第26話:要塞の「ゴミ捨て場」から、とんでもないものが這い出してきた件。
空中要塞の最下層。そこは、カナタが【空間編集】や【デリート】を行った際に出る「データの塵」が溜まる、いわば世界のゴミ箱だった。
本来、デリートされた存在は次元の狭間へと消え去るはずだ。しかし、カナタのスキルがあまりにも強大すぎたために、消しきれなかった情報の断片――無念を残して滅ぼされた帝国の兵士たちの怨念や、行き場を失ったS級ボスの魔力残滓が、その暗闇の中でドロドロと混ざり合い、発酵を始めていた。
「……テツ、最近どうも要塞の処理速度が落ちてる気がするんだよな。お部屋の模様替え(帝都消滅)のあとから、システムの挙動が重くないか?」
リビングのソファで、カナタはテツが管理するホログラムモニターを指でなぞりながら首を傾げた。
画面には、処理の遅延を示す赤いエラーログが、まるで警告の血しぶきのように点滅している。
『そうなんですよ、カナタさん。デリートしたはずの「ゴミ箱」の容量が、なぜか物理的な質量を持って膨れ上がってるんです。……まるで見えない何かが、中で「再生」しようとしているみたいな……』
テツが青ざめた顔でキーボードを叩いた、その瞬間。
要塞全体を、地鳴りのような咆哮が突き抜けた。
――ズズッ、ズブブブッ……。
最下層の排気ダクトから、粘着質な黒い泥が溢れ出す。
それは、目も鼻も口もデタラメな位置に張り付いた、バグの怪物だった。帝国の兵士の叫び声を上げながら、ケルベロスの爪を振り回し、空間を喰らいながら這い上がってくる。
「……は? なんだよ、あのキメラ。俺、あんなの作った覚えねえぞ」
「カナタ様、お下がりください。……あれは、貴方の完璧な世界を汚す『消し忘れ』です。私が今すぐ、根絶やしに――」
ルナが杖を構え、殺意を込めた魔力を練り上げようとした、その時。
背後から、凄まじい勢いで「何か」が飛び出していった。
「――主様の、お部屋を……汚させない。汚させない汚させない汚させないッ!!」
それは、地下で掃除に没頭していたはずのセレスティアだった。
彼女はルナの制止も聞かず、かつて聖剣を振るったその手で、今や「殺菌力の極めて高い特製雑巾」を握りしめている。
彼女の瞳には、正気と狂気が交互に明滅する、異様な輝きが宿っていた。
「セレスティア!? 貴女、勝手に『教育房』を抜け出して……!」
「ルナ様、邪魔をしないでください! このゴミは……主様の足元を汚す不浄です。私が磨き上げる。私が、消去するのぉぉ!!」
セレスティアは、バグの怪物の真っ只中へと飛び込んだ。
怪物が放つ、触れるだけで精神を汚染するノイズを浴びながら、彼女は狂ったように雑巾を振るう。
「【聖女の浄化】! 輝け、輝け、輝けぇぇ!!」
それは魔法ですらなく、執念そのものだった。
セレスティアが「拭う」たびに、怪物の肉体を構成するバグデータが、強引に初期化され、純粋な魔力へと分解されていく。怪物の爪が彼女のメイド服を引き裂き、白い肌を傷つけても、彼女は痛みすら快感に変えているかのように笑い続けた。
「……あ、はは! 綺麗になっていく……。主様の世界が、私の手で……ッ!」
その姿は、かつての高潔な聖女とは程遠い。
だが、その異常なまでの献身は、皮肉にもルナの専売特許であったはずの「狂信的な忠誠」に肉薄していた。
「……ちっ。調子に乗らないでください、その程度の掃除、私なら一瞬です」
ルナが苛立ちを露わにし、さらに巨大な魔法陣を展開する。
要塞のリビングは、今や「どちらがより完璧に掃除できるか」を競い合う、二人のヤンデレ聖女による魔力の暴風域と化していた。
「……なあテツ。あいつら、掃除にしては気合い入りすぎじゃないか?」
『……カナタさん、呑気すぎますよ。……でも、おかげでゴミ箱の容量がどんどん減っていきますね。……物理的な掃除じゃなくて、存在の抹消合戦になってますけど』
カナタの「うっかり」が生み出したバグの怪物は、皮肉にも、彼への執着を深めた二人の聖女による、熾烈な「正妻(掃除係)争奪戦」の火に油を注ぐ結果となった。
バグを全て「掃除」し終えたあと、ボロボロになったメイド服で、頬を赤らめながらカナタを見つめるセレスティアと、それを般若のような顔で見下ろすルナ。
空中要塞の日常は、ますます平穏から遠ざかっていく。
【次回予告】
第27話:『要塞の「入居希望者」が、ついに玄関を突破した件。~「今日からここで、同居させていただきますわ!」~』
バグ騒動の隙を突き、地上から「第三の女」が乗り込んできた!?
それは、カナタが以前の配信で「うっかり」助けてしまった、隣国の世間知らずな王女。
ルナの殺意が、ついに要塞全体を凍りつかせる……!
【作者よりお願い】
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