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暇だから言ってみた。「光あれ」  作者: アインソフ
快走・迷走・暴走
33/54

やっちゃった

「はああースッキリした。」


しばらく車を飛ばし、気分転換になったようなセレステだったが、その横の助手席に座っているメンゲンはどうかというとー


「いったい、どういうことですかこれは」

 私を拉致して、この国の国防に穴でも開けるつもりですか?」


その質問に、セレステが訳のわからないといいたそうな顔で返してきた。


「…はい?

 何をおっしゃるのか、さっぱりわかりませんね。

 それより、その耳、どうにかしてくださいよ。

 軍務大臣であり、この国の武人の頂に立つと言われる方が、そんなさらわれ姫のよう怯え方をして…」


言われてみれば、メンゲンは今自分がどんな情けないことになっているのかにやっと気づいた。

ソファのような椅子(カーシート)にのめり込むように深く体を寄せては、セレステがつけてくれたシートベルトを両手で力一杯握りしめ、挙句の果てに両耳まで後ろに倒れかけていて、自慢の美しい尻尾も…無惨に両脚の間に巻き込まれているという、誰にも見せたくない、恥ずかしい姿を。


よりにもよってこの男に見せてしまったことに、メンゲンは一世一代の不覚と感じていた。


「どうでした?時速120kmを経験した、トゥシタ最初のヒトになった気分は?

 おや、その尻尾は…よほど気持ち良かったようですね」


ニヤニヤ笑いながら揶揄うように言ってくるセレステに、メンゲンは怒り感じたがだからと言ってここで殴りかかったり、この怪物の体内から出ていくこともできない。

夕方も過ぎて、もう周囲は暗くなっているのに、速度は落としたとはいえセレステはこの怪物―自動車を城とは反対の方向へと、走らせ続けていたからだ。

時速120km、という単位がどれほどの速さを示すかはわかりかねるが、周りの風景からいつの間にか相当な距離まできているのがわかった。いくら強い武人の彼でも、こんな時間に、しかも丸腰で城まで歩いて帰るのは、到底できないことではないけど難しい話だった。


「拉致する気でなければ、いったい私をどこに連れて行こうとしているかを、聞きたいんですが」


「あ?それはもちろん、私の邸宅ですけど?

 あなたを夕食に招待したじゃないですか」


「城とは正反対へと走っているのに?」


とんでもないことを言うな、と言う気持ちを込めて言ったら、セレステの呑気な、しかし棒読みの答えが戻ってきた。


「あ〜正反対だったか〜

 道理で、走っても走っても城が見えない訳だぁ〜

 じゃ、近道で戻りましょうか」


「近道?」


何もない野原を猛突進してきたのに、どこにそんなものがーと反問しようとした瞬間、前に例の『火花を散らす転移門』―セレステのゲートが現れた。

ただし、今回は車ごとに通れそうな、何か空間を断ち切って向こうー白亜館の庭園に繋いだようなものが。


「なっ!?」


驚く間もなく、二人を乗せた車は白亜館の庭園に出てきて、減速していた。


「はい、近道でしょう。

 いやあ〜私の能力でこんなこと言うのもなんですが、便利ですよ、ゲートって」


最初からこうする気だったのか。

メンゲンは、今日はこの男に籠絡され続けているという苛立ちを覚えたが、とりあえずは冷静を取り戻そうと頑張った。

何はともあれ、今日は彼の『招待』に応じた立場だから、ろくにそのもてなしに預かることもせず、怒って帰ってしまうなど、こちらから礼儀知らずな態度をとるわけにはいかないからだった。


「お帰りなさいませ、お館様」


邸宅のエントランスには、この邸宅の執事ラインバルトがきちんとした態度で二人を迎えていた。

メンゲンがノルガー王弟に頼んで、自分の実の甥であるラインバルトをこの邸宅に送り込んだのは、元々はお目つけ役を任せようと思ったからだった。

賢く、有能な甥だったから執事になってそう長くはなくても、その仕事をきちんとこなしているのは頷けることで、健気だと思って入る。

しかし、軍務大臣にして実の叔父である自分の命令―セレステを監視する役目はちゃんと行っていないというか、送られてきた報告書には彼に好意的な人物評しかなかったので、痺れを切らしていたところ、その本人に会うと…


「仕事は、上手くこなしているようだな、チオノ参尉?」


「は、おかげさまで」


『報告書、ちゃんと書かないか!』という皮肉が通じない彼ではないのに、平穏に答えるラインバルトを見て、こいつ軍を抜けて弛んでしまったのか、と思った瞬間だった。


「久しぶり再会した甥御さんでしょう?わざわざ階級で呼ばなくても」


そういいながら前を歩くセレステを追って邸宅に入ったら、ホールの中に、一人の老婦人が彼を迎えていた。


「お帰りなさいませ、閣下。

 マルク・メンゲン、ようこそ白亜館へ。

 お披露目パーティー以来ですね」


その老婦人、この邸宅の女主人代理であるビアラ夫人を見て、メンゲンはラインバルトがああなった事情がわかる気がした。


『そういえば、この男にはビアラ夫人がついていたな…

 これは、ラインバルトがどうこうできる相手ではない。

 ラインバルトが私の甥だということを知っている夫人なら…

 彼を送り込んだ目的など、とうにお見通しだったろう。

 むしろ飲み込まれたな』


そんなこと思っていたら、先ほどまでヘラヘラしていたセレステがいきなりシャキッとした態度になって、背筋も真っ直ぐするのが見えた。


「すみません、ビアラ夫人。

 急な招待で、邸宅のみんなには迷惑をかけました」


「ええ、全く。

 閣下は軽いお気持ちだったでしょうけど、マルク・メンゲンほどの人物をもてなすにはそれなりに準備が必要ですわ。

 でも今日という機会を逃すまいというお気持ちは、十分察します。

 ガルカンくんが少し、泣いていましたけどね、準備はできておりますわ」


「ああ、それは悪いことをしたな。

 彼には後程、労いのレシピでも送らないと」


「ええ、頼みますわ」


メンゲンは目の前のセレステが『貴族的な振る舞い』に慣れていることに感心した。

『社交界の女王』であるビアラ夫人の前では、手練れの男性貴族さえ緊張して強張ったりすることが多々あるのに、あんなに自然に話し合えるとは。

宰相が『あいつにはビアラ夫人の入れ知恵が』と不満を漏らしていたが、それ以上の何かがあるように見える。


「さあ、マルク・メンゲン、こちらへ」



セレステの案内に従い、メンゲンは白亜館の食堂へと向かった。


                 ***


「食事はお口に合いましたかな?」


「はい。腕のいい料理人をお抱えのようですね」


食事を終えた後、二人は応接室に移動して、二人だけの談話に移っていた。


「はい。王妃殿下のお気遣いで、宮中料理人の一人を送っていただけました。

 それより、お屋敷への連絡は?」


それを今更聞くか?と言いたいところだが、流石にそうは言えなかった。


「昼間に使いを送っておきましたのでご心配なく」


「それはよかった。

 …話が少し、長引くかと思いまして」


家族が待っていないか、とは聞かないのか、と思ったが、ビアラ夫人のことを思い出してその思いもやめた。

自分が生涯独身で、妻も子供もいないということぐらい、もう分かっているはずだから。


「まず、軍務大臣殿に確認したいことがありますけど。

 未だに、私がフーマニタと組んでいないか疑っているんでしょう?」


単刀直入で聞いてくるセレステに、メンゲンは隠してもしょうがない、素直に答えようと思った。


「昨日までは、それでも仕方ないと思っていました。

 国防を担当するあなたにとって、不確定要素の私を信頼しないのは、大いに結構。

 いや、むしろそれが軍人であるあなたの本分ですから当たり前でしょう。

 しかしですね…」


セレステの瞳に、昼間の怒りが蘇るのが見える。


「フーマニタがどんな連中か、今日の昼間まで分かっていなかった。

 それだからあんな甘い気分でいたんです。

 それが…あのような悪行を平気にやってのける連中だったとは。

 いや、あれはまだいい」


だんだん、怒りがエスカレートしていくのが、目に見えるようだった。


「失礼。これは飲まなければならなそう」


セレステは、腹が立って仕方ないように、ロックで割ったウィスキーをグイッと一気飲みした。


「…レギス・セレステ?」


「失礼しました。あれを考えると腹が立って。

 何?あんなことをする野蛮種のくせに、私の愛おしい息子に…

 『魔王』だぁぁぁ?ふざけるな!」


「レギス・セレステ…」


「そしてあんたもだ!」


「え?」


「よりにもよって、私をあんな連中と一緒にするなんて!

 ほら!罰酒だ!飲め!」


「酔ったか!」


「酔ってません!

 でも飲まずにはいられない気分だ!

 付き合ってくださいよ!」


「はあ…」


本意で受けた招待ではないが、ここまで言われると飲まずにいるのもあれな気がして、見たことのない酒を口にした。


「くっ…強い」


嗅覚の鋭いルパシドとしては匂いを嗅ぐだけで酔ってしまいそうな強烈な酒の香りの後に、喉に火がつくような強い酒精がついてくる。


「これ…かなりの毒酒…」


「いや、あんなふわふわでもふもふでブヨブヨでふんわりした可愛い我が息子が!

どこからどう見れば魔王に見える!」


かなりの語弊がある形容詞が連続している気がするが、メンゲンにはそれを指摘する余裕が、あまりなかった。


「あの…レギス・セレステ?

 そもそも、その『マオウ』というがなんなのか、私たちにはさっぱり…ヒック!」


もう酔いが回っているようだが、メンゲンは自覚していなかった。


「あ?そこからですか。

 悪魔の王…とでもいうべきでしょうか」


「アクマ?」


「あ、神の概念がなかったから、悪魔も…

 むむむ…なんというか…

 諸悪の根源であり、邪悪な覇道を歩み、生きとし生けるもの全てを堕落させ、救いのない悪と滅びの道に陥れようとする…そう、全ての悪を束ねる悪の親玉?」


なんだか大袈裟な表現になってしまったけど、神も悪魔もいない世界の者に『魔王』を説明するとなると、仕方ないことかもしれない。

そしてその、言わんとすることはメンゲンにもちゃんと伝わったようだ。


「何!?

 我らが王に、なんという不敬極まりない侮辱か……!」


「でしょ!

 だから、私をフーマニタのグルだと思うのは、あなたの自由だから、結構です。

 しかし、かわいいラシオンを魔王などと吐かす連中と一緒にされるのはね!

 ああ、ムカつく!」


セレステは2杯目のロックのウィスキーをまた一気飲みして、3杯目を注いだ。

それを見たメンゲンが、グラスに残っていたウィスキーを飲み干してグラスを差し出した。


「誠に、これは飲まずにはいられないことだ。

 私にももういっぱい、お願ひします。ヒック」


「おお〜いい飲みっぷり〜」


注いでやったウィスキーを今度は一気飲みするメンゲンをみて、ほろ酔いになっていたセレステがもう1杯、注いでやった。


「だからです!

 あんな連中なんか、ぜーったい許せません!

 我が子を貶める連中なんか、許すものか!」


「あ〜そうだそうだ〜」


「分かってくれますね?」


「はひぃ〜」


「それで、胸中のことを曝け出して見せて、疑いなど水に流してしまおうと!

 男対男で、話し合えば分かっていただけると思って、無理やり招待したんです」


「あああ…それはわかります…

 でも、なんで拉致なんかしたぁ?」


グイっと、また一気飲みするメンゲン。


「え、マルク・メンゲン?」


「うりゅひゃい!もう一杯!

 なんで拉致なんかしようとひたぁ!」


確かに、メンゲンは『飲めないほどではない』と言っていた。

しかし、それは決して『酒に強い』ということではなかった。

それに、アンテロの酒はあまり酒精が強くない。


つまり…いくつかの些細な誤解が重なり…

セレステは『やっちゃった』のだ。


「い、いや、あなたもスピードが好きかと思って…」


「怖かったよぉ!ヒック」


「えっ」


今になって、セレステはメンゲンの耳と尻尾のことを思い出した。


『あれって、本当に怖かったんだな。

 …マジで悪いことをした…気がする』


「いや…それは…

 すみませんでひた」


セレステも酔ってきたのか、舌が回らなくなっていた。


「…もう一杯」


「飲みすぎなんじゃ…

 はい」


注いでやったウィスキーをまた一気飲みして、メンゲンはガクン、と俯いてしまった。


「あの…メンゲン卿?」


答えがない。

完全に酔い潰れてしまったようだ。


「メンゲン卿?

はあ…やりすぎたかな」


飲ませすぎた思い、これはどうすればいいか悩むセレステの目に、メンゲンの頭頂が見えた。

大型犬…いや、オオカミの頭。

それを撫でてみたいというのは、猫はの彼にとっても耐えられない誘惑だった。

セレステは、メンゲンの頭にそっと手を伸びた…


                 ***


「いたたた…」


地球のマンション、

リビングのソファで目を覚ました天城を、二日酔いの頭痛が容赦なく襲ってきた。


「あれ…いつこちらに戻って来たんだろう?」


昨日、トゥシタの白亜館でメンゲンと飲んでいたところまでは思い出せる。


しかし、そこからどうやって地球に戻って来ていたのかが思い出せない。


「はあ…飲酒で記憶が飛ぶのは、危険だそうだけど…」


渇きを感じて、水でも飲もうと冷蔵庫のドアを開けたら、寝室の方で誰かがいびきをかく音が聞こえてくる。


…誰だ?


ずっとトゥシタにいて、そこから酔ったままで戻って来たから、マンションに客がいるわけがない。

誰かが入って来たと言っても、リビングに自分がいるのに、寝室で平気で寝ている?

ありえないことだろう。


一体誰が寝ているのか、と二日酔いで頭痛がする頭を抑えながら、寝室を覗いてみたらー


「な、なな、ななな、なにーーー!?」


一糸纏わぬ生まれたまんまの姿のメンゲンが、ベッドの上で寝ていた。

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