第32話:要塞の「一周年記念(?)」。~「主様、お祝いに、月をハート型に編集しておきました」~
ヤンデレ化した要塞の暴走を(物理的かつ精神的な愛撫によって)鎮めた翌日。
空中要塞のリビングには、奇妙な静寂と、それ以上に濃密な「お祝い」の空気が漂っていた。
「カナタ様。本日は、この要塞が完成して……いえ、私たちがこうして一つ屋根の下で結ばれてから、記念すべき節目でございます」
ルナが、いつになく艶やかなドレスに身を包み、銀色のトレイに乗ったシャンパングラスをカナタに差し出した。その瞳の奥には、昨夜の要塞との「浮気(壁を撫でた行為)」を未だに根に持っているような、鋭い光が微かに混じっている。
「記念日? そんなのあったか? ……まあ、とりあえず落ち着いたんだし、何かパーッとやるのはいいけどな」
カナタの呑気な返答に、エプロン姿のセレスティアと、豪華な花束を抱えたリリアーヌが食いついた。
「主様! 記念日の『お掃除』は、私が責任を持って行います! 部屋の隅々まで、原子一つ残さず磨き上げ、主様の寝室を世界で最も純粋な聖域へと作り替えますわ!」
「あら、掃除なんて地味なことですわ、セレスティア様! カナタ様、わたくしからは王家に伝わる秘蔵の『星屑の打ち上げ花火』を提案いたしますわ。空を焦がすほどの光で、わたくしたちの愛を世界に知らしめるのです!」
三方向からの「お祝い」合戦。
このままでは再び要塞が嫉妬で震えかねないと危惧したカナタは、空に浮かぶ巨大な月を見上げ、ふと思いついた。
「……花火もいいけど、もっとこう、ずっと残るものがいいよな。……よし、テツ。ちょっと『月』のレイヤーをアクティブにしてくれ」
『……え? カナタさん、まさか……。月って、あの夜空に浮かんでる本物の月ですよね?』
「ああ。ちょっと形が味気ないだろ? せっかくの記念日なんだし、俺たちの要塞から見える月を、もっと『お祝い』っぽくデコレーションしようと思ってな」
カナタは【空間編集:マクロスケールモード】を起動した。
視界に展開される、銀河系の階層構造。彼はその中から「月」というオブジェクトを選択し、画像編集ソフトで図形を変形させる時のように、シークバーをスライドさせた。
「【形状変更:ベジェ曲線編集】……ターゲット、月。……よし、これをこうして、端を丸めて……真ん中を凹ませて……はい、完成。『ハート型の月』だ」
パチン、と指を鳴らす。
その瞬間、夜空に浮かんでいた真ん丸な満月が、物理法則を無視してグニャリと歪み、完璧なまでの「真っ赤なハート型」へと変貌した。
「……わぁ、素敵ですわ! カナタ様、わたくしへのプロポーズですのね!?」
「いいえ、あれは私への『永遠の愛』の証明に決まっています!」
「……磨き……甲斐が……あの大きなハート、私が全部磨いて、もっとピカピカに……ッ!」
ヒロインたちが歓喜に沸く中、要塞のモニターを監視していたテツだけが、顔面を蒼白に染めて絶叫した。
『カナタさん! 何てことしてくれたんですか!? 月の形状が変わったせいで、質量のバランスが崩壊してます! 地上の潮汐力が狂って、世界中の海で数十メートルの高潮が発生してますよ!!』
「……え? マジで?」
『マジですよ! それどころか、月の自転速度まで変わって、世界中の天文学者が「神の怒りだ」ってパニックになってます! ほら、コメント欄を見てください!』
モニターには、地上の混乱ぶりが映し出されていた。
突然ハート型になった月を見て、人々はひざまずいて祈り、王国の軍隊は「新型の質量兵器だ」と勘違いして全軍に非常警戒態勢を敷いている。
『【悲報】空がバグった。月が恋愛脳になったんだが』
『今の操作、間違いなく空中要塞のアイツだろ……』
『潮が満ちすぎて、俺の家が沈みそうなんだが助けてくれw』
『もうこれ、世界の終わりだろ(歓喜)』
世界中を天変地異に陥れながら、カナタは「うわ、意外と影響大きいんだな」と頭を掻いた。
「……仕方ないな。テツ、地上の重力設定だけ一時的に『無視』するレイヤーを重ねておけ。月はそのままの方が、あいつら(ヒロイン)も喜んでるしな」
カナタの「うっかり」は、ついに天体の理すらも、ヤンデレたちの機嫌を取るための「インテリア」へと変えようとしていた。
【次回予告】
第33話:『月からの使者(?)。~「私の家をハート型に歪めたのは貴様かぁぁ!」~』
月の形状を変えた影響で、月面に隠れ住んでいた「月の民」の王女が怒りの殴り込み!?
「住居不法侵入(デザイン変更)」を訴える月王女に対し、ルナたちが放った一言。
「カナタ様がデザインされたのです。貴女の家は、今この瞬間からカナタ様の所有物(ゴミ箱)ですよ」
【作者よりお願い】
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