第36話:暴走するクリエイティブ。~「私の痛みは、主様の愛(バグ)の一部です」~
カナタの意識は、猛烈な熱量に焼かれていた。
OSの安全装置を全てデリートし、己の脳を直接要塞のメインサーバーに接続した代償。視界には無数のエラーログが血の雨のように降り注ぎ、神経を逆撫でするノイズが脳髄を直接掻き回す。
「……ぐ、あ……っ! ああぁぁぁ!!」
両目から溢れる血が頬を伝う。だが、その激痛と引き換えに、カナタの手には「神の指先」が戻っていた。もはやマウスもキーボードも不要。彼が思考するだけで、世界のレイヤーは歪み、ねじ曲がる。
「【プロパティ編集:透過設定】……! ターゲット、ルナ・ガーディアン! お前の『無敵の装甲』なんて、レイヤーの不透明度を0%にすれば、ただの空気だ……!」
カナタが虚空で指を弾く。
すると、要塞を圧倒していた巨神兵の銀色の装甲が、一瞬でガラスのように透き通った。中身を流れる膨大な月の魔力と、複雑怪奇な回路が、夜空に剥き出しになる。
「なっ……我が装甲が、消えた!? 馬鹿な、これは月光の加護を受けた不滅の……」
「今だ……ルナ!!」
カナタの叫びと同時に、崩れ落ちていたルナが弾かれたように立ち上がった。
その時、異変が起きた。カナタの意識が要塞全体に広がったことで、彼と最も深い絆(執着)を持つルナの感覚が、カナタの脳と「共鳴」し始めたのだ。
「……あ、あぁ……。カナタ様……。貴方の、熱い……苦しい……愛が、私の中に……流れてくる……っ!」
ルナの瞳が、カナタと同じように赤く発光する。
カナタが感じる「編集の演算負荷」という激痛を、ルナが「快楽」として肩代わりする。二人の精神が一つに溶け合い、ルナの魔力はかつてないほどに禍々しく、そして美しく膨れ上がった。
「私の痛みは、主様の愛の一部……。ならば、私はこの痛みごと、貴方の敵を滅ぼしましょう……!」
ルナが影から生み出したのは、巨大な『編集用ハサミ(クロップ・シザース)』。
カナタが透過させた巨神兵の露出した心臓部を目がけ、ルナが音速を超えて肉薄する。
「おのれ、不遜な地上の羽虫どもがぁぁ!!」
巨神兵が咆哮し、その姿を変貌させる。第2形態――『朔月の処刑者』。
透き通った装甲が黒く変質し、巨神兵の背中から、重力を自在に操る六本の銀翼が展開された。周囲の空間がメキメキと音を立てて圧縮され、要塞の一部が自重に耐えきれず爆散する。
「リリアーヌ! セレスティア! その重力場、俺が『レイヤーロック』で一時的に固定する! 0.5秒だけだ、そこで最大火力を叩き込め!!」
『承知いたしましたわ、カナタ様! 命、預けますわよ!』
『……主様と、繋がってる……。熱い……。あのデカい奴、バラバラにして、主様に、捧げる……ッ!』
リリアーヌとセレスティアもまた、カナタとの共鳴の端っこに触れ、限界を超えた出力を発揮する。
リリアーヌの黄金の光が、重力場を無理やりこじ開け、そこへセレスティアが「空間の継ぎ目」を滑るようにして突っ込んでいく。
巨神兵の巨大な槍と、ヒロインたちの捨て身の一撃が空中で激突する。
カナタは脳を焼かれながらも、必死に『オブジェクトの座標』を調整し続け、彼女たちが致命傷を負わないよう、敵の攻撃のベクトルを1ミリ単位でズラし続けた。
だが、巨神兵の奥底からは、さらなる不気味な魔力の脈動が聞こえ始めていた。月の民の真の狙いは、単なる要塞の破壊ではないのかもしれない。
「……まだだ、まだ終わらせない……。俺のレイヤー(仲間)は、一人も『デリート』させねえ……!」
カナタの意識が、さらなる深淵へと潜り込んでいく。
空中要塞を舞台にした神話の解体作業は、地上の全国家が震え上がるほどの規模へと拡大し、地平線の彼方から「新たな勢力」の影も迫っていた。
【次回予告】
第37話:『月と地球のデッドヒート。~「データの残骸の中に、最強の盾を見つけました」~』
巨神兵の第2形態に対し、カナタの脳が限界を迎える。
絶体絶命の瞬間、テツが「ゴミ箱」の中に捨てられていた『あるデータ』の再利用を提案。
それは、かつてカナタが「うっかり」滅ぼした帝国の、最強の防衛システムだった!?
【作者よりお願い】
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