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第35話:崩壊する要塞と、主の怒り。~「俺のレイヤーに触るんじゃねえ」~

空中要塞の外壁が、悲鳴のような金属音を上げて歪んでいた。

 月の守護機人『ルナ・ガーディアン』。その槍の一振りは、単なる物理的な破壊ではない。カナタが構築した「空中要塞」というデータの整合性を、月の理で直接書き換える、いわば『逆編集』だった。

「――が、は……っ!!」

 ルナが三度、吹き飛ばされた。

 彼女の体は、要塞の装甲を突き破り、リビングの目と鼻の先まで叩きつけられる。

 銀髪は血と煤に汚れ、誇り高き聖女の面影はどこにもない。それでも彼女は、折れた杖を支えにして、震える脚で立ち上がった。その視線の先には、窓越しに自分を見つめる、青ざめた顔のカナタがいる。

「……カナタ様、見ないで……。こんな、醜く、ボロボロな私……見せたく、ないのに……。でも……一歩も、通させない……。ここは、私の、居場所なんだから……ッ!」

 ルナの咆哮とともに、彼女の背後から「絶望」を具現化したような黒い翼が展開された。自らの命をまきとして、要塞の防衛システムを無理やり維持する禁忌の「自己犠牲モード」。

「ルナ、もういい! テツ、強制的にルナを『背面レイヤー』に移動させて、俺の背後に隠せ!!」

『ダメです、カナタさん! システムが巨神兵の重力場にハックされてて、ドラッグ&ドロップが効きません! 今、彼女を動かそうとしたら、座標がバグって彼女の存在自体がバラバラになりますよ!』

 カナタは、己の無力さに歯を食いしばった。

 モニターには『権限不足』の文字が冷酷に踊り続けている。

 外では、リリアーヌが巨神兵の銀光を浴びて翼を焼かれ、セレスティアが巨神兵の装甲に指を食い込ませたまま、高圧電流でその身を焦がされている。

「……俺の女たちが、あんなになってるのに……。俺は、画面を眺めてるだけかよ……っ!」

 カナタの視界が、怒りで真っ赤に染まった。

 彼は、テツが「絶対に触るな」と警告していた、システムの最深部にある黒いアイコン――『全レイヤー統合・管理者権限強制取得』に手をかけた。

『カナタさん!? 待ってください! それを使ったら、要塞だけじゃなく、カナタさんの「ハードウェア」自体が焼き切れますよ!!』

「……だったら、焼き切れる前に、あいつを粉々にしてやる。……テツ、OSの安全装置を全部『デリート』しろ。……俺の怒りを、演算処理に回せ!!」

 カナタがアイコンを叩き割る。

 その瞬間、彼の両目から血が滴り、要塞全体が真っ黒なノイズに包まれた。

 

 ――世界が、バグる。

 

 カナタの周囲に、無数の編集ウィンドウが、物理的な実体を持って展開された。

 それはもはや「ソフト」の操作ではない。彼自身の神経が、空中要塞の隅々まで行き渡る神経回路そのものと化したのだ。

「【全レイヤー、ロック解除】。……月の理だか何だか知らねえが、ここは俺の『編集室』だ。……俺の許可なく、俺のレイヤー(仲間)に触るんじゃねえ」

 カナタが虚空を掴み、力任せに横へと引き裂いた。

 すると、要塞の目の前にいた巨神兵の右腕が、まるで「動画のコマ送り」がズレたように、体から切り離された座標へと強制的にワープさせられた。

「な、なんだ……!? 我が腕が……空間ごと、切り取られただと!?」

「……まだ、始まったばかりだ。……これから、一フレームずつ、お前を解体してやる」

 カナタの体から、真っ黒な魔力の奔流が溢れ出し、崩壊しかけていた要塞を再構成していく。

 だが、その背負った負荷は凄まじい。カナタの意識は、猛烈な熱量で溶けようとしていた。

 巨神兵を倒すだけではない。

 月の民の本拠地、さらにはこの世界の「理」そのものとの全面戦争。

 決戦の幕は、ようやく上がったばかりだ。

【次回予告】】

第36話:『暴走するクリエイティブ。~「私の痛みは、主様のバグの一部です」~』

強制権限を取得したカナタの反撃が始まる!

巨神兵の装甲を『透過設定』にして中身を剥き出しにするが、月の守護者はさらなる「第2形態」へと進化を遂げる。

極限状態のルナとカナタが、命を共有する「共感覚シンクロ」に目覚め……!?

【作者よりお願い】

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