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暇だから言ってみた。「光あれ」  作者: アインソフ
快走・迷走・暴走
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一っ飛びしますか?

宰相と5人の大臣がセレステと会議という名の懇親会を開いていた時、軍務大臣であるマルク・ダーハラト・メンゲン・パールは、自分の執務室で書類に目を通していた。最近フーマニタと領域と近接している近隣諸国から、フーマニタの雲行きが怪しいという情報が入っていたから、それを検討しているところだった。


そんな時期に、フーマニタ酷似の不審者が王宮に現れては、国王陛下の前世の父君という信じがたいことを国王が主張され、数々の奇行や、異世界物産の専売事業とかいう怪しい手段で大臣以下、他の大臣たちまで手懐けるという、どこからどうみても胡散臭い行動を見せているのだ。

自分一人だけでもあれを警戒し、覚めていなければならないと決心したのも、無理な話でもなかった。何より、彼が現れた時期が絶妙すぎる。


そんなことを考えていた時、副官が彼の執務室の扉をノックする音が聞こえた。


「何だ?」


「はっ、軍務大臣閣下。

 レギス・セレステ卿がお見えです」


噂をすれば、ということなんだろうか。


「申し訳ないが、お引き取り願いたい。

 と、伝えてくれ」


「はああ?」


副官が伝える前に、誰かの呆れたような声が聞こえた。

扉の前に、副官と一緒に待っていたようだった。


「セレステ閣下、困ります!」


「退きなさい。

 『レギスを力づくで束縛した』という罪に問われたくないならな。

 今なら『権力の横暴に抗えず、やむなく通した』ということにしてあげられる」


もうあそこまで権力を振るうことに慣れていたのか、とメンゲンは考えた。

困り果てた様子の副官がなにか喚いているようだが、所詮は『止めようとはしたが、結局

権力には抗えなかった』というアリバイを、周囲にいる軍務部員たちにアピールしているだけなのだろう。

彼もまた貴族とはいえ、ビカリに過ぎない中間階級なのだ。

最高位のレギス相手に、仕方ないことだ。


「ということで、入らせてもらいます」


パタン、と扉が勢いよく開かれ、セレステがズカズカと踏み込んできた。

扉が開閉するわずかな間、困り果てた顔でそっぽを向いている副官の顔が垣間見えた。


「おやぁ~?お留守だと聞いたような気がしましたが、いたじゃないですかぁ?

 軍務大臣もお人が悪い。門前払いされるなら、せめていないフリぐらいは通してくださいよ?

 しかも、曲がりなりにもあなたより位の高い私相手に、ですね?」


メンゲンは部屋の主の了承ももらえず勝手に入ってくる非礼を指摘しようとしたが、セレステはその隙を与えず『上位者への無礼』を攻め、なにも言えないようにしてしまった。

確かに、6大臣にはそれに相応しい権威が与えられてはいるが、自分より上位の貴族に無礼を働いたとケチをつけられたら困るのはこちらだ。


「非礼をお詫びします。

 どのようなご用件でしょうか」


こうなった以上、用件を聞いてさっさと引いてもらうしかない、とメンゲンは思った。


「ああ、軍務大臣殿とお話がしたいんですが…

 さすがに勤務中に私語で長話、ってのはいけないでしょう?

 今日の退城後、ご予定は?」


「特にありませんが」


なにかやっかいなことになりそうだと思いながらも、だからと言って嘘をついて逃げてもこの場しのぎに過ぎない。特に役にも立たないのに嘘をつくのは、彼の性格上あり得ないことだった。


「それはよかった。

 あなたに『果たし状』をわたしに来ました」


「はたし…?」


そう言ったセレステが不敵に笑いながら自分に差し出した封筒を、メンゲンが驚いて確認したらそこには『招待状』と書いてあった。


「…趣味の悪い冗談ですか」


「いいえ、私は至って真面目ですけど?

軍務大臣殿、あなたとは白黒をつけなければいけないことがあるようでして。

あ、だからと言って決闘の申し込みなど、物騒な話ではありません。

ただ、うちの夕食にあなたを招待したいだけです」


「夕食に招待…ですか?」


目の前の人物がいったい何を企んでいるのか、実直な性格のメンゲンとしては、理解し難いことこの上なかった。


「そうです。晩餐でも夜会でもない、ただの食事招待ですから、お気軽に寄ってください。

 あ…よろしければ、私の『自動車』でお向かえしましょうか?」


『自動車』という言葉で、メンゲンの眉がビクリと蠢いた。

最近セレステが王城jに参内するたび、騎獣が引く車ではなく『自ら走る車』に乗ってくるという噂は彼の耳にも入っていた。正直あれがどのようなものか気にならないわけがない。だが、いまだにセレステのことを警戒している彼にとって、ナイラン魔術師長のようにセレステに付きっきりで質問責めにしたり、内務大臣のように『偶然にセレステの参内に居合わせる』などという真似は、できそうになかった。


「いいえ、ご招待には応じますが、そこまでお世話になるのは」


「大丈夫です。どうせ私も王城にいる予定ですし、方向も同じでしょう?隣人ですから」


「そこまでおっしゃるなら…」


これ以上遠慮するのもまた、礼儀に反する。

『仕方ない』、と自分に言い聞かせながら、メンゲンはセレステの招待と提案に応じた。

……自動車という未知なる誘惑に負けた、というのは敢えて気づかないフリをして。


「そう言えば、酒は嗜めますか?」


「飲めないというほどではありませんが」


「それはちょうどいい」


『晩酌でもする気か』


と、その時のメンゲンはさして深くは考えていなかった。


「では、退城時間に合わせてまた来ます。宜しいですね?」


「ご自由にどうぞ」


案外素直に引き下がるセレステを幸いと思いながら、メンゲンはそう答えた。


***


その日の夕方、退城する官吏たちの間に、いつの間に王城の『名物』になっていたレギス・セレステの『自動車』に白亜館の者ではない人物、しかも軍務大臣がその『自動車』に乗ると聞いて、珍しい光景が見れると、大勢で野次馬になっていた。


「私も乗ってみたかったのに!ずるいですよ!」


虎視眈々と自動車に乗せてもらえる機会を狙っていたコミス・ナイランは、ハンカチを噛みながら悔しがっているほどだった。


「まあまあ、今日は軍務大臣殿と先約がありまして」


と彼女を宥め、メンゲンを助手席へと案内した。


「はい、そこから入って、そのシートに座ってください。そしてこのベルトをー」


「これって、座るというよりほぼ横になるのでは?」


セレステが実体化させたのは、イタリアのとあるスーパーカーだった。

実体化する時にどういうことか、元のエンジンではなく電気自動車になってしまったので元のスーパーカーのような怪物エンジンの唸り声は聞けないけど、ガススタンドのないこの世界ではむしろ好都合といえる。

なにしろ、白亜館では太陽光発電ができて、電気自動車の充電ができるからだ。


「まあ、それがいい(?)車ですから」

 さっき閉めてあげたシートベルト、ちゃんと締めていますね?

 では行きます」


グウウ


かすかなモーター音と共に、揺れもせず車が動き出した。


「ぬっ?」


騎獣もなければ振動もなく、奇妙な音と共に自動車が動き出した瞬間、メンゲンは顔には出ていないけど本能的な恐怖を感じた。


こんなものを使役しているセレステは、いったいどんな存在なのか。

フーマニタ疑惑をまだ抱いている彼だったが、あの野蛮的な連中に、こんなことができるとは思えない。


そんな考えを巡らしているメンゲンに、セレステが独り言でもいうように話しかけた。


「聞きました、フーマニタのこと」


「何をですか?」


「色々と。

 あいつらが陛下を『魔王』と呼んでいること。

 許せませんよ、あんな連中」


「そうですか」


そう答えるしか、これといった話題が思い出せず、黙って車窓の外を流れる風景を見つめていたら、メンゲンは自動車が自分達の邸宅方向ではなく、外城の出口へと向かっていることに気づいた


「レギス・セレステ?ここはお屋敷方向ではな…


「わかっていますよ。

 せっかくだし、一っ飛びしたいと思って」


「……飛び?」


いつの間にか外城の検問所の前に到着していたセレステが、車窓をおろして警備兵に話しかけた。


「レギス・セレステとマルク・メンゲンだ。

 秘密の用件で、城外に出る。

 時間内に戻ってこなくても、そのままは閉門していいぞ」


「は、はっ!」


外城の警備兵は、怪物に乗っていきなり現れた最上位の貴族二人に、固まってしまった。

貴族二人はこんなところに現れただけでも驚くべきことなのに、その二人が黒い怪物に乗って現れて、『秘密用務』などと…


多分、しばらくは飲み会でこの話題だけで人気者になれるだろう。


「さて、通行人のいなさそうなところまで出てきましたし…飛ばしましょうか!」


「飛ばすって何を…わああ!?」


生まれて初めて感じる加速に、歴戦の武人ダーハラト・メンゲンも、絶句してシートベルトにしがみつくしかなかった。

更新が遅くなってすみませんでした。

今日は展開の都合上、少し短めです。

読者の皆さまにご了承いただけますと幸いです。

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