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暇だから言ってみた。「光あれ」  作者: アインソフ
快走・迷走・暴走
29/56

2割2分5理

「さあさ、お二人、落ち着いてください。子供じみた口喧嘩などしている場合ではないでしょう。そんなお年でもありませんし」


法務大臣、ランデハレ・バルハ・パールが、場を収めようとした。


「は〜い」


「いや子供はこやつ…」


「「宰相」」


まだ不満を言おうとしていた宰相だが、大臣二人が向きになっていうと、渋々受け入れるしかなかった。


『うん、流石に、ライオンとクマに同時に睨まれたらな〜』


「それで?専売にする商品は、どんなものをお考えですか?」


『税収が増える』という言葉の響きがあまりにも甘かったのか、財務大臣の食いつきが尋常ではない。国家の財政をに担う最高責任者として、当たり前と言えば当たり前だろう。


「そうですねーまずはちゅ〜◯、あ、あのフェリノイとカニセイド向けのおやつ。

 実はあれ、ソースとしてではなく単独で食べるように作られたものです。

 ペースト状だからソースとして利用してもいいだけ。

 その上種類も多く、だから、結構売れ筋がいいと思いますよ?」


「ははあ、そうですか」


「そして、正直、私としては全然予想もできていなかった蜂蜜。

 まさかこちらの世界の蜜蜂が、あんなに危ない生物だったとは」


「地球の蜜蜂は無害ということですか?」


蜂蜜のことならなんでも情報が欲しかったのか、法務大臣が聞いてきた。


「無害、どころか地球では益虫の類に入ります。

 もちろん毒針は持っていて、刺さったら苦労しますけど、蜜蜂の体自体が小さいから、刺せる毒の量自体が少なくて、アナフィラキシーショックさえ来なければ、死にはしません。

 だから地球では養蜂…蜜蜂を養い、蜂蜜を取る産業がありますよ」


「なんと、それは羨ましいことですね」


「だから、この世界の蜜蜂でもそれができないか、専売事業で受益が出ればその研究にも投資してみるかと思っています」


「はい?」


信じられない話に、法務大臣ランデハレ・バルハ・パールは目を見開いた。


「地球のを売るだけではなく、トゥシタの蜂蜜の養殖を?」


「ええ。いつまでも私一人に頼っては、私に何かあった場合、どうなります?

 それに、私のような地球人は、アンテロの寿命に比べればほぼ3割以下の、短い寿命を持っています。その上、私はその半分を過ぎていますし。

 私一人に頼っては、後30年持つかどうかなんです」


セレステのその言葉に、その場にいた宰相と二人の大臣は、背筋に凍り水でもかけられたような寒気を感じた。

これまで、地球人であるセレステの寿命のことを気にしたことはなかった。


しかし、今ではそれぞれの理由で、「あと30年しかない」という厳しい現実を突きつけられたのだ。


「あなた方アンテロは平均寿命が200年で、300年以上も期待できると聞きました。

 そんなあなた方にとって、たかが30年の甘い思いなど、人生に毒を盛られるようなことにしかならないでしょう。

 『あの時はよかった』と、短い思い出にするのは、普通の人にならできるでしょう。

 しかし、あなた方にそれができますか?」


凡夫なら、甘い思い出として残せる。

しかし、ここにいる大臣たちは、自分のことだけではなく、この国の末代までを考えなければならない。

『この国の出身でもなければ、ましてやこの世界の住民ですらない』セレステに、それを指摘されたのだ。


『新しい税収』でウハウハしていたが、それが30年後には無くなると思うと自慢のタテガミが抜けて無くなるような恐怖を感じる財務大臣。


種族が救援されたと思ったら、それが30年限定のものだと考えると、途轍もない絶望感に飲み込まれる気がする法務大臣。


そして…


「あ、もうご老体だから宰相殿は別に問題ないかも」


「こやつ…!」


むっとなったが、セレステのいうことに反論はできなくなった宰相。


「だから、できるだけこの世界の技術レベルを引き上げて、30年後にはこの世界の力で歩いていけるように、したいんですよ。

 なんでそこまでする?と?

 それは…

 不敬になりますが、目を瞑ってくださいよ。

 ここは、『あいつら』の国だから。

 あいつらの前世に思う存分、愛してやれなかった分、あいつらの治世を盤石の基盤に上せ、末代まで謳われるる偉大な君主にしてあげたいから。

 あいつらの子孫が、繁栄する国にしてあげたいから」


1百年も生きて行けない短命種の口から出た、あまりにも遠大な話。

しかし、この場にいる誰も、それを蔑んだり、笑ったりはできない。


「そのための資本が必要ですから、国家の税収とともに収益が期待できる、専売事業を考えたんです。ご理解いただけますね?」


これはもう、「否」とは答えない雰囲気ではないか。

3人はそう嘆きながらも、セレステのやろうということに非はないと、納得していた。


「しかし、いくらあれの受益でもそれだけの事業を起こすには限界が…?」


財務大臣が現実的な心配事を提示すると、セレステは軽く応酬した。


「あれ?まさか本当に『あれだけ』と思いました?

 例の計算機は、どうです?」


「あ!」


先日セレステにもらった、財務部でも2個しかない計算機は、今は財務部内では計算を必要とする官僚たちの間では奪い合い状態で、その中1つの大臣本人が、今でもまるでお守りのように、大事に肌身離さず持ち歩くぐらいだった。

それが、必要なだけ数を揃えられると思えば…


「あんなのが、地球には山ほどありますよ。

 もちろん、あれらもただ売るだけでは維持管理も、持続的な生産も期待できない。

 そして、売るだけで支出がなければ、経済が回らないでしょう。

 だから、技術研究と生産に投資するんです」


「やれやれ、子供だと思ったらこれは、怖い御人じゃったのう。

 そこまでいうなら、自信はあるのじゃな?」


財務大臣がセレステの狂気すら感じる気迫に気圧される気がしている側で、宰相が横で割って入った。


「まあ、アンテロの歳で考えれば、子供と言われても仕方ない歳ですから?

 自信ですねぇ…この幼い孫、お爺様方のご指導ご鞭撻に、頼ってますよ?」


「お爺様方…」


二人の大臣が呆気に取られているところ、宰相が豪快に笑いさした。


「カッカッカッ

 これはこれは、手に負えない孫ができたもんじゃ。

 いや…正直この年にお主のような悪ガキの孫は勘弁してくれ。

 その代わり、国をことを考える仲間はどうじゃ?」


「ああ、謹んで承りたい…とは思いますが、それでいいんですか?お二人は」


唖然としていた二人の大臣は、セレステの質問で我に帰った。


「あ、ああ…王父卿のおっしゃる通りになるなら、財務としては反対する理由がありません」


「法務は、全力でサポートします」


「いや個人の思惑で権力を振るのはご遠慮…」


「いいえ、あなたの仰ったことはこの国の未来と、この国だけではない、この世界に生きとしいける全てのウルソートの未来にかかった問題です!」


「そう…ですか…

 それは思ったよりスケールの大きい反応ですね。あははは」


今度は法務大臣の気迫にセレステが気圧されていたら、宰相がツッコミを入れた。


「いや、それをいうならお互様じゃ。

 全く、税収がちょっと増えるぐらいの話だと聞いてきたら、なんじゃこの大袈裟な話は」


「確かに」


どっ、と、四人は笑い合ってしまう。


「しかし、話がそこまで大きくなるとすると、内務と商工も呼んでこなければなりませんな」


「それはそうじゃが…あれらのスケジュールがあるからな。

 とりあえずは、この4人でできる話をしておこうではないか。

 まず。専売の税率はどうなんじゃ?」


「品目によりますが、受益の4割から5割までと規定されています。 

塩のような必須品の場合、最低税率の4割を適用しますが、去年、陛下の即位を記念して1割の特別割引を適用し、10年間3割6分の特別税率が施行されています」


「やはり我が息子。慈愛溢れる…」


「慈愛溢れるのはいいんですが、国の財政を運用するこちらの、身にもなってほしい!」


抗議する財務大臣を見て、セレステは少しからかいたい気になった。


「ああ、それで…

 ご自慢のはずのタテガミに、ツヤもなく抜け毛が…」


「ひいいいいい?

 な、なぜそれがわかります!?」


図星だったようだ。

ライオンにとって、見事なタテガミは即ち美と権力の象徴だというが、どうやらリオネアにとっても同じだったようだ。


「い、いや…御愁傷様?

 後で地球から抜け毛に効くシャンプーでもお送りしますね」


「そ、そんなものまでありますか?」


抜け毛の絶望から一転して、セレステという希望に縋ろうとする財務大臣を宰相が軽く叱った。


「こら。私語は後にせい。

となると、この場合必須品ではないから…5割になるのか?」


「そうなりますね」


宰相に叱られても、税収が潤うと想像するだけでほくほくな顔になる財務大臣に、法務大臣が意義を唱えた。


「いや、それはどうかと。

 この件に関しましても、特例割引を適用するべきだと思います」


「まさか、『蜂蜜はウルソートにとって必須品と認めるべし』とでも?」


楽しい想像を邪魔された財務大臣が、少しむっとなって反論しようとした。


「ああ、それもあったか。

 なら、最低の4割に特例を…」


「あるか!」


「落ち着かんかい!

 で、法務の、その特例とはなんじゃ?」


言い争いになりかかるところを号令一つで鎮めた宰相が、法務大臣に特例のことを聞いた。


「はい。王国税務法特例法9条2項です。

 納税当事者が国家と国民のための施設、建物などの建設に投資する場合、当該年度の税金の1割を引くことにする。

 財務大臣ともあろう方が、こんなことも知らないとは言いませんな?」


「ぐぬぬ…

 いや、でもそれは公共施設への投資のことで…」


「この国の未来のための投資だというのに?


押されている財務大臣を見たセレステは、ちょっと不憫な気がして、ちょっと手を貸してやる気になった。


「宰相殿、あの…質問がありますけど」


「なんじゃ?」


「事業受益から王室への献上、ということもありますか?」


「む?もちろん、ないことはないな。

 義務ではないけど…む?そうか。

 主に外国の商会からの献上金がある。

 この国で商売させていただけたことへの感謝でな」


「そうですか。ありがとうございます。

 ではこういうのはどうですか?

 嗜好品だから最高税率の5割で」


「レギス・セレステ…」


感激してほぼ泣き出す直前の財務大臣


「で、法務大臣殿のおっしゃった通り、そこに1割の特例割引を適用して4割5分」


「うむ、そうするべきですな」


他の意味で泣き出したくなった財務大臣と、当たり前だというように頷く法務大臣。


「そして、私は異世界人ですから、税金の5割、ですから受益の2割2分5厘を王室に献上します」


「「何?」」


財務大臣も、法務大臣も同時に驚きの声を上げる側で、宰相も驚いたか眉をビクつかせたが、その表情は微笑みに変わった。


「こうして王室予算が潤ったら、その分国家予算に余裕ができるでしょう?」


「は…そ、それは…」


感激して本当に泣き出す直前の財務大臣を見ながら、宰相はセレステの意外の手腕に感心していた。


『こやつめ、やりおる。

 法務の面を立ててやって、献上という形で財務の悩みにも解決策を与えてくれたんじゃ。

 そうして二人もの大臣を味方にするだけではなく、儲ければ儲けるほど、『王室に献上』するという名分がさらに強くなるから、ケチもつけなくなるわ。

 なかなかの策士じゃな…こやつが心から王室に味方しているのが幸いと思えるぐらいじゃ』


「でも、レギス・セレステはそれでいいんですか?」


もう『セレステ追従者1号』状態の法務大臣が、心配そうに聞いたが、セレステは全然気にしないような顔で答えた。


「何、私としては初期資本がほぼゼロの状態で莫大な受益が手に入ることになりますよ?

 それに…まあ、それ以上は後の楽しみにしましょう」


「また何か企んでおるのか?悪ガキめ」


「だから、後の楽しみですよ?いじわるジジイ」


と、大臣と悪意のない罵り合戦を繰り広げていたセレステが、ふと何か思い出したかのように財務大臣に話しかけた。


「そういえば、あの電卓…計算機は役に立っていますか?

 アラビア数字と使用法を教えてあげて以来、どうなっているか聞いたことがなくて」


「あ、はい。それはもちろん、とても。

 役に立つところか、財務の官僚から文官達まで奪い合い合戦状態です。

 私は大臣特権で肌身離さず、大事に持ち歩いていますけど」


「あっちゃーそれは悪かった。

 今お持ちですって?ちょっと見せてください」


「あ、はい」


財務大臣はポケットに大事に入れていた関数計算機を取り出して、セレステに渡した。


「すみません。財務は本当に、計算が重要なところなのに。

 財務の官員は、何人ぐらいいますか?」


「はい?あ、上下合わせて100人ぐら…いいいいいい!?」


計算機を手に持ったセレステが、手元に計算機の山を作り出すのを見た財務大臣は卒倒したい気持ちになった。


「ええい、持ってけ持ってけ!正式販売前の大出血サービスよ!」


「れ、レギス・セレステェぇぇぇぇ!!!!」


この間法務大臣が蜂蜜の前でそうしたように、今度は計算機の山の前で財務大臣が跪いてしまう光景を見て、流石の宰相も呆気に取られてしまった。


『二人目の大臣を、落としよった!』

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