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暇だから言ってみた。「光あれ」  作者: アインソフ
快走・迷走・暴走
37/58

空が落ちる

「一体何なんだよあれ?」


「わからん…

 チオノ、いや、ラインバルト、あれはいつから観測されていた?」


セレステが混乱している側で、ダーハラトは事態の経緯を確認しようとしていた。


「正確な出現時間につきましては確認できていません。

 ただ、日の出前の2時間前に、お二人の帰還に備えてメンゲン家のヴァレットを連れに行った時までにはあのようなものは観測できませんでした」


「それって…まるで私たちの帰還を待っていたかのように聞こえるのでは?」


セレステがなんか不安げに言ったら、ダーハラトが否定した。


「考えすぎだろう。

 とにかく、私は王城に行く。

 オーテル、お前は…」


「一緒に行こう。

 君の邸宅に戻って車を用意するより、ここから私の自動車で直行する方が早い。

 メンゲン家のヴァレット、すまない。君のご主人を借りるぞ。

 行こう、ダーハラト」


そう言ってガレージへ向かうセレステの後を、ダーハラトが追いながら自分のヴァレットに言い残した。


「確かにその方が早い。

 ナデルン、お前は屋敷に戻っているように。」


「はい、ご主人様!」


セレステの後を追ったダーハラトがガレージに着くと、セレステはすでに自動車に乗り込んでエンジンをかけたまま、レーテスに指示を出していた。


「いいか?私が屋敷を出たら、みんなをこの下の地下空間に避難させるんだ。

 頑丈な造りだから、あれが落ちてきてもそこにいれば助かる可能性が高い。

 ダーハラト、君の屋敷のみんなもこちらに避難させないか?」


「いや、気持ちはありがたいが、私の屋敷には守るべきものがあってな。

 気持ちだけいただく」


「わかった。じゃ、早く乗れ」


三日前―というかトゥシタでは昨日、の暴走の記憶がまだ新しいが、今は躊躇っている暇はない。ダーハラトは心を決めて、自動車の助手席に乗り込んだ。


「シートベルト、うん、閉めたな。

 じゃ、 行こう!」


そのままガレージから出て屋敷の正門へと向かうと、王城からの伝令らしき者が

到着するところだった。

屋敷の警備が正門を開くと同時に、セレステが自動車のドアを開き、伝令に向かって叫んだ。


「レギス・セレステだ!マルク・メンゲンへのお達しだな?」


「はっ!そうであります!」


「わかった!マルク・メンゲンはこのまま私と共にこの自動車で王城へ向かう!

 君は後からついて来るように!」


「は…はっ!わかりました!」


セレステは伝令とすれ違うように正門を出て、そのままアクセルを踏んでスピードを上げた。よりにもよって二人揃って地球にいた間にこんなことが…と思ったが、何だか、タイミングが良すぎる気がしてならない。


幸いなことに、貴族街なので早朝から街道に出ている人影はほとんど見えなかったので、速度をあげることができた。こんな時間に起きているのは大体、屋敷内で働いている使用人だけだからだろう。


でなければ、上空の異変を感知して室内に隠れているだけかもしれない。


「オーテル」


「なんだ?」


「下から見上げたときは、実感できなかったけど…

 あれ、結構高いところに浮いているな」


「そうだな…

 もしあれが落ちたりしたら…」


とあるアメリカのヒーロー映画では都市一つを空に浮かせては落下させ、その衝撃で地球の全人類を消滅させようとするヴィランが出たことがあるが、あれはそれほどではなくても、小さな町ぐらいはありそうな気がする。もしあれがそのまま落下したら…


「最悪の場合、王都は壊滅する…」


「わかるか?」


「いや…詳しいところまではわからないがな」


また思い出したのが、ガ○ダムのコロニー落とし。

もちろんあれとは比べものにならないほど小さい物体だし、宇宙から落下するわけでもないから運動エネルギーも格段に低いはずだが、衝突エネルギーと振動で、半径数十kmは吹き飛ぶ、そう想像するのは難しくない。


「まさかあれって、フーマニタの攻撃手段とか、そういう可能性は?」


「いや…あれらに、あれほどのものをコントロールできるような手段はない。

 …と思うが…」


結局、その可能性を完全には否定できないということだ。

そんな会話をしていたら、王城の前に到着した。


「レギス・セレステだ!マルク・メンゲンと…」


「お待ちしておりました!そのまま王宮へ向かってください!」


城門には、警備隊長エクス・ガルンデルが出ていて、セレステたちを迎えていた。


「こんな時間にご苦労、そして感謝する!」


『大義であった』など、貴族の言葉使いを思い出す暇などなく、そのまま城門をくぐって王宮まで走っては、停車した自動車から降りた二人はそのまま会議室へと向かうようにと、待機していた侍従が案内した。


「他の大臣たちは?」


ダーハラトの質問に、侍従が答える。


「当直だった外務大臣様はすでに会議室におられます。他の方々にも伝令を出しておりますが、お二人が最初に到着されました」


「わかった」


短い返事だけを残して会議室へ急ぐダーハラトの後を追うか、そうでなければ自分はここで待機するか少し悩んだセレステだったが、結局ついていくと心を決めた。


「ダーハラト、私もついて行っていいな?」


「今更何をいう。

 陛下も、お前のことをお待ちだと思うんだ」


「そうかな」


などと言いながら会議室に到着して、侍従にそのことを告げた。


「陛下、レギス・セレステとマルク・メンゲンの2名、到着いたしました」


「通せ」


会議室に入ると、寝巻きのままで来ているラシオン王と、仮眠でもしていたのか、ボイサボさな毛並みの外務大臣がテーブルを囲んでいるのが見えた。


「挨拶は省いていい。ご機嫌がどうのとか言っている場合ではなさそうだ。

 王父卿、良く二人で来てくれたな?」


「はい、陛下。

 幸いと申しますか、私の邸宅で一緒に陛下の伝令をお迎えしましたので」


「こんな時間に?

 昨日、王父卿が軍務大臣をお屋敷へ招待されたのはわかっていますが」


外務大臣が意外だと言いたそうに、そういった。


「は、少し事情がありまして、軍務大臣殿には私の『家』で泊まっていただいていました、外務大臣殿」


「ほお、だとすると二人は、仲直りしたのか?」


興味深そうに、王がそういった。


「仲直りも何も、別に仲が悪かったわけでもございません。

 なあ、軍務大臣殿?」


『『なあ』?』


いかにも親しそうというか、気兼ねなそうなセレステの態度に王と外務大臣が怪訝そうな視線で見ていると、ダーハラトが呆れた顔でセレステに言った。


「王父卿…場所ぐらいわきまえて欲しいが」


『いや、あなたのその反応が、状況をさらにややこしくしているけど!?』


外務大臣が心の中でそうツッコミを入れていると、他の大臣たちと宰相、魔術師長が次々と会議室に入って来た。


「大臣全員、そろったな?では、外務大臣、状況の報告を」


「は。王城の夜間警備に当たっていた兵士たちによると、朝4時半ごろ、王城の南2000アシェ(約2km)と推定されるところに現れるのが確認されたとのことでした。

 それ以降1時間半ぐらいにかけて王城に接近、5時40分ぐらいに貴族街上空に到達。それからそこに滞空しております。

 夜間ゆえ、それ以前に出現したかは確認しにくく、南の地域からの報告が届くのを待っている状況です」


「あんな物が、『空を飛んで来た』というのか。

 それ以外の動きは?」


宰相の質問に、外務大臣が続いた。


「さっき申し上げました通り、夜間なので王城警備隊が発見する前にどんな動きを見せたかに関する情報はまだ入っておりません。

観測できた範囲でも、南から飛んできた、以外にはこれといった動きは見せませんでした」


「現在の位置から判断するに、王城の正南ではない、やや東寄りのようですけど?

 もちろんあの大きさだから、特に意味はないと思いますが」


商工大臣の質問に、外務大臣が答えた。


「はい。南からまっすぐ飛んでくるように見えましたが、王城の近くに来て南東、あの物体から見れば北東へと進路が変わったそうです」


「南東…」


という内務大臣の呟きに、会議室にいる全員の視線がダーハラトとセレステに注がれた。


「え?みなさん?なんですか?」


「王父卿…」


「王城の南東、といえばお主の屋敷じゃろうが」


「いや、ダーハ…おっと、マルク・メンゲンのお屋敷も隣にありますが?」


「それはそうですが、レギス・セレステのことですから。

 心当たりはありませんか?」


魔術師長の質問に、流石のセレステも呆れた顔になって反論した。


「あの時間帯に私がトゥシタにいたら、ですけどね。

 お生憎様、朝の6時までには地球にいました。

 屋敷の使用人たちと、軍務大臣殿が証人です」


「……む?なぜ軍務大臣が?」


「もちろん、一緒に地球に行っていましたから」


「…は?」


荒唐無稽な発言に大臣たちが何か言おうとした瞬間、王が言った。


「卿の『家』というのは…チキュウの屋敷のことだったか。

 まあ、いい。二人の間に何があったかは知れないが、この事態への対応に支障を来たしたわけではないから、不問にする。

 だが、二人がこの世界に戻ってくる時間に合わせて、二人の屋敷の上空に現れた…

 二人と全く関係がないとは、限らないではないか?」


「そうはおっしゃっても、身に覚えが全然ございません。

 軍務大臣殿はどうでしょう?」


ダーハラトが、目で『バカめ!』と言いながら答えた。


「私にも、ございません」


二人が場内の全員にジト目で見られる中、ラシオン王は何か面白くなったと思いながらも、今はそんなことを考えている場合ではないと思い、話題を変えた。


「どこから来たか、なぜ現れたかも今では不明…

 現在の位置に到着して、それ以降動きはなし。

 何が目的なのか、いや、目的というのがあるのか自体が疑問なんだな」


「観測中の警備隊からの報告もないということは、まだ動きを見せないでいると言うことですな。

 今では上空に浮いているだけじゃが、あれが降下したら…」


宰相の言葉に、魔術師長が付け加えた。


「徐々に降りて来れば幸いですが、もしあのまま墜落でもしたら…

 大災殃、になりますね」


実は大災殃どころの問題ではない、天変地異レベルの大災害になるとセレステは予想できたが、いらないパニックを起こしたら対策の会議すらできなくなるだろうから、そのことをあえて口外しないことにした。

その時、外務大臣が口を開いた。


「もし、あれが外部から攻撃を目的にして送り込んだ物…と言う可能性はないでしょうか?」


「フーマニタのことを疑われるなら、今の段階では可能性が低いでしょう。

 あれらには、あれほどの技術はありません。魔術面でも…コミス・ナイラン?」


「今動員可能な宮廷魔術師には、全員分析に当たるように指示してきましたが、多分これといった結果は出ないと思います。あれほどの物を浮かせるには、大法術に相当する術を発動しなければなりませんが、そのような跡形は…」


彼女の話を聞いたダーハラトは、何か迷いを捨てて心を決めたような顔で言い出した。


「今更隠してもしようがない…

 王父卿、あなたとチキュウに行った時に見たあの空飛ぶ乗り物…飛行機の可能性は?」


『空飛ぶ乗り物』という言葉にナイランがこんな状況にもかかわらず目を輝かせているが、それは無視して、セレステが返答した。


「さあ… 地球に飛行機があるのは確かですが、あくまでも『乗り物』の範囲です。

 あれのような、常識外のものは、地球の技術でもまだまだ、夢物語です」


空飛ぶ島を見て思い出していたあのアメリカの映画でも、都市を空に浮かせたり、空中母艦が出たりはするが、それはあくまでもSFの領域の話だ。


「正体がわからない、となると、対処の仕方もわかりませんな。

 せめて万が一のため、住民の避難でも始めましょうか」


「いや、今更避難令を出したって、混乱してことを大きくするだけじゃ。

 あんなのが落ちるとすると、王城と貴族街全体に被害が及ぶじゃろうが…」


内務大臣が避難勧告を出すことを提案したが、宰相が難色を示した。


「宰相殿のおっしゃる通りかと思います。

 そしてあれが『降下する』のではなく、『落ちる』ようなことがあったら…」


「あったら?」


「少なくとも、王都はそのまま、吹き飛んでしまいます。

 避難しても、意味がないでしょう」


セレステの答えに、会議室の全員は空気がこ凍りつくような寒気を感じた。


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