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暇だから言ってみた。「光あれ」  作者: アインソフ
快走・迷走・暴走
36/54

君をのせて

「ダーハラト?」


「何だオーテル?」


「いくらここでは貴族の作法など忘れて気楽にいろ、と言ったって…

今の君、自堕落すぎると思わないか?」


「そうか?」


リビングに置いてあったビーズクッションに無造作に身を預けているダーハラトは、上半身裸で片手にはタブレットPCを持って、片手では腹をボリボリ掻いているという…まるで絵に描いたようなダメ人間……もとい、だめルパシドそのものの姿をしていた。


「いや、このジャージと言ったか?上の方は流石にきついと言ったら脱いでも構わないと言ったのはお前だろ?」


「そうだな」


確かに、チャックも閉められないままではむしろ脱いだ方が楽だろうと思ってああ言った。


「このビーズクッション?というのは何だと聞いたら『座ってみろ、起きられなくなるよ?』と誘ったのもお前で」


「だったな」


人間を堕落させる魔生のクッションに、宇宙人である彼ならどう反応するか気になって試したいと思った。


「地球の動物のことが気になると言ったら、この自然ドキュメンタリー?とかいうのを見ろと勧めてくれたのもお前」


「そう」


日本語がわかるわけがないから検索は無理だし、動物ドキュメンタリーチャンネルを見せておけばいいだろう、と思って◯チューブを勧めた。


「だからこうなったわけだが?」


「ぐぬぬぬ」


そう、全部天城の勧めたことが重なった結果だった。

昨日の夜、酒のことで偶然が重なって今日のこの状況という結果を招いたように。


「いやあ、生涯あり得ないことだとばかり思っていたけど、作法も常識も捨てて気楽にするのも、結構解放感を感じるな。

 このズボンも脱いでしまいたいぐらい…」


「わかった、わかったから!それだけは勘弁して!」


天城が余計なことを言ってこの世にあってはいけない怪物を放ったのではないか、という恐怖を感じていた時のことだった。

寝室で寝ていたアーシャが起きて、ミャーと鳴きながら二人のいるリビングに出て来て、ビーズクッションに身を預けているダーハラトを見ては、彼に向かってまっすぐ歩いてきた。


「おお、姫様…おっと?」


普段は誰か客でも来たら警戒して出てこない天城家の猫たちだったが、ダーハラトは長居しているからか、あるいは大型動物だと思うのか、別に警戒せず近づいては、そのままダーハラトのお腹の上に飛び乗った。


そしてー


「痛っ!」


その見事な腹筋の上で、ふみふみし始めた。


「あ〜いいな〜ダーハラト、アーシャに気に入られたようだね。

 でもアーシャ、彼のお腹、硬くて寝心地が悪いと思うよ?」


「いや、そんなこと言わないで何とか…あいたたた!」


天城家の猫たちは、マイクロファイバーのパジャマやブランケットにふみふみするのが好きだった。全身毛深いダーハラトのことも多分、マイクロファイバーの人形か何かと勘違いしているようだった。

…そして、猫のふみふみは可愛く見えても、その実、指から出入りする爪でチクチクするのが結構痛い。


「つまり、今のダーハラトは、針山になった悦びに浸っているのだ」


「変な狂言回しはやめろ!何とかしてくれ!あ…」


「?」


いつの間にか、イーシャまで出てきてダーハラトのお腹の上に飛び乗ったと思えば、2匹は身を寄せ合って丸くなり、そのままダーハラトのお腹の上でまた眠りについてしまった。


「お、おい…これ、どうにかしてくれよ」


「ふふん、王妃殿下と王女殿下の寝床になれるなんて、この上ない栄光ではないか?

謹んで承りたまえ、マルク・メンゲン」


「おい!」


天城は揶揄ってはいたが、微笑ましい光景と言えないこともないと思いながらダーハラトに言った。


「まあ、気持ちよく寝ているのに起こすのも悪いしな、君もそのまま昼寝でもどうだ?

私は処理する仕事があってね。暇だったら、夕食に何がいいか考えてみるのもいいかも〜」


「おいいいい!」


              ***


「全く、イヤイヤ言ってたくせに、ぐっすり寝ていたじゃないか?」


天城が仕事を終えて書斎から出てみたら、ダーハラトはお腹の上に今度はノルガーを乗せたままビーズクッションの上で寝込んでいた。そろそろ夕方になっていたので、猫たちには猫缶を配ってあげて、夕食は何にするか考えた挙句、ピザを注文してダーハラトを起こした。


「いや、あのクッションが心地良すぎてな」


「うん、それは十分わかるけど、それじゃトゥシタに戻って苦労するよ?」


「…気をつけよう。

しかし、この世界には食べ物を料理店から家に届けてくれることもあるのか」


配達されてきたピザを、匂いで食べ物だとわかったダーハラトはまた妙なところで感心していた。


「うん?トゥシタにはないか?配達サービス」


「したくても、料理店に連絡する手段がないからな。

 遠距離通話の魔術はあるけど、そんなことに使えるわけにはいかないし。

 そもそも、チキュウではどんな方法で遠距離から連絡ができるんだ?」


「あ?そこから?

 そうか…電話というのがあってね、一昔は電線でつながっていたけど、最近は大体無線で繋がっている。

 連絡先さえわかれば、海を越えて外国にまでつながるよ」


「それはまた、驚いた。

 そんな技術を使えるには、それぐらいの地位や財産が必要なのか?」


「この技術が初めて商用化した、100年ぐらい前だったらそうだった気もするけど…

 今は全然、そうではない。一家一台どころか、一人一台が当たり前になった時代だからな」


それを聞いたダーハラトは、呆れたような、どこか圧倒されたような顔になった。


「何と言えばいいか言葉も出てこないほどだな。

 たった200年でそこまでの差があるのか」


「何、アンテロの寿命をもってすれば1世代弱に過ぎないじゃない?

 もうすぐだと思うよ。私もできる限りサポートしたいと思うし。

 いや、そんなことより、冷めないうちに食べよう」


「ああ…というか、変わった食べ物だな?食器は?」


ピザも初めなのか不思議がるダーハラトに、天城は一切れを取り上げながら言った。


「まあ、使いたいなら用意するけど、これはこうしてこのまま手で持って食べてもいいものだ。飲み物は…一応烏竜茶とビール、2種類を用意したけどな…」


炭酸にどんな反応を見せるかが気になる上に、コーラには怪しい成分の話もあるからリストから消していったら、残ったのがあの二つだった。


「ビールぐらいで、酔い潰れたりはしないよね?」


「ビール?」


また、トウシタにはないものか、あるいは名前が違うのか。

天城はビールの缶を開け、グラスにビールを注いでみせた。

「なんだ、ラガーではないか。

 ラガーなら問題ない、というか好物だ」


「あ、そう?それはよかった。

 じゃ…って、もう飲んでるし」


ゴク、ゴクとビールを飲むダーハラト。

剥き出の喉から、喉笛が動くのがよく見えてそれはそれは『いい飲みっぷり』そのものというべき光景だった。


「うまいラガーだな。喉越しもいい」


「いい飲みっぷりだけど…気をつけなよ?また酔わないように?」


「なあに、これしきのことで酔ったりはしない。

 それに、ここでは乱れた姿を見せる心配もないではないか」


「ああ、確かに。

『あれ』以上乱れたらどうなるか怖いぐらいだから」


「いうな、バカめ。

 しかしこれ…ちょっと変わったけど、面白い食べ物だな?」


「チーズの種類を揃える必要はあるけど…ドゥシタでも作れるかもな。

 後でうちの料理長に研究させよう」


「ほう、それは楽しみだな」


「期待してもいいよ?うちのガルカンくん、腕のいい料理人だから。

 というか、食べたくなったら地球に来てもいいじゃないか。

 友達にピザ奢るぐらい、いつでもできるよ」


「友達、か」


ダーハラトは『友人』と言ったが、天城は『友達』と言ってくれた。

心の中のどこから、それを嬉しく感じていたのか、ダーハラトの尻尾が揺れていた。


              ***


「さあ、行こうよ?準備できた?

 まあ、準備というか、君はそのまま行くだけで済むけど」


「本当に、こんな形で行ってもいいのか?」


トゥシタに戻ることになると、ダーハラトは逆に心配し始めていた。

それもそのはず、パチパチのジャージパンツ一枚しか穿いていない、裸同然の姿で白亜館にいかなければならないから。


「心配しなくてもいいよ。

 私が先に行って準備できたか確認してきたけど、君の邸宅から着替えの服と、君のヴァレットまで呼んでおいたよ。

 着替えはうちのロノヴァールに頼もうかと思ったけど…

 いくらなんでも、当主の裸を他家の者に見せるなんて、君の使用人が悲しむだろう?」


「…そこは見られる私のことを先に心配するべきでは?」


「ここでは堂々と脱いでいたから、気にしないのかと思ったけど?」


「なわけあるか!」


他愛のない会話の後、二人は向かい合って笑い合った。


「さあ、そのゲートをくぐれば白亜館の私の寝室だよ。

 君のヴァレットがあそこで待っている」


「お前は?」


「私が一緒に行けば、君のヴァレットが困るだろう。

 私は他のゲートで行くから、着替えてからまた会おう」


「配慮、感謝するよ。

 …なあ、オーテル」


「なんだ?」


ゲートの扉を開く前に、ダーハラトが何か、もどかしそうな顔で天樹を振り向いた。


「トゥシタに戻っても…オレのこと、『友達』と呼んでくれるか?」


「?当たり前じゃないか。何聞くまでもないことを」


「そうか。ありがとう。

 では、トゥシタで会おう!」


そういったダーハラトがゲートをくぐったあと、ちゃんと向こうのヴァレットと合流したのを確認した後(「ご主人様!何という無惨な姿!」「いいから、着替えを」)、ゲートを消した天城は、リビングをざっと片付けてから着替え、白亜館の執務室に繋がるゲートを開いた。


「ただいまーって、え、ラインバルト?

 私が来るのを待っていた?」


「おかえりなさいませ、お館様。

 はい。早朝からマルク・メンゲンのヴァレットの訪問もありましたが…

 お館様に、ご覧になっていただかなければならないことが」


いつもに増して真剣なラインバルトの態度から、天城―セレステは、何かの異変があるような雰囲気を感じた。


「昨日の夜から今朝、私がいない間に何かあったか?

 先程確認しにきた時には、何も言わなかったのではないか」


「は、火急を争うようなことではないので、まずはマルク・メンゲンのことを優先させたほうがいいと判断しました」


その報告は理にかなっていると思い、セレステは頷きながら答えた。


「そうか。それはいい。

 では、何事か聞こうか」


「そのためには邸宅の外へと出られる必要がありますが…

 まず、窓の外が何故か暗いと感じられませんか?」


「うん?」


そういえば、さっきダーハラトの帰還の準備をさせるために来た時、計算していた時間にしては外の風景が妙に暗かったので、時計算を誤ったのか、としか思っていなかった。


しかし、そうではないとすると?


「…とりあえず、外に出てみる必要がありそうだな」


部屋から出て、2階からホールに降りてくると、そこには着替えを終えていつものシャキッとした軍務大臣の姿に戻っているダーハラトの姿が見えた。


「オ…レギス・セレステ、私たちがここにいない間、何か起きたようだが」


「オオテルでいいと言ったではないか、ダーハラト。とりあえず、外に出てみよう」


呼び捨てになった二人を、周りの使用人たちが目を見開いて見ている中、セレステが庭園に出ていって、ダーハラトがその後をついた。


庭園に出てきて空を見上げた二人は、自分の目を疑うしかなかった。


「何だ、あれ…」


「あんなのが、あっていいのか?」


二人が驚愕して見上げる空には、巨大な岩盤らしいもの…

いや、『空飛ぶ島』が、白亜館の上空高く、音も出さず浮いていた。


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