「なっ……我が月の光を、地上の、それも死に絶えた亡霊の技術が防ぐだと!?」
「……ふふ。……驚きましたか。……ゴミでも、使い道次第で……最強の盾に、なるんですよ」
外壁で盾となっていたルナが、黄金の障壁を背に、残酷な笑みを浮かべた。
彼女の傷だらけの体に、障壁から溢れ出した帝国の魔力が流れ込み、一時的な回復を促す。かつて滅ぼしたはずの帝国の力が、今は自分たちの主人を守るための礎となっている皮肉。
「ルナ! セレスティア、リリアーヌ! 盾は俺が支える……! お前たちは、その裏から……最大火力で、あいつの核を撃ち抜け!!」
『……了解ですわ、カナタ様!』
『……主様の、作った、盾……。これ以上、汚させない。……あいつ、絶対、バラバラにする……ッ!』
黄金の障壁を盾に、三人のヒロインが反撃に転じる。
カナタの脳は焼き切れそうになりながらも、復元した帝国のデータを1ミリ秒単位で調整し、巨神兵の攻撃を「反射」へと書き換え始めた。
戦場は、もはや一方的な蹂躙ではない。
過去の遺産と、現代の編集スキル、そしてヤンデレたちの執着が混ざり合い、月の神話すらも喰らい尽くそうとする「大戦」へと進化していた。
だが、その激闘の最中、ハート型の月の裏側から、さらなる「巨大な影」が迫っていることに、カナタはまだ気づいていなかった。
【次回予告】】
第38話:『二つの月。~「偽物の月を、本物が喰らいに来ました」~』
巨神兵を追い詰めたカナタたちの前に現れたのは、第二の月。
月の民の本拠地である『真・月球都市』が、物理的に要塞を押し潰さんと降下を開始する。
「ロード時間」すら許されない超重圧の中で、カナタが下した究極の決断とは――。
【作者よりお願い】
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