詳しくお聞かせ願えますか
「それで?」
「はい?」
「そのような重要な話を、私と商工抜きでされた、と?」
専売事業の件で内務大臣と商工大臣も混ぜて会議する必要があるという話で、後日彼らを含んだ4大臣と宰相、そしてセレステの6人が集まった会議での、内務大臣であるノルウェージャンフォレスト・フェリノイ、レギス・バルネ・レイハネン・パールが、不機嫌そうな顔でセレステにいった。
それもそのはず、宰相を除けば6大臣の筆頭にくるのが内務なので他の大臣とは違って、宰相と同格のレギスの位を持っている自分を、あのような重要な案件の会議に呼んでいなかったというのが、癪に障ったからだ。
「あ、それですが…
宰相がですね、『あれは呼ばなくてもよい』と」
「こら!わしはそんなことは言っておらん!」
冗談(?)でそのばを逃れようとしたセレステに、宰相がカッとなったが、内務大臣は今度はそんな宰相をにらんだ。
「ほほう…これはこれは。
確かに、会議メンバーを王父卿が選んだわけではないでしょう。
宰相、まさかこの私を牽制するおつもりで?」
まるで権力争いで神経戦でも繰り広げているようないいあただが、その実、内務大臣の尻尾の先はピタピタと、面白いことでも考えているかのように動いていた。
…大臣の目が届かないところで。
「おぬしもあれの言うことを真に受けるな!
こんな処でまで何気に悪戯する、悪ガキのようなもんじゃよ」
その深刻な(?)雰囲気を破ったのが、そばから聞こえてきた笑い声だった。
「い、いじわるジジイ…ぶふっ、ぷぷぷ、きゃはははは!「
テーブルを叩きながら爆笑しているゴールデンレトリーバーカニセイドの女性。
女性大臣のコミス・バリネレ・イトーナ・メアだった。
「おぬしはそれがそんなに可笑しいか?」
「だ、だって、ぷぷぷ、傑作じゃないですか。
誰にも言えなかった真実を…ぷふふふ」
「ぬわんじゃとぉ~?」
最近、というかセレステが現れてから自分の権威にひびが入ったような気がする宰相だったが、それを阻止しようともまったく言うことを聞かないのがその元凶であるセレステなのが、悩みの種というか、ほぼ諦めていた宰相だった。
「そうガンガン怒っては血圧にわるいですよ?
お茶でもどうですか?はい」
その元凶がぬけぬけとお茶など勧めているのだ。
「そもそもお主がな…なんじゃこの泥水は」
「お茶です、お茶。正確に言えば抹茶ですけど。
ご老人のお口にはこれが合うかと」
「そうしてすぐ老人扱いするから!」
そのやり取りを聞いていた商工大臣がまたテーブルを叩きながら爆笑していたが、セレステを見つめる内務大臣の目が細くなっていた。
あの会議室で初めて現れた時にはいろんな意味で衝撃を受けていたが、それ以来、この男に関する情報や噂は、どれも自分の耳を疑いたくなるものばかりで、あの邸宅のお披露目パーティーの日には、自分の目であの白亜の邸宅とその『まるで魔術の精粋であるかのような』偉容に、驚かされていたのだ。
そして、あの日味わった『異世界の物産』で専売事業を立ち上げようとしていると聞いた時、これは期待してもよさそうだと考えていたので、自分もその会議の場に呼ばれるのを楽しみにしていたらー
まあ、宰相はそんなに大事になるとは思わなかったのか、財務と法務だけど同席させていたというから、少々イラっとして、かるく仕返すつもりでああいってみたものだが、宰相はいいとして、セレステの方は全く気にも留めていないかのように、軽薄にも受け入れかねない態度をとっているのだ。
あまり物事を深く考えない性格なのか、でなければわざとああいう行動を見せる大物なのか。いまでは判断の材料が足りないと、内務大臣は感じた。
「内務大臣殿も、お茶でもいかがですか?
宰相殿は泥水呼ばわりですけど、大人の味ですな、抹茶は。
ウーロン茶は先日貴族街でお見せしましたけど、発酵臭で相手を選ぶようですし。
あ、財務大臣殿、蜂蜜紅茶をどうぞ」
「おっと、いつもありがといございます」
そう言いながらテーブルの下から変わった形の瓶を出してくるセレステを見て、好奇心を覚えた内務大臣がそこに目を遣ったら、そこにはこれまた変わった形の箱が置いてあって、そこからお茶の瓶を出していた。
「それは?」
「あ、今日は暖かいお茶を振舞おうと思いまして…保温ボックスで持ってきました」
保温ボックス?
「食品が冷めないようにする道具ですか?」
「あ、はい。保温も保冷もできて、半日くらいは持つものです」
「ほお、興味深いですね。
では、そのマッチャなるお茶を、いただきましょう」
どうぞ、と渡されたコップと、茶の瓶で内務大臣は、平常を装っていたが心の中では相当驚いていた。
『相当薄いコップ…と思ったら、これは紙?
それに、これが貴族街で噂になっていたあのガラスでもないのに透明な素材の瓶か。
しかも…熱いというほど暖かい』
「これは、王父卿の邸宅で温めたお茶ですか?」
「?いいえ。自動販売機で買ってきたものです」
「自動販売機?」
「あ、無人で飲み物を売る機械です」
表情こそ変えていないが、内務大臣は心のなかで当惑を覚えざるを得なかった。
あんな小さな箱一つでこんな温度が維持できて、店員がなくても機械が飲み物を売る?
この男の来たチキュウという異世界は、いったいどうなっているのだ。
とにかく、内務大臣は勧められたので紙のコップに瓶のお茶…マッチャというのを注いでみた。濡れて破れるのではないかと心配したが、コップが濡れる気配は全然ない。
紙に何をすればこんなことができるのだ?と、気になることばかりだったが、それを顔には出さずにいた。なぜかはわからないが、この男の前では言行に気を付けないと、あの宰相の二の舞になる、そういう予感がしたからだ。
「ええ?無人で飲み物を売るんですか?
カフェはありませんか?チキュウには?」
商工大臣が、好奇心に勝てずセレステに気になることを聞いで、彼女が初対面の人とも親しみやすく、好奇心に勝てない性格で助かったと、内務大臣は思った。
慎重に、マッチャを口にしてみる。
宰相が言っているように、まるで泥水かのような緑の泡が立つ、半分ドロッとした液体だったが、奥深い香りと、ほろ苦い味がして、『そうか、確かに『大人の味』たな』と、思う時だった。
「あ、もちろんカフェはありますよ。
でもカフェでテイクアウトしたのを保温ボックスに入れるのはどうかと思いまして…
でも自動販売機に入っているのは広く売れているとお墨付きと考えてもいいから、高級とまではいかなくても、味は保証できると思いますよ」
「げほ?」
内務大臣は、飲んでいたマッチャをむせかけた。
こんなお茶が、高級ではないと?
「え、大丈夫ですか?」
「あ、これは失礼しました。
いきなり咳が…もう大丈夫です」
と、内務大臣がごまかそうとしていたところだった。
「なんじゃ、これが高級ではないなら、高級は一体どんなものだと素直に聞けばいいものを」
『あのくそじじい!!』
なんとか自分のフェースを守ろうと、聞きたいことがあっても顔に出していなかったのに、それを暴き出してしまうなんて、冗談ではない、と内務大臣が思っている反面、商工大臣は気になることをセレステに質問していた。
「こんなお茶が高級ではないというんですか…
ちなみに、これ1本のお値段はいくらぐらいするのでしょう?」
「そうですね…そう言えばフェリデリアの貨幣価値のことをまだ聞いていない。
参考までにですけど、新入りの宮廷文官の給料は、いくらぐらいですか?」
「新入りと言っても、勤め先とかお家の家格とかで変わりますけど、だいたい2000フェリぐらい、になりますね」
商工大臣の答えに、セレステは大体新卒の新入社員の給料が手取り20万ぐらいになることを思い出した。
「ふうむ…そうですね。それ1便で1フェリちょっとぐらい?」
- ぶほっ
内務大臣は、結局我慢できず飲んでいたマッチャを吹いてい待った。
こんなお茶が、1フェリしかしない?
どれだけ豊かな世界なんだ?
「え?
じゃ、私のこの蜂蜜紅茶は…」
「ええと、それは1.5フェリ…
そういえばフェリの下には?」
「1.5フェリ⁉
これぐらい蜂蜜が入っていると、蜂蜜だけでも少なくとも500フェリはするのに!」
「うえ、ぼったくりしすぎ!」
「ぼったくりじゃありません!
レギス・セレステの世界って、いったいどうなっている世界ですか!?
あ、1フェリの下の単位はメチェです。1フェリは100メチェ」
「へえ…そうか。
いや、なんでそこまで円とほぼ一致する?
まるで誰かが両替率を考えるのが面倒くさくて適当に設定したような」
「設定じゃのなんの、またわけのわからぬことばかりぬかしおって…
まあ、いいか。
このマッチャなるのを、もう一杯頼めるか?」
「あ、はい。
泥水と貶した割には、お気に入ったようで?」
「ぬかせ」
悪態で応酬しているけど、宰相のあれは実は気に入っている相手に取る態度というのを、新入り文官時代から彼の下で長年勤めていた内務大臣はわかっている。
一体なにがあってあそこまであの頑固もんのじじいの気に入ったのか、とずっと気になっていたが、とにかくこれ一つだけは納得できた。
あの男が、このトゥシタに比べると怖いほど技術の発展していて、豊かな世界から来た者だと。
そして、その世界の物産を、この世界に『売る』だけではなく、『この世界の物』として見せようといったということは、この世界にどれだけの波紋を起こすのだろう。
あやしいほどいいことだらけの話なので、疑いたくなるのも事実だ。
利益だけを述べて、損失の話はしないのは詐欺師の手法というのは、常識の範疇に属するものだから。
しかし、ヒト一人が国家相手に詐欺を働く…というのが可能なことなのか?
もし本当にできるなら、見てみたい気持ちになるのも事実だけど、一国の大臣、しかも内政のトップである内務大臣が持つには、あまりにも不謹慎な気持ちだ。
でも、あの男が本気で言っていて、その言ったことが本当に実現されるなら、この国が歩む栄華の道は…
「レギス・セレステ?」
「はい?」
「その専売事業のこと、もう少し詳しくお聞かせ願えますか?」
「?もちろん、いいですよ」
内務大臣レギス・バルネ・レイハネン・パールは、目の前の不思議な男の本懐を、もう少し探ってみたい気がした。
色々あって、執筆が遅くなってしまいました。
申し訳ございませんでした!




