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暇だから言ってみた。「光あれ」  作者: アインソフ
快走・迷走・暴走
42/54

テンゲル

「え?君もついてくる?」


浮遊大地を人口の少ない草原地帯に移動させておいた後、報告しに王宮に戻ろうとするセレステとナイランに、アリメカリセスが自分もついていくと言い出した。


「はい。マイロードの御子息であり、主君であるラシオン陛下に挨拶を、と思います」


「それはいいけど、島のコントロールは?」


「問題ございません。

 私は3次元の位相に固定されていませんので同時に複数個所に存在できます」


「それはまた…

 まあ、さすがは5次元以上の存在ってことだな」


と、曖昧にでも知っているセレステは納得できるが、ナイランはそうはいかなかった。


「え、それって、分身の類ですか?」


「いや、違いますけど…

 アリメは今この世界の2階層以上の外に位置して、干渉したい時点に、時間を超えて現れられる…とでも言いましょうか…これで合っているか、アリメ?」


「その理解で、概ね合っております、マイロード。

 ナイラン様、話が長くなりそうですから簡単に説明しますと、この世界を一つのガラスの球体と例えて、あなた方の3次元はその中の方にあると仮定しましょう。

 そのガラスの球体に、外にいる私が指を触れて、球体の中ではその指先だけが認識できるとすると、1本の指を触れれば、私が一人現れたようにみえますね?」


「はい」


「しかし…」


その瞬間、もう一人のアリメカリセスが現れた。


「二本の指を同時に触れれば」


「二人の私がいるように見えるのです」


「まあ!」


さすがのナイランも驚きを隠せない様子だけど、それ以上に、人知を超えた現象を観察している喜びに震えているように見えた。


「でも意識や記憶は…ああ、二つの指先の主である、『5次元』のあなたの元で統合されている、というか元々一つ、だということですね?」


「「ご明察。さすが宮廷魔術師長ともあろうお方ですね」」


二人のアリメの頭…にあたる部分から生えている6枚の翼のなか一番上の2枚が、同時にパタパタと、軽くはばたいた。多分、「笑い」の感情を表しているように見えた。


「はいはい。御託はいいから、早く戻りましょう。

 君が王宮についてきても、もう一人がここに残っているから、王宮からでもこの…

 いや、いちいち浮遊大地というのも面倒だな。何か、名前とかないか?」


「すでにご存知だと思いますが」


「…いや、君のような高次元存在の時間感覚でいわれてもな…」


と言おうとしていた瞬間、セレステはある事実に気づいた。

そもそもアリメカリセスにとって、時間は線形的なものではない。

ということは…


「私につけてもらう、ということか?」


「そうともなりますね」


「なるほど、そういうことか。

 …なら、ちょうどいいのがあるな。

 『テンゲル』で、合っているか?」


セレステは、ちょうど思い出した、ある国の言葉で『天』を意味する言葉を出してみた。


「はい」


静かに、一言で簡単に答えているが、それをいう方も、黙々と見守っていた方も、二人のアリメカリセスの頭部の6枚の翼が、バッと開かれた。

なにやら、歓喜を表しているかのように。


***


「では、そなたに『マルク・テンゲル』の位を授けよう」


「……は?」


王宮に戻って来て、王と大臣一同にアリメカリセスを紹介し、テンゲルでの出来事を報告したセレステを待っていたのは、そんないきなりの王の宣言だった。


「いやいやいや、陛下、お待ちください。

 なんですかそのマルク云々は?」


「おや、内務大臣、王父卿に位の説明をしていなかったのか?」


「いいえ、レギスの位を授与する時、ちゃんと説明して差し上げたつもりですが」


しらばくれる二人に、ムカついたセレステが言った。


「ああ、もちろんマルクが何なのかはわかっておりますとも。

 なんかだらだらと説明していたような気もしますし。

 ただ、なんでそのマルクの位を私に、とお聞きしておりますが」


「それはもちろん、その浮遊大地…テンゲルが、そなたの領地になったからだ。

 カクカクシカジカで、この国の国土と宣言して、そなたの封土として授ける形態になる。

 ここまでは王父卿も、そしてアリメカリセス、そなたも納得できるだろう?」


「至極妥当なご判断と、ご決定だと存じております」


「おい、アリメ?」


「マイロード、詳しくは前の41話をお読みになっていただければご理解できますでしょう」


「…はあああ?

 いや、カクカクシカジカとか、前の話だとか、ちゃんと説明してくれよ!

 こっちとら3次元じゃい!」


その惨状(?)を見てはいられなくなった、宰相が説明役を買って出た。


「それぐらいになさいませ、陛下。

 いくら破天荒なあやつでも、それでは不憫すぎますぞ。

 よいか、わしがまとめてあげよう」


「おじいちゃん~」


「誰がお主のおじいちゃんじゃ!

 いいか!お主は一応、陛下の臣なるもので、この国の民と言えるのじゃ。

 そのお主の所有物は、土地は、この国の国土であり、陛下の財産となるのじゃ。

 ここまではわかるじゃろ?」


「はい」


「じゃから、お主に贈られた土地とはいえ、形式だけではあるが、陛下から『下賜』として承る形式を取る必要があるのじゃ。

 それが、あれをお主の『封土』とするということじゃよ」


「はあ」


「そこまではわかったな?

 そしてー」


宰相は、大臣会議で出た話をそのままセレステに伝えた。

『動く国境線』としての戦略的な価値や、それを運用するためのマルクの位、そしてその位が名誉だけではなく、実際の権力として、力になるということなど。


「権力?最高位のレギス以上にですか?」


「王家の血縁とはいえ実の血縁ではないだろう?

 お主が無害な、王のお飾りに留まっている気ならそれでよし。

 じゃが、その気はないじゃろう」


要するに、箔付ということだ。

宰相の言わんとすることは、よくわかる気がする。

確かに世の中、善意だけでは動かない。

悪意あるものには、対抗できるだけの力が必要なのも事実だ。

そして、軍事目的というのも…いつまでも知らん顔をしていられるわけがない。

「理解しました。

 ただ、一つだけ…

 …おい、ダーハラト、お前か」


「あれほど場を弁えろと…

 軍事的な目的で手を貸して欲しいと思ったのは間違いないが、私が提案したことではない。

 それだけは信じてほしい」


友達だと信じていた彼に、利用されたわけではないというから、セレステは安心できた。


「アリメ、君は大丈夫か?」


「何をおっしゃいます。私はマイロードの僕たるもの。

 マイロードの決定なら、それがなんであれ喜んで従います」


「気持ちは嬉しいけど、せめて善悪の判断ぐらいはしてくれよ。

 何も考えず、命令に従うだけの機械人形ではないだろう、君は」


「…はい!」


六枚の翼が、小刻みに震えている。

どんな感情なのか、セレステにはわからなかった。


「あ、そうだ…

 アリメカリセス殿、聞けばこの世界の者ではないようで、地位など必要ないかも知れぬが…

 そなたには、テンゲル領地の代官としてビカリの位を授けたいと思っているが、いかがか?」


それを聞いたアリメカリセスの翼がさらに震え出して、少し落ち着いたように震えが終わってから返答した。


「身に余る光栄にございます。

 マイロードに仕える者の資格として、謹んで承りたいと存じております」


落ち着いた口調で答えているが、先の翼の震えは、彼女(多分)が喜んでいるということを見せてくれている気がしたと、この場にいる全員が感じていた。

 

「良い!

 ではここにて、新たに現れた浮遊大地・テンゲルを、我が領土と宣言する。良いな?

 続いて、そのテンゲルを王父卿、レギス・セレステ・オーテルに封土として下賜し、これを領主として任命する。なお、マルク・テンゲル・オーテルの名を下賜する。良いな?

 テンゲルの運用者であるアリメカリセスをこの国の民として認め、テンゲルの代官として任命する。良いな?

 最後に、テンゲルの代官であるアリメカリセスに、それに相応しい位としてビカリを授け、ビカリ・テンゲリデ・アリメカリセスの名を下賜する。良いな?

 異議あるものは、ここにて唱えよ」


異議はない、同意するという意味の沈黙。


「これにて、下賜の儀を終わらせてもらおう。

 おめでとう、マルク・テンゲル。

 そして歓迎するぞ、ビカリ・テンゲリデ!」


会議室に、拍手の音が響き渡る。


「やれやれ…なんかやられた気もするけど…

 ま、改めてよろしく頼むな、アリメカリセス!」


アリメカリセスの『頭部』が、セレステの方を向かう。

なぜか驚いているかのように、6枚の翼が全部後ろ向きになっている。


「私の名前、ちゃんと覚えられていましたか?」


「おや?間違えてた?」


「はい、『いつも』…」


「いつも?」


怪訝に思ったセレステが聴こうとした時、後ろから王の大声が聞こえてきた。


「はーい、父上!いきましょう!」


「え?行くって、どこ?」


「どこって、決まっているでしょう。

 父上の領地、見物させてください」


大臣たちの前だというのに、王は「息子のラシオン」の顔に戻っている。

多分、駄々をこねるにはそれが有利だと思っているからだろう。


「陛下…」


「いや、ここにいるのは父上の領地を見物させてほしい、息子のラシオンですよ?」


「全く、現金なやつ。

 それはいいけど、一人で行く気か?

 イーシャに言わずに行ったら…」


「もちろん、おやつ抜きの刑にしますわ!」


まるで聞いていたかのように、会議室の扉を勢いよく開きながら、イーシャ王妃とアーシャ姫が入ってきた。


「げっ、王妃?聞いてた?」


「何か陛下が邪なことをお企みになっている気がしてきてみたら、案の定」


「何その勘!怖っ!」


ガヤガヤ騒いでいる王夫妻を横に、セレステは屈んで孫…アーシャ姫に話しかけた。


「アーシャや、おじいちゃんの領地に、いってみたいか?」


「はい!お空の上と聞いて、ワクワクしています!」


「そうか。

 大臣の皆様はどうします?」


「もちろん!行ってみたいと思います!ねえ?みなさん?」


「おい、商工の、勝手に…

 しかし、空の上というのは確かに気になりますね」


「マルク・テンゲル、どこか隣国の見下ろせるような位置に移動していただけますかな?

 一度、足の下にしてみたかった…」


「外務の…その荒い気性はなんとかならないのか?」


「空の上か…

 確かに気にならないといえば嘘になりますが、全員で行くわけには…」


他の大臣たちとは違って、内務大臣が大臣たちが席を外すことに難色を示した。


「あ、それなら問題ないと思います。

 アリメがいますから。

 そうだろう?」


「はい。私がいますから、何かあったら皆様は、すぐ戻られます」


「?」


アリメカリセスのことをまだわかっていない大臣たちが怪訝そうな顔をするが、セレステは敢えて何も言わなかった。


『上がってみて、驚けよ。私抜きであんなことを企てた復讐だ!』


とニヤニヤしているセレステに、ダーハラトが話しかけた。


「おい、オーテル。

 よく、その言葉を知っていたな?」


「?何のこと?」


「『テンゲル』のことだ。

 あれはあまり知られていない北方の方言なのにな」


「あれ?そうなの?

 地球のとあるの国の言葉なんだけどね。

 北方方言では何という意味だ?」


「『天』 だ」


「え?」


「空間としての『空』ではない。

 世界を動かす理り…という意味をもつ『天』だ。

 北方のルパシドしか使わない古い言葉だけどな」


「へええ~それは面白いな。

 意味も似たようなものだよな」


「そうか?興味深い偶然だな」


などと、他愛のない話をしながら、セレステはテンゲルにつながるゲートを開いた。


「では皆様、我が領地へ、ようこそ。

 …まだなにもないところではありますけどね!」


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