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謀ったな!?

「…いくらだって?」


専売事業を発足してから1ヵ月目になったある日。

王国御用達になったのをきっかけに、『専売公社セレステ』と名を改めた、元『黄金の樽』商会に売上げ報告を聞きに来ていたセレステは、商会長のダランマ・ルイナからの報告を聞いて、何か聞き間違いなのでは…と自分の耳を疑っていた。


「はい。諸般の経費と当商会の配当分を除いて、閣下にお納めいただく純受益は…

 今月だけで、5千350万フェリでございます」


「…それ、売り上げじゃないな?」


「はい。純受益です」


そう付け加えるルイナは、今にでも泣きださんばかりの顔をしていた。

聞けば、今月の受益だけで商会のこの5年間の受益を軽く超えているとか。

いくら嗜好品に飢えている世界とはいえ、おやつだけであんな受益が?とセレステはおったまげていたが、19世紀イギリスの紅茶の税収が当時GDPの10%を収めていたことを考えると…別に、おかしいことではない。


「良くやってくれた。

 頑張ってくれた君たちへの労いとして、私の取り分から20万フェリを賞与として下そう」


「か、閣下!?」


「何も言うな。稼げた時の気前だ。

 ただ商品を提供しただけの私からの感謝のしるしだからな。

 君にだけ下すものではないぞ?一所懸命働いた職員たちとも、分け合うように」


「は、ははーっ!」


泣き出しそうだったルイナは、もう我慢できず号泣しながら、深々と頭を下げた。

商会長室のソファからゆっくりと立ち上がったセレステは、そんな彼の肩を叩いてやりながら言った。


「これからさらに忙しくなる。覚悟しておくがいい」


「かしこまりましてございます!」


商会の職員総出で送られて商会から出てきたセレステを、商会前に停車していた〇-ルスロイスと、その運転席の前に後ろ手で立っているレーテスが待っていた。


「待たせたな。王宮へ」


「はっ」


レーテスはもう運転に慣れきって、セレステ自らスポーツカーを駆る時以外にはこのレーテスの運転するクラシックカーでお出かけするようになり、もはや王都の名物になりつつあった。


「しかし、黄金の樽って、悪趣味な名前だったじゃないか…」


「はい?」


後ろ座席に深々と身を預けたセレステがつぶやくと、自分に話しかけたのかと、レーテスが答えた。


「あ、すまん。こっちの話だ。

 気にしなくていいよ」


「はい」


黄金の(ゴールデン・オーク)

いくらOAKとORCだから英語では違とは言え、フーマニタにオーク(ORC)と呼ばれ、虐殺対象になっていた彼らについていていいような名前ではない。

たとえトゥシタの言語ではそうではなく、英語でも発音が違うといってもだ。


『カタカナでは同じではないか!気持ち悪い!』


という理由は伏せておいて、『レギス・バシ・セレステの庇護の元にある商会』という意味合いだと説得してしぶしぶ改名させたわけだが、今になっては「セレステ様の指示に従ってよかった」と喜んでいるどころだった。


「しかし、短い間に本当に上達したな?運転。

 そのドライバー制服も、よく似合うぞ」


「はっ、みんなお館様のおかげです」


2か月弱の期間、レーテスの運転実力は、世辞ぬきでも本当に上達していた。

地下室でのゴーカートでの練習から初めて、テンゲルを手に入れてからは事故る心配のないところでいっぱい練習したとはいえ、ここまで上達したのはやはり彼の真面目さによるものだろう。


「あの脳筋には、君の半分の半分でいいからその真面目さを学んでほしいけどね」


「…兄がバカでもうしわけございません」


あれこれいいながら商人地区を抜け、貴族街を走って、セレステの自動車は王城前に到着していた。


「レギス・セレステのご到着!財務大臣様に伝令を!

 よくぞいらっしゃいました!どうぞお入りを!」 


商会で売り上げの報告を聞いてから王宮を訪ねるとアポを取ってはいたが、思ったより派手な警備兵の反応に、セレステは怪訝に思いながら城門をくぐって王宮へと進んだ。


「車の前で不動姿勢で待機しているの、きつくないか?

 少し自由にしていていいよ?」


「いいえ、近衛隊時代に比べれば容易いことです」


「あ、そう?」


ドーベルマン・カニセイドの彼は、生まれつきでいい体のラインをしている。

まるでモデル体形だから、素材を生かしてみようというちょっとした遊び心から、自動車に合わせてフィットのいいドライバー制服、正確にはダブルブレステッドジャケットにタイトな乗馬パンツ、ロングブーツという服装を着せたら…

そのままキリッとした表情で運転席の前に後ろ手で待機していると、これが絵になり過ぎて街でも王宮でも、通りすがりのヒトたちが男女問わずつい目を奪われてしまうのだ。

…まあ、トゥシタは同性同士も普通のようだから。


『主の私は冴えないおじさんだというのにね~いいな~美男子は』


そんな他愛のないことを思いながらレーテスが開いてくれたドアから自動車から降り、王宮のエントランスに入ろうとしたら、向こうから一匹のライオンが、凄まじい勢いでこちらに向かって一直線で突進してきていた。


「ひいい!?」


「レギス・セレステェェェェ!愛していますよ!」


突進して来てそのままぎゅっと、セレステを抱きしめては持ち上げて、くるくる回りながら踊り始めたのはライオンではなく、リオネア(ライオン獣人)の財務大臣、マハッサ・ゲリエ・パールそのヒトだった。


「いや、遠慮させていただきます、コミス・ゲリエ!ちょっとはなしてぇぇぇ!!」


それでなくてもレーテスのことをはぁはぁ言いながら見ていた宮廷の腐…のレディたちに、いらないオカズを提供したくないセレステの必死の叫びは、虚しく空へと散っていった…


「ああもう!いらない誤解を招くような行動はやめてくださいよ!」


「いいえ!このマハッサ・ゲリエ、あなたにならこの体を捧げてもいいと…」


「おだまり!」


慌てて財務大臣の口をふさいだが、まあ、ことすでに遅し。

腐…のレディたちにはもう、まあ、あれなことに…


「ゲリエ・メアのお墨付きですわ。

 『女性となら許しませんけど、殿方との浮気は目を瞑ってあげる』と」


財務大臣の後を追ってきた商工大臣のコミス・バリネレ・イトーナ・メアが、コロコロ笑いながら言った。

…なんだか、目は笑っていないというか、獲物を狙う野獣のように燃え上がっているのがやけに怖いけど。


「なにをいうのかなこのヒトはぁぁぁぁぁ!」



エントランスでの騒動をかろうじて落ち着かせ、会議室に来た3人を他の大臣たちと宰相、そして王が待っていた。


「とんだ災難だったな、王父卿」


にやにや笑いながら話しかける王に、セレステは心の中でぶつくさ言いながら礼をした。


「陛下に置かれましてはご機嫌麗しゅう。

 大臣方におかれましても、ご壮健のことと存じます」


3人がそれぞれ着席すると、すぐ内務大臣が話しかけていた。


「公社からの報告は、こちらにも入っていました。

 わざわざ商会に寄らなくてもよかったでしょうけど…

 まあ、王父卿の御用達ですから、自ら寄られるのも、いいでしょう」


規律を重んじる内務大臣としては先に王を謁見するのが礼義ではないか、といいたいところだろうけど、セレステも、王本人も、そんなことなど全然気にしていない。

昨日だって、白亜館にある別邸で浴衣一枚でだらだらしていた王で、今日最初の売り上げ決算があると知っていたから商会に先に行って構わないと言っていたんだから。

だからといって、王と宰相に次ぐこの国の第3人者である内務大臣を無下にすることはできない。


「いやいや、これはとんだ不敬を仕りました。

 最初の決算だったので、期待が高まってしまい、つい。

 何卒、ご容赦を」


『面倒臭いけど、社交辞令ってのがなー』


どうせ言葉のやり取りなので、内務大臣もそれ以上は何も言わずうなずくことで済ませた。


「で、公社からの報告は既に聞いてはいるが…

 王父卿、そなたから、改めて報告してほしい」


「は。陛下のご恩に甘えさせていただきまして。

 今月の純受益は、売り上げから必要経費と、公社の配当を除外しましてー

 5千350万フェリでございます。

 これから国税として2千407万5千フェリを納付させていただき

 王家への献上金が、その5割である1千203万7千5百フェリ

 残り1千738万7千5百フェリが私の配当となり、その中20万を公社の職員に賞与として与えたところにございます」


すでに報告で聞いているはずの内容なのに、改めてセレステの報告を聞く大臣たちは、目をも閉じてまるで甘美な音楽でも聴いているような表情だった。

その中財務大臣なんか、口元が吊り上がって、びくびく痙攣しているぐらいだった。

そんなにいいのか、と苦笑しながらも、セレステも決して悪い気分ではなかった。


「報告、ご苦労であった。

 して、賞与と言ったな?」


「はい。一所懸命に働いてくれた公社の者たちに、ちょっとした労いを、と存じまして。

 国税と献上金には影響がないよう、私の配当分から出しました。

 聞けば今月の受益だけでさる5年の受益を超えていたと泣いて喜んでいたので、その窮状もご察しいただけることでしょう」


「そうか。

 亡国の流民となると、その窮状は計り知れないところがあっただろう。

 この国の民になろうと頑張っているその意気やよし。

 余の分の献上金からも、賞与を出そうと思うが、よいか?財務大臣」


「ははあ。陛下の御心のままに」


財務大臣としては内心、もったいないと思わないはずがないだろうけど、願ってもない額の税収が納められた上に、王もセレステも自分の山から出すというから反対する理由がない。


「ありがたき幸せにございます。

 公社の者も、ご恩に恐悦至極に存ずるでしょう」


「うむ。

 して、そのリゾートホテルなるものはどうなっているか?」


話題を変えてくる王に、セレステは心の中から舌を打った。


『ことあることに別邸に遊びに来てダラダラしているくせに、また遊ぶことに興味を示すのかよ!』


とはいえ、王として仕事はちゃんとこなしている上に、遊ぶなと怒るのは宰相の役割で、別に自分がどうこう言うことでもなかったので、セレステは従順に報告した。


「はい。ホテルの施設と『遊具』の建設はもう完了しております。後は職員の接客訓練ですが、これも順調に進んでおりますので近いうちに開場できるでしょう」


「『遊具』となると、この間のあれもか?」


「はい。陛下が『お黄色い声』を出されていたあれもばっちり」


「父上!?」


王が慌てて止めようとしたが、もう遅い。

自分に注がれる大臣たちの怪訝そうな視線に、王は慌てたが、セレステは容赦なく次の攻撃に出た。


「いや、陛下、別にお恥になることはございません。

 大臣の中で、陛下以上に大きい嬌声を上げたものが…」


「バカ!」


今度は、みんなの視線が自分に集まることに気づいて、ダーハラトははっと正気を取り戻した。


『図ったな?!』


『バーカ』


こうして、王と軍務大臣という、この会議室のなかでもっとも漢らしい二人の尊厳を対価にして、リゾートホテルへの期待は高まっていくのであった。

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