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暇だから言ってみた。「光あれ」  作者: アインソフ
ようこそトゥシタへ
8/24

獣医に何がわかる

「と、とにかく、話を続きましょうか。どうやってここに来られたんですか?」


ノルガーが飛び出て隙ができたのを逃さず、ラシオンが話題を変えようとした。


「いや…その前にな、お前は何しに地球に来ていたんだ?」


「それはもちろん父上に会いに、に決まっているでしょう?」


「ただそれだけのことで、その大法術とやらを発動したのか?」


信じられなそうな顔でそう聞き返す天城に、ラシオンが真剣な顔で答えた。


「父上は『ただそれだけ』としか思われないかも知れませんけどね、私たち4人はここでまた家族になれたのに、父上だけがここにいないと思ったら…きっと、寂しい思いをしているに違いないと思ったので、せめてみんな再び家族になって元気にしているから、心配しなくてもいいということだけでもお伝えしたかったんです」


「そうか…」


さまざまな思いが込み上げてきて、言葉が出ない気がする天城。


「だから、この世界の法術を用いれば、一人だけ、会いたい人のいるところに行けるとわかってですね、ちょうどその条件が満たされる100年に1度の機会が到来していたので、準備に色々頑張って、私が代表で行ってきたんです…父上?」


「あ…」


知らぬ間にまた大粒の涙を流していたのに気づき、天城は手で拭きながら誤魔化そうとした。


「すまないね。老けてきたら、年甲斐もなく涙もろくなってな」


イーシャが静かに天城に寄り添って、ハンカチで涙を拭いてくれた。


「いいえ、嬉しく感じています。お父様も私たちのことを、大事に大事に思われているという証ですから」


「そうかい…ありがとう。

 家族だと思って、愛していたのは私の一方通行じゃなかったとわかっただけでも、ここにきた甲斐があるね。こんなに嬉しいことはないと思う。

 しかし…ねぇ…

 ラシオン、地球に来て何かおかしいと思わなかったか?」


泣き止んだ天城の突然の質問に、ラシオンも頷いた。


「そうですね。彼方の父上のお屋敷に到着してみたら、なんということか、猫時代の3人が生きていて、こちらに4人全員転生しているということはとりあえず隠すしかなかったけどー」


「まあ!」


驚きの声をあげるイーシャ。

こちらに全員転生しているというのはもちろん地球では全員亡くなった後だということなんだろうけど、どういうことかラシオンが法術で転移してきた『天城の現在』では、ラシオン以外の3匹はちゃんと生きている。


「それにラシオン、お前には既に言っているけど、地球ではお前が旅立ってから1年しか経っていないのに、ここでのお前は70歳になっているって?」


「はい。ちなみにノルガーは65歳で、イーシャは…」


「はい、そこまでですよ、陛下?」


にこやかに微笑みながらラシオンの話を遮るイーシャ。

地球ではない惑星の、人間ではない種になってもやはり女性にとって年齢のことは敏感なことなのかなーなどというのは、さておき、これはどう考えても辻褄が合わないと天城は思った。ラシオンがあの世へと旅立ってから1年しか経っていないのに、ここのラシオンは70歳で、地球に生きている全員がここに転生しているということから考えると、その答えは多分、一つに収斂するのではないか。


「地球とここ…なんだっけ、ツイータだったか?二つの惑星は、異なる時間帯に存在しているかもな」


「トゥシタです。なんかとんでもなく横暴な仮説だと思いますけど、実際私もあちらで生きているみんなに会ってきたんだから、父上の考えに一理あると思いますね」


「本当にそうだったら、少し心配ですね」


笑顔でラシオンを脅かしていたイーシャが、何か気になることでもあるのか真面目な顔でいった。


「何がだ?」


「陛下以外のみんなが向こうの世界にまだ生きているとのことでしたね。

 もし、このままお父様が向こうに帰還できなくなれば…あちらの私たちは、どうなるのでしょう。」


「あ」


もし天城が地球に戻れなくなる場合、猫たちだけで残されたノルガーたちはどうなる?

3匹全員老猫だから、毎日飲ませるお薬も、皮下点滴も、それ以前に餌も水も貰えなくなって、ひいては…


「私も先ほどからその件が気になっていたけど…どうしてなのか、心配にはならないな」


「どういうことですか?まさかそのままなくなって、ここに転生できるとでも…?」


怪訝そうに聞いてくるラシオンを、天城が叱った。。


「こら!縁起でもないことは言うんじゃない!私をいったいなんだと思うんだねお前は!

 …そんな非情なことではなくてな、なんか…その気になればいつでも戻れる、という話を聞いたような気が…」


「「え?」」


これまたとんでもないことを…と言いたそうな顔になる王夫婦。

ラシオンがあっけなそうな顔で口を開いた。


「聞いたって…誰にですか?」


「いや、それが、わからないんだ。

 でもな…さっき、こちらにくる直前…おやつの箱を仕舞おうとクローゼットを開けていたんだ。こう…」


天城がそういいながら思わずクローゼットの扉を開く真似をした瞬間、応接の間の扉が開かれ、ダンボール箱を両手で持ったノルガーが飛び入ってきた。


「姉上!アーシャ姫!持ってきた!あのおや…ドワアッ!?」


「ノルガー、さっきからいきなり行ったり来たりで本当に騒がしい…いぃぃぃぃぃぃぃ?」


「ち、父上?これはいったい!?」


「きゃああ!アーシャ?大丈夫ですか!」


みんなの目の前で、虚空から火花を散らしながら一つの扉が現れた。


「!!ノルガー!早く、扉を閉めるんだ!」


「は、はい!」


みんなが慌てふためいている中、真っ先に我に帰ったラシオンがそう指示を出した。多分、外にいる警備兵やそれ以外の人たちにはまだこの現象を見せてはいけないと判断したようだ。

部屋の中の様子を見なくても、もう既に騒動を起こしたんだから何事かが起きたと勘付かれただろうけど…


「陛下!何事ですか!」


扉の外から何があったか聞いてくる兵士の質問に対し、適当に答えておけ、とラシオンがノルガーに目配りをした。


「いや、大したことではない。お前たちは気にしなくても良いぞ。配置に戻れ」


「は…はい。承知いたしました」


どこか納得できないといいたそうな声ではあるけど、王室一家が集まっているプライベート空間でのことを「気にするな」と言われたら従うしかないのだ。部屋の中でこれ以上騒ぎ出さない限りは。


「…で

 いったいなんなんだこれはぁぁぁ?」


外に聞こえないように、大声を出さずに叫ぶという奇妙な技術を披露するラシオンを見て、これは私も同じように返答するべきかな、と戸惑ったが、天城は普通に答えることにした。


「え?お前たちの法術とかなんとかじゃない?ノルガーが何かやったかと…」


と言い淀んだ瞬間、扉も火花も消えてしまい、元の何もなかった空間だけが残された。

またポカン、と口を開いてしまう5人。


「いや、少なくともこの中に法術が使える者はいませんよ。

 魔術なら、イーシャに嗜みが少しあるぐらいですけど…お前、何かした?」


「するわけございません!私だって驚きましたもの」


不測のことから我が娘を守ろうと、ぎゅっと抱きしめていたイーシャがとんだ濡れ衣に軽く怒って見せるところ、抱かれていたアーシャがケロッといった。


「おじいさまがやったんじゃないの?」


「「「「え"?」」」」


子供の強か故のことか、大人たちが全員あたふたいる中、アーシャは何かに気づいていたようで、平然と入っていた。


「さっき、おじいさまがドアを開くマネをしたじゃない?そしたらあのドアは現れたの」


ぐいっ、と王室の大人3人の疑わしい視線が天城に向けられた。


「わ、私だって知らないよ!

でも、こう…か?」


天城はアーシャがいった通り、なんかファントマイムでもやるかのように、ドアノブを握り、回し、ドアを開く仕草をしてみたが先の火花散らす扉どころか、何も起きない。


「勘違いだったか…」


「まあ、子供の言うことを真に受けてもな」


「おじ上、嫌い!」


「はいはい」


仲良く(?)騒いでいるラシオン家族に苦笑しながら、天城はアーシャのいったことが間違ってはいないが、何か重要なものが欠けているような気がした。

なんなんだろう、動作に何かが足りない?扉を開く方向?前に引いてみたり、奥へと押してみたり、引き戸のように横に開いてみたり、ドアノブの回し方を変えてみたり、レバーを押してみたり色んな開け方をしてみたけど、何も起きていなかった。

そうしている自分を見つめるラシオンたち4人の視線を感じて、少し恥ずかしいと思いながらも、天城はあることに気づいた。

動作じゃなくて、もしかすると…


「イフタフ・ヤ・シムシム(開け、ゴマ)」


― パアアア


部屋の真ん中に、何もなかった空間から先ほどの扉が、また現れた。





時々、「猫は愛など、高次元な感情は理解できないし、しない」とおっしゃる獣医の方々がいらっしゃいますよね。


天城家族5人で物申させていただきます。


「「「「「獣医に何がわかる!(シャー)」」」」」

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