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暇だから言ってみた。「光あれ」  作者: アインソフ
快走・迷走・暴走
35/56

格好つけて損した

「何で、服を着ているというのに目のやる場がないのかな」


シャワーを浴びてびしょびしょになったメンゲンの毛をドライヤーで乾かし、脱ぎ捨てていた元の服はくつろげなさそうだからと、天城は自分の持っていた、サイズが大きいダボダボのジャージを借りてやったが…体の大きいメンゲンが着たら、袖や裾の丈も短く、何よりサイズが小さくて胸元のチャックはほぼ閉められず、パンツの方はピチピチでほぼタイツになって、下半身の凹凸が丸見えだったからだ。


「エロ特撮の怪人かよ」


「そのえろトクサツとやらは何か気になるが…

この服、サイズは合わないが伸縮性がよく、そこまで窮屈では無いな。

これも地球の織り物の技術のおかげか?」


メンゲンにとっては、窮屈さより伸縮性のいい地球の織物の方が気になる様子だった。


「うん、まあ…そういうことになるな。

 それより、腹、減ってないか?

 こちらの食べ物を食わせてもいいか気になるけど…まあ、物は試しだ」


「いや、食事まで世話になるのは…」


と、遠慮するメンゲンだったが、彼のお腹はそうは思わないようだった。


- ぐうう〜


「体は率直だな?」


「いや、これは…」


恥ずかしそうに、マズルにしわを寄せるメンゲンだったが、天城は軽く笑って朝食の準備を始めた。準備とはいえ、コンビニで買ってきたカップうどんの準備だったけど、特に準備できている物がないから仕方ないと自分に言い聞かせていたら、それを見ていたメンゲンが首を傾げながら聞いた。


「何をしているのか?」


「何って、朝食だろう?

 買って来た簡単なもので勘弁してもらうことになるのは悪いけど」


「朝食の準備…

 料理人はいないのか?」


何とんでもないことを、と答えかかっていた天城だったが、メンゲンにとってはそれが当たり前なことだということに気づいてやめた。彼は上位貴族のマルクで、実家のチオノ家もまた、北方の国境線を守っている大貴族、マルクの家だと、彼の甥であるラインバルトの素性のことでビアラ夫人に聞いたことを思い出した。


「ああ…

 君にとってはそれが当たり前なんだろうけどね、ここでは余程のお金持ちでは無い限り、家事は自分で賄うんだよ。

 そもそも、一人暮らしの上にこの狭い家だ。使用人なんか雇う理由がないよ」


「そう…か?」


「ああ。家事に必要な努力自体、最小化されているわけだし。

さっき君がシャワー浴びたのも、トゥシタでは使用人にお湯を沸かさせたり、お風呂の用意をさせたりで大変なんだろう?でもここじゃそれがいらないんだよ。

はい、これで3分待てばよし」


カップ麺だからお湯を沸かして注いで待つだけでOK。

現代人としては慣れきっている便利さだが、地球で言えば近代人に当たるメンゲンにとっては理解し難いことだ。


「…それで料理が終わるのか?軍の携行食もそれよりは…

 ああ、すまん。栄養が取れなかったから体が小さいのか」


どうやら、勝手に何か誤解しているようなメンゲンに、天城はムッとなって言った。


「誰が栄養不足だバカ犬!こう見えてこの年齢帯では結構大きい方だよ!

 君たちアンテロが大きいのだ!」


「だからそのイヌとは、なんだ?」


「その話は後!まず食えよ!」


二人が言い争っているうちに3分がたち、天城は出来上がったカップうどんをメンゲンの手元に押し出した。


「これは…イモン入りのスープか?3分でこれができる?」


「イモンがなんだかわからないけど、麺のことなら大体合っている。

 箸は使ったことないだろうし、フォークで食べれるか?」


「ああ、問題ない」


「では、食べよう」


異世界…というか、宇宙人の彼にもてなす地球での最初の食事がカップうどんというのもどうか、とは思ったが、ちゃんとしたものを用意できるのにも時間がかかるし、まだ頭がズキズキしているからご飯作っているような状態でもなかった。暖かいスープが身に沁み渡ると感じながらメンゲンを見たら、少しぎこちないフォーク扱いするではあるけど、黙々と食べていた。


「どうだ、口に合うかな?」


「うむ、うん」


なんか、食べることに熱中しているようで、ろくに返事もしない。

腹が減っていたのか、よほど気に入ったのか、食事マナーなんか気にしなくていいところに来ているからか、結構夢中になっているのがわかる気がして、セレステは一人笑ってしまった。二人ともすぐ平らげたので、セレステはメンゲンに聞いた。


「どうだ、気に入ったか?」


「…ああ、正直驚いた。

 3分でこんなものができるなんて、一体どういう仕組みだ?

 この世界のことは経験し始めたばかりだが、驚くことばかりだな」


「うん、私も驚いたよ。

 お貴族様のマナーはどこいった、って感じだったから」


それを聞いたメンゲンは少しムッとしたが、すぐ平然とした顔で答えた。


「オレの裸を見て、貴族だなんだいうのもバカらしくなったと言ったのはお前ではないか。

 オレもそう感じた。それだけのことだ。

 少なくともここでは、そんなこと考えずにいさせてもらおう」


なんか、太々しいとも取れるメンゲンの発言に、天城は不敵に笑いながら返答した。


「ほう、言うじゃねえかよ。

 自由にいたいなら、好きにしな、メンゲンさん」


「ダーハラトでいい」


「え、そう?

 じゃ、私もオオテルでいいよ」


「改めて、よろしく頼むぞ、オーテル」


微妙に発音が違う気がするけど、天城がセレステになったのに比べれば些細なことだと流しながら、天城は返事をした。


「こちらこそ、ダーハラト」


                  ***


「で、これが『犬』だ」


「カニセイドに似ているのに、四足歩行する動物だと?」


天城のタブレットPCに映った映像を見ながら、ダーハラトは当惑を隠せずにいた。

最初はタブレットPCに写真や映像が映ること自体に驚いていたが、天城も『そんなもの』としか説明できなかったので、とにかく内容に集中することにした。


「そうだよ。私もトゥシタに行って驚いたけど、なぜか地球の動物がトゥシタでは二足歩行する、人間型…というべきか、ヒト型になっていて、アンテロと自称していたから。

ちなみにこちらでは君たちアンテロに似た想像の存在がいて、獣人と呼ばれているんだ」


「想像の存在だと?」


ダーハラトは信じがたいという顔をしたが、こればかりはどうしようもない事実だ。


「では、ルパシドは?」


「ルパシドはな…

 オオカミという種だ。普通、犬の祖先だとされている」


「何?ではチキュウではカニセイドがルパシドの亜族とされている?」


「え?あ、そうなるね?

 でも分類学的にはイヌ科イヌ属オオカミ種というから、間違っていないかも。

 分類学のことは聞くな。詳しくは知らない」


などなど、重要なのかそうではないのかわからない話をしながら地球の動物のことを調べていたところ、大型動物とじゃれ合っている西洋人の写真が出てきた。


「これは…確かにフーマニタに酷似している」


「やっぱり?」


「ああ、でも…なんだか違う気もするな」


ダーハラトも、地球の西洋人とトゥシタのフーマニタの違いについて、うまく判別できないらしい。直接会ってみるとわかる気がしなくもないけど、ダーハラトはこのマンションから出られないのでそれはできない相談だった。


「まあ、フーマニタだって、地球人にとっては宇宙人だしさ、地球人が想像した獣人が君たちアンテロとして存在しているように、人間に似た宇宙人がいるのではないかな」


「そう…なのか?」


「考えたって答えが出ないことは、そんなことにしておく!

 それが私のポリシーだ」


堂々と宣言する天城にダーハラトは唖然とした顔になった。


「それ、結局あまり考えないってことだろうが」


「そうともいう」


「自慢するようなことか?」


そうはいうものの、ダーハラトとしてもこれ以上は検証も確認も、できることがないということはわかっていた。


「しかし、ここは本当に…素晴らしいというか、すごい世界だな。

 半信半疑していたが、文明のレベルが全く違うという…

 あんなに高い建物が立っているだけでも、トゥシタとの技術の格差がわかる。

 それに、空を飛ぶ乗り物だなんて…」


外には出られないから、マンションの窓から周りの市街地を覗くことしかできないが、それだけでも、そしてマンション内の家電器具だけでも、地球の技術レベルがわかる。

窓ガラス越しに、遥か下の道路を流れる車の列を見下ろしながら、ダーハラトは小さく溜息をついた。その尻尾は、驚きと興奮で心なしか、揺れている気がする。


「魔術の力にも頼らず、ここまでの文明を築き上げたというのか。

 恐ろしいというべきか…はは」


「まあ、そんなに大したもんでもないよ。

 たかが200年ぐらいの、アドバンテージがあるだけだ。

 そして、その分失われた物も多い」


「失われたもの?」


「そう。人間が繁栄するために、あまりにも多くを犠牲にしてきた星だよここは。

 自然を破壊して、汚染してきて、気候をも変えてしまい、だんだん生命が住めない星になりつつあるよ。

 この発展の裏で、数多くの生物を絶滅させてきた。

 …やっぱり、フーマニタと地球人は似ているのかもしれないな」


「オーテル、お前…」


普段の彼らしくない、落ち込んだ雰囲気の天城にダーハラトが何と言えばいいか言葉を選べずにいたところ、すぐ明るくなった天城がいった。


「だから!トゥシタには地球の二の舞にはならないで欲しいと思うんだ!」


「あ?」


大臣たちの前でもそうだったが、天城がいきなりスケールの大きすぎる話をしてしまい、聞いていたダーハラトを唖然とさせた。


「いや、それがな…うちの息子って、王様じゃん?

 最高権力じゃん?なんとかなりそうじゃない?」


「いや、お前な、いくら陛下でも、フェリデリアの力だけで世界が変えられると思えないが」


とんでもない話に、先ほどまで静かに揺れていたダーハラトの尻尾もピタッと止まっている。


「わかってるよ、それぐらい。

 でも、フェリデリアが今より豊かな国になって、他の国をリードする、良き影響力をもつ国になれば、世界を牽引できると思わないか?」


唖然とした顔で、天城の顔を見つめているダーハラト。

スケールが大きすぎるというべきか、空っぽの頭の虚しい空想というべきか。


「だから、ダーハラトくん。

 君にも、力を貸して欲しいよ。

 私の息子、ラシオン陛下の、栄えある未来のために。

 トゥシタを、地球の二の舞にしないために」


本気で言っているのか、分かりかねないほどスケールの大きい話。

それを聞いているダーハラトは、どう答えるべきか判断ができなかった。

故郷のトゥシタから、どれぐらい離れているのかもわからない異郷の星で、こんな話を聞いている自分は、今現実の中にいるのか、まだ酔い潰れて、夢でも見ているのか。


「はは……

 正直、お前が何を言いたいのか、わからない気がする。

 でも、これ一つは言っておこう。

 オレが忠誠を誓ったのは、ラシオン陛下お一人だ。

 この力を捧げる相手のは、陛下のみ」


天城の言葉を断るかのように、断固として告げるダーハラト。

しかし、彼の尻尾は、微かに揺れ始めていた。


「でも、お前が陛下のために尽くすというなら…

 そして、陛下のために力を貸してくれというのなら、

 オレは、陛下の臣下として

 そして、お前の友人として

 全力を尽くすことを誓おう」


しばらくの沈黙が流れた後、天城が口を開いた。


「ダーハラト…

 いや、そこまで格好つける必要はなかったと思うけど」


「貴様あぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

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