第33話:月からの使者(?)。~「私の家をハート型に歪めたのは貴様かぁぁ!」~
夜空に浮かぶ、巨大な真っ赤なハート。
カナタが記念日のデコレーションとして『編集』したその光景は、空中要塞にいたヒロインたちにとっては愛の象徴だったが、宇宙の理にとっては、決して許されない「バグ」そのものだった。
だが、その代償はすぐに、物理的な「怒り」となって空中要塞へと跳ね返ってきた。
「……ん? なんだ、急に画面が重くなったぞ。テツ、どうした?」
リビングのソファで、カナタがモニターのシークバーを動かそうとするが、マウスのカーソルが砂時計のマークに変わったまま、ピクリとも動かない。
『カナタさん! 当たり前ですよ! 「月」なんていうバカでかい天体オブジェクトの形状を丸ごと書き換えたんです。要塞の全リソースが「レンダリング(画像書き出し)」に回されて、今、システムが完全にフリーズしてます!』
「……え、じゃあ今の俺、何も編集できないのか?」
『はい! 処理が終わるまで、スキルの発動は一切不可能です! しかも、この「ハートの月」の衝撃で、月面に隠れ住んでいた「月の民」の防衛システムが目覚めちゃいました! ……来ますよ、特大のやつが!』
テツが叫ぶと同時に、ハート型の月の中央から、一条の「銀の閃光」が放たれた。
それは大気を切り裂き、一瞬で空中要塞の目の前まで到達する。光の中から姿を現したのは、白銀の装甲に身を包んだ、全長数十メートルの巨神兵――月の守護機人『ルナ・ガーディアン』だった。
「――我が家(月)を……こんな、破廉恥な形に変えたのは……貴様かぁぁぁ!!」
巨神兵の頭部から、怒りに震える少女の声が響き渡る。
ルナ・ガーディアンは巨大な銀の槍を振り上げると、要塞の外壁に向けて、一国を灰にするほどの衝撃波を放った。
「……まずい、今の俺じゃ防げない! ルナ!」
カナタが叫ぶより早く、要塞の外壁に三人の影が飛び出した。
「――喧しいですね。カナタ様が心を込めてデザインされた月の形に文句をつけるなど、美的センスのないスクラップは私が『非表示』にして差し上げます」
ルナが漆黒の魔導杖を掲げ、要塞の周囲に何重もの闇の結界を展開する。
巨神兵の放った衝撃波とルナの結界が激突し、空中要塞のリビングが激しく揺れた。
「わたくしも加勢いたしますわ! 月の民だか何だか知りませんが、カナタ様の愛の形を否定するなんて、エリュシオン王女として許せませんわ!」
「……邪魔。その、銀色の、デカ物。……表面が、ツルツルして……鼻につく。……私が、傷だらけに、して……磨き直して、あげる……ッ!」
リリアーヌの放つ聖光が夜空を白く染め、セレスティアが狂気の速度で巨神兵の装甲に取り付く。
本来なら地上最強クラスの三人だが、月の技術で作られたルナ・ガーディアンの強度は凄まじかった。セレスティアが振るう短剣が火花を散らすが、装甲に傷一つつかない。
「ハハハ! 地上の民の魔力など、月の加護を受けたこの装甲には通用せぬ! さあ、その傲慢な要塞ごと、宇宙の塵となるがいい!」
巨神兵が槍を回転させ、周囲の空間を「月の重力」で固定し始めた。ルナたちの動きが、目に見えて鈍くなる。
「くっ、体が重い……!? カナタ様、このままでは……っ!」
「テツ! ロード状況はどうだ!」
『あと5分! あと5分あればレンダリングが終わって、カナタさんの「編集」が復活します! それまで、彼女たちに持ちこたえてもらうしかありません!』
カナタは、動かないモニターをじっと見つめ、拳を握りしめた。
外では、ルナが血を吐きながらも結界を維持し、セレスティアが指の爪が剥がれるのも構わずに巨神兵の隙を突き、リリアーヌが全魔力を注ぎ込んで防衛線を支えている。
カナタがスキルの「処理待ち」で動けない、初めての絶体絶命。
だが、その焦燥の中で、カナタの瞳には静かな怒りが宿っていた。
「……5分だな。わかった。テツ、終わった瞬間に全リソースを『消しゴムツール』に回せ。……俺の家と、俺の女たちを傷つけた報いだ。……月ごと消してやる」
空中要塞を舞台にした、月の守護者とヤンデレヒロインたちの死闘。
カナタの「編集」が再起動するまでのカウントダウンが、静かに始まった。
【次回予告】
第34話:『ロード終了まで残り3分。~「私の背中は、カナタ様だけのものです」~』
巨神兵の槍が、ついにルナの肩を貫く!?
絶体絶命のヒロインたち。その時、カナタの元に「処理完了」の通知が鳴り響く。
世界を書き換える「神の手」が、月の使者に下す無慈悲な修正とは。
【作者よりお願い】
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