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すばらしきは魔術なり

「で、個人的にお勧めなのは太陽光発電なんです。

 いま私の屋敷で使っているのがあれで、燃料費などいらず、維持と管理にかかるコストも低ければ、環境にもやさしい、というか悪影響がほぼありません」


「環境への悪影響?」


専売事業は成功的なスタートを超え段々売り上げが右肩上がりで、リゾートホテルも順調に動き始めたごろ、セレステは次の段階として考えていた電気の補給へと歩み出そうと思い、関連人物たちと会合を持っていた。


「はい。地球では化石燃料が産業化の動力となっていて、今でも発電とそれ以外の分野で使われているけど…

 その反動で、200年ちょいの間、自然環境を深刻に破壊してしまいました。

 水も大気も汚染され、平均気温は上昇してきて、このままでは地球の文明が崩壊し始める危機が訪れるまで、あと30年も残っていないとか…あれ?」


「え?レギス・セレステから、前に似たような話を聞いたような…?」


セレステの説明を傾聴していた、宮廷魔術師長ナイランが怪訝そうに聞いた。

確かに、この間大臣たちの前で地球の技術を持って来られるのは、自分の寿命の限界があるから後30年しか残っていないといったことがある。

しかしそれがこういう形で偶然の一致を見せるとは、セレステとしても想像もしていなかったことだった。


「と、とにかく、要は今考えられるもっとも安全かつ綺麗な発電方式は太陽光発電だから、それの研究開発に投資したいということです。

 今すぐ使いたいところには私が太陽電池パネルと関連装備一式を提供すれば済むことではありますけど、それじゃ技術が定着しない。

 持続できる産業として成立してもらわないと、困りますからね」


「そうですか…

 ちなみにお聞きしますけど、太陽光以外の発電方式は?」


「化石燃料を使う火力、巨大な風車を利用する風力、太陽の『熱』を利用する太陽熱式、原子力…いや、これは考えない方がいいでしょう。

 とにかく、色々ありますが…」


「が?」


「効率がくそ悪い」


「え?」


「色んな方法があるように見えてもですね…

 あれら全部、同じ発電方式ですよ?

 動力で、熱を発生させて、それで水を沸かして、その蒸気でタービンを回して…

 バカじゃないの!?」


「……」


魔術師長と商工大臣、宮中魔術師たちと技術官たち、そして魔術師長の夫である魔術学校の学長までもが集まって、まるで講義でも受けているかの雰囲気だった大会議室。

いきなり怒り出すセレステの気持ちにはわかりづらいところがあるけど、とにかく効率が悪いということは確実に理解できていた。


「その動力源から直接発電する方法はなかったんですか?」


「いや、まったく専門外のことだから、本職が聞いたら怒るかもしれませんけど…

 全く性質の違うエネルギー同士の変換だから、たぶんそれしかなかったかも。

 とにかく、それが気に入らない上に安全かつ綺麗ですからね。太陽光。

 太陽光はただで1年中注がれているから、燃料費もゼロですし」


『ただ』と『費用ゼロ』

今すぐにでも誰かが大会議室の扉を蹴っ飛ばして飛び込んできそうな言葉の連続だと思い、商工大臣は思わず笑ってしまった。


「で、とりあえずは太陽光発電機を提供しますから、魔術師の方々と技術官の方々で分析研究して欲しいところです。

 これには、魔術学校にも協力を求めたいと思って、学長殿にも同席を頼みました。

 研究費と必要な資料はこちらから出すので、学長には人材の推薦をお願いしたいと思います」


「いやいや、それは私が学長を辞職して支援したいぐらいですね」


「あら、私だって宮廷魔術師長をやめて支援したいのを我慢してるのよ?」


などとやりあっているナイラン夫妻を見て苦笑しながら、商工大臣が言った。


「研究熱心なのはいいけど、あなた達二人には国王陛下に任命された重責があるじゃない。

 それをそんなに軽くポイ捨てしたらねぇ~

 レギス・セレステ、研究支援の件は、承知いたしました。

 でも、ただの技術開発の話なら、わざわざ私にまで同席を頼む必要はなかったんでしょうね?

 レギス個人の事業領域ではないなにかの…」


意味深な笑みで話しかける商工大臣に、セレステもまた、似た様な表情で応酬した。


「さすがお察しがいい。

 そうです。これはただ家々に設置する発電装備の話ではありません。

 より安定的に、大規模に供給するためには、国家が主導し、管理しなければなりません。

 そう、国家が管理して、国民に供給する産業…」


‐バタン


「税収の話をしている気がした!」


大会議室の扉が勢いよく開かれ、誰かが叫びながら飛び込んできた。

その場にいた皆が驚いてそちらを向く中、そちらを見ていないのは笑っている商工大臣と、額に手を当てているセレステだけだった。


「いや、財務大臣殿、あなたの出番はまだまだですからね?

 研究が成果を出し、全国に普及するのはまだまだ未来のことだから。

 それに、税金じゃなくて、料金になりますけど?」


「まだまだということは、ゆくゆくは、ということでもあるでしょう?

 名称など、副次的な問題ですし」


屁理屈ではあるが、セレステにとってはどうでもいいことだから訂正する気もしない。


「はいはい。そういうことにしましょう。

 とにかく、話を続けたいから適当に座ってください。

 話を続けますと、まずは発電技術をこちらの技術として消化するのが先決課題ですからね。

 とりあえずは私の道楽ということで、私財で研究を進めたいところです」


「将来的には国家産業になるのに、私財で研究、ですか?」


商工大臣の質問に、セレステが答えた。


「まあ、将来的には、という話ですけどね。

 国費を費やしたのに結果が出せなかったら、色々と困るでしょう?

 成果を出せなかった研究者への非難とか、国王を後ろ盾に勝手に遊んでいるという嫌味とか」


その答えに、商工大臣も『確かに』と理解できた。

研究費も、研究者も国家の資源を使って結果が出せなかったら攻撃の口実になりかねないが、民間の研究者のパトロンになって私財で支援したとなると、お金持ちの道楽ということで済む。

宮廷魔術師と技術官を動員しても、『少し諮問を求めただけ』という抜け道ができる。

彼女のそばで、財務大臣がほくほくな顔で頷いていることからも、そんなことを考えているのが十二分わかる。


「ということで、今日のこの会合はあくまでも私個人の『遊び』に付き合ってくれる研究人材の紹介を有識者に頼んだ、ということになりますよ。

 成果が出た暁には、『こんなのが出来たので、お目汚しとでも』と献上するまでのこと。

 皆さん、いいですね?」


特に、異議など唱える由もない。

商工大臣がどうして私財でそこまで、と聞いても


「困るほど稼ぎまくっているのに、地球に持っていけるわけでもないから…

 ここで費やすしかないでしょう?」


と答えるだけ。


後で財務大臣は、商工大臣にこう語った。


「あれで物欲がないように見えるって?

 あなたも、まだまだですな。

 王父卿は、欲がないわけではありません。

 むしろ、恐ろしいほど巨大な欲の塊なんです。

 一人の力で世界を変えようとする、それがどれだけ物凄い欲なのか、わかりませんか?」


***


「しっかしぃ~

 発電の研究をするとなると、まず電気の概念から確立しなければならないけど。

 魔術師のみなさんに聞きますけど、電気とか電撃とか、そういう系統の魔術がありますか?」


一応大臣たちは公務に戻って、魔術師たちと技術官たちが残っている会議室でセレステが続けた。


「とりあえず、その電気というエネルギーの性質から理解しなければならなそうですが」


魔術学校学長、バズデリ・ナイランのその指摘で、セレステはそういえばそれが先かな、と気づいた。


「えっと、電子の移動によって生まれるエネルギーといっても…

 原子理論は確立しているのかなここ…

 一番わかりやすい現象と言えば、やはり稲妻ですけどね」


「稲妻?」


「はい。空と大地の間で起きる電子交換による現象ですから、もっともわかりやすい説明と思いますが…」


「なんだ。それならそうと、最初からおっしゃってくださったらよかったじゃないですか」


「え?」


「アロイヲト」


魔術師長がなにか不思議な言葉を口にすると、彼女の掌にパチパチとはじける、球状の稲妻のような物が現れた。


「電撃魔法!?」


「フルゲ系魔術の基礎、アストラぺです」


なぜ魔術の存在を、今日という日まで気にしていなかったのか。

セレステは、猛烈に後悔していた。


「そのフルゲ?という魔術は、どういう原理で発動するんですか?」


「そうですね…簡単に説明すると、互いに惹かれ合う、フォスとスコタという目に見えない力の根源が存在して、術者はミヒの力でスコタをフォスにくっつけ合わせて…」


「…電子と正孔かよ!!!!」


「え?」


「いや、たぶん同じ概念の地球での名称ですよ。

 すばらしきは魔術なり!」


「あ、ありがとうございます?」


意外の事実で取り乱しているセレステと、どう反応すればいいかわからずに当惑している魔術師長だったが、とにかくこれ一つは確かになったと、セレステは思っていた。


電子理論から説明せずに済む。


「なんだか、地球の技術を移植するために魔術理論を齧る必要がある気がしました…」


「おお、それはそれは嬉しいことをおっしゃって。

 我が魔術学校の門戸は、いつでも誰にでも開かれております!」


バズデリ・ナイランが大喜びで飛びついたが、セレステは苦笑しながら返答した。


「いや、魔術学校に通っても魔術は習得できそうにないですし…

 基礎理論だけでいいんです。地球の技術と似た様なのはないか、比べてみたいだけですから」


それを聞いてガッカリした学長だったが、セレステとしては別に本格的に魔術を学ぶ気はなかった。


『この年になって学んだって頭に入って来なさそうだし、もし習得できるといってもだ…

 それでなくても謎の力を持っているのに魔術まで?どこの中二病チート設定だよ』


「とはいえ、一人で齧るだけでは分かるものも逃してしまうこともあるでしょう。

 学長殿、あなたに頼みたいことがあって近いうちに魔術学校を訪問したいと思いますが、アポとっていただけますか?」


「はい!さっき言いました通り、いつでも!」


「ありがとうございます。ではスケジュールを確認して、訪問できる日を打診しますね」


「ええ、ご連絡を待っておりましょう」


学長が嬉々としているのをみたところ、たぶん宮廷魔術師たちに試演してみせたことの二の舞になりそうだ、と思いながら、セレステは魔術学校に贈る地球産の『研究資料』を物色し始めた。

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