うちの息子に、何か?
その日の会議は結局、大臣たちの会合のような形になってしまった。
これからの専売事業の構想について話していたところ、どこから聞いたか、というか匂いを嗅いだのか(カニセイドだけに)、外務大臣ロイバー・ナデント・パールまでもが会議室に乱入して来ては
「非対称交易物ができるという話なのに、私に内緒であなた方だけで話をすすめるのはどうでしょう?ええ?」
と、すごい剣幕で不満を言ったり(セレステは『あのヒトまさかヤ〇ザ外交でもするのか?』ととんでもないことを想像した)、大臣たちの姿がが見えないのでおかしいと思った王がやって来ては
「余を差し置いて卿らで面白い話をしているなど、謀反だ!」
などとアホくさくても笑えない冗談をいったりで、結局フェリデリア国家首脳部の集まった懇親会に変貌していた。
「そういえば、軍務大臣殿は?」
「あれの領分とはあまり関係のない案件ゆえに、呼んでおらん」
「へえ~そんな風にで内務大臣殿も仲間外れにしたんだ~」
「くおらぁ!その話はもうよさんか!」
どっと笑う大臣一同。
「でも、それも今しばらくのことですし、ゆくゆくは軍関連の話にも発展するんだろうと思いますけどね。
それに大臣全員がここにいるのに、軍務大臣一人だけ仲間外れにするのもわるい気がしますよ。
もうお茶会雰囲気だし、あの方も同席させたほうがいいのでは?」
とセレステが言うと、大臣たちお互い視線を交わしながら、なにか言いたいことがあるが躊躇っているような雰囲気だった。
「皆さん何を隠しています?
彼が私のことを警戒していること?」
「おや、ご存知でしたか?」
内務大臣が大臣代表を打って出たか、そう答えた。
「まあ、話しかけてもろくに話する気がないようですし、隣人だというのにこの間のお披露目パーティーに招待したら挨拶だけ済ませてすぐ帰ってしまったし。
私、彼に何かしました?これでは警戒されるというか、嫌われてるようですけど?」
「いや…彼は、王父卿個人のことを嫌っているわけではなかろう。
卿がフーマニタ、我らアンテロに仇なす、敵性種族と似ているからだ。
あれらとは戦争をしたこともあるから、軍の責任者である彼にとって、卿を警戒したくもなるだろう」
「え、戦争…?」
平和な時代に生まれたセレステ、日本人の天城にとっては縁のない言葉だから、聞いても実感が湧かない言葉だった。
しかし、国家がいて、軍がいるなら、紛争や戦争があるのは必然なんだろう。
セレステは、自分の認識が甘かったのでは、と思った。
「だから私が初めてこの王宮に来た時、あんな騒動が」
「いや、それはフーマニタじゃなくても大騒ぎになります」
「王宮に不審者だなんて、それがどんな種族でもな」
法務大臣と宰相にツッコミを入れられながら、天城は少しおかしいと思った。
「では、皆さんはそのフーなんちゃらに似ている私を見ても、敵愾心とか嫌な思いとか、しないんですか?」
「それは…」
すこし困った顔になる大臣たち。
「正直、最初あなたの顔を見た時は、私たち大臣全員、驚いていました。
警戒もしなかったわけではありません。
しかし、あなたは『フーマニタに酷似しているだけ』で、フーマニタの特徴とは違うところが多い。髪の色とか、肌の色とか、瞳の色とか」
内務大臣が何か重要な話をした気がする。
肌の色?
紙の色はヘアダイなどで変えられるけど、肌の色はそうはできない。
「肌の色が、どうなんですか?白?黒?」
「それが…蒼白で小汚そうなピンク?」」
「え、ピンク?…あ」
そういえば西洋人て、自分で『白人』と言っているけど実のところ、皮膚が薄くて血管がすけてみえるから白どころか赤かピンク、と呼ぶにふさわしいという話を聞いた覚えがあった。
『要するに、人間型生命体―フーマニタは、西洋人の顔をしているというのか。
だったら私を見て『似ているだけの別の種族』と考えるのも無理ではないかも
…山椒魚とトカゲぐらいの差、な感じ?』
自分を山椒魚だのトカゲだの、酷い例えをしているセレステだったが、他人に言われれば怒っていたけど、自分で自分のことをそう言っているのだから特に気にしないでいた。
「うん、まあ…何とかわかる気はしますね。。
もしかしてそのフーマニタって、鼻が大きかったり、髪が金色や明るい茶色だったり、瞳が蒼だったり…あ、黒い肌もいます?」
「黒?肌の黒いフーマニタの目撃例は報告されていませんな。
それ以外には大体あってます。王父卿もどこかでフーマニタに?」
と、内務大臣は興味を示しているが、これは色々とまずいかもしれない。
一昔の西洋ファンタジーのような人種構成をしているのかな、フーマニタって。
「ま、まあ…フーマニタにあったというか…
地球人にも似たような連中がいましてね。
もしかして種族性も似ているなら、あまり会いたくない種族になるかも」
「ほほう、それはそれは。
でも会いたくない種族というのは、全く同感ですな。
なんでも、自分たちを『選ばれし種族』と自称して、他の種族を地上から駆逐して自分たちだけが繁栄する世界にするべき、と主張して、自分たちのっ周りにいた群小種族をほぼ絶滅にまでおいやっていた野蛮種ですから。
教養、品性、知識、その他何からみてもあなたには全然及ばないやからです」
『うわああああ…これ、やばくね?』
「実に酷い連中です。他の種族と共存の意志などなく、捕食までしますから」
「ほ、捕食?」
「平和な農耕民族だったピグレッツの集落を襲っては、理由もなく村民を虐殺して『オーク討伐』とか言って、挙句の果てに被害者を…」
「え、え?ちょっと、オーク?」
「はい。何かこころあたりでも?」
「あ、いや…ちょっと、勘違いしたみたいです」
あやふやに言ったけど、セレステは混乱の渦の待っただ中に落ちた気分だった。
オーク。
あの「指輪物語」が初出で、色んなファンタジーで悪のヒト型異種族として愛用(?)されたあげく、『豚に似た不細工な顔』と言う描写だったのが日本ではいつの間にか『イノシシ頭』になっていたあの超のつく有名な固有名詞をー
宇宙の彼方のここ、トゥシタで聞くことになるなんて、ありえる話ではない気がした。
しかも、ラノベでよく登場するあの…悍ましい扱いで。
「スゥーイはどうですか。手癖は悪くても、そんなに大した悪行を働くわけでもないのに、あのかわいそうな流浪民族を『ゴブリン』とか勝手に呼びながら…」
『まただ…
いったい何なんだ、あのフーマニタって連中?』
迷路の中をさまよっているような気持ちのせいで、少し顔色が悪くなったセレステを見て、商工大臣が心配沿いな声で聞いて来た。
「レギス・セレステ?お気分がわるいんですか?」
「あ、いえ…
気持ち悪い話を聞いたら、吐き気がして…」
吐き気がするというのは、本当の気持ちだった。
『二足歩行の豚』と称してオークを捕食するなど、小説で読んだらそんな設定もあるのか、という気にしかならなかったけど、目の前に生きている獣人―アンテロがいて、親しくなった彼らからこんな衝撃的な話を聞くと、吐き気がするのも無理ではない。
「まったくです。いったい同じ知性生命体をなんだと思うのか」
「あれらはこのトゥシタを『自分たちのためだけに用意された』世界だと勘違いしているからのう。
なにも『カミ』なる存在に選ばれた、とかぬかしよるが、なんじゃそのカミとやらは」
虫唾が走ったか、吐き捨てるようにいう宰相の言葉に、セレステは違和感を感じた。
「神…ですか?」
「ぬ?おぬしには思いあたる所があるのかね?
そういえばおぬし、先からおかしい反応をみせていたのう。
聞けば、フーマニタに似た連中がチキュウにもいるようじゃし。
なら、『カミ』がなんなのか、知っているか?」
これはどう答えるべきか、セレステは悩んだ。
何度もいうけど、アンテロ、すくなくともフェリデリアの文明レベルは「19世紀初期」という感覚だった。
歴史に精通しているわけではないし、地球の歴史と1対1対応しているわけでもないからはっきりは言えないのがもどかしいが、見た目的な感覚はそうだった。特に マントル式の油ランタンが。
でも、トゥシタと地球の間を行き来するようになって結構経っているけど、なにかしらの宗教の兆しが見えなかったから少しおかしいとは思っていたけど…
『まさか、『神』という概念そのものがないというのか?』
もしそうだったら、軽率に神などを口にしてはいけない。
どんな影響を及ぼすか、想像もできない。
幸いなことに、セレステ自身は無神論者だった。
「なあに、壱文の価値もない、クズのような言い訳専用言葉ですよ。
自分がやりたくてやった悪行を「神の思し召し」とかいう連中の」
「ほお、そんなことか。
道理で、連中はことあることにカミガミカミガミ、うるさくカミを唱えておったんじゃな。
なさけないことよ」
「ええ、全く」
珍しくセレステと宰相の意見が一致した、その時だった。
外務大臣が、恐る恐るセレステに聞いた。
「あの、レギス・セレステ?」
「はい?」
「どうやら、フーマニタの言っている戯言を、レギス・セレステならおわかりのようですが」
「あ、いやいや、偶然似たような言葉が地球にあるだけです。
これじゃ、あいつらのスパイ疑惑が蘇えちゃいそう」
一同が苦笑いするなか、外務大臣が言い続けた。
「ははあ、もちろんそんなことはありませんけど…
たまに、隣国から入ってくる情報によると、フーマニタの国からアンテロの国の指導層を狙い、暗殺者集団を送ってくるそうです」
「なんと、卑怯極まりない連中ですな」
「まったくです。
しかし、その暗殺者をあやつらは…
『ユウシャ』と呼んでいるそうで」
-ぶほっ
「なんじゃお主、ヒトに向かって茶を吹きおって!汚いわ!」
「げほっ
す、すみません宰相殿。
あ、あの外務大臣殿?それは間違いない情報ですか?」
「はあ…隣国経由の情報ですから、正確さは落ちるとは思いますが…
『ユウシャ』という名称を使っているということだけは、多方面で入ってきているので、ほぼ事実かと」
セレステは、嫌な予感がしてならなかった。
でも、これは異常なまでに辻褄があう。
「あの、外務大臣殿?」
「はい?」
「その情報に…もしかして『魔王』という内容は?」
「…あります。
我らの国王陛下を指して、「マオウラシオン」と」
はあああああああああ!?




