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暇だから言ってみた。「光あれ」  作者: アインソフ
快走・迷走・暴走
27/54

甘い話

では、そろそろ降りてみましょうか。

 パーティーホストがVIPを独り占めするなど、無粋の極りでしょう」


「そうですわね。

 では、お父様からお先に?」


賓客も衝撃からだいぶ回復したようだったので、セレステはホールに降りて行って反応を確認したいと思って、その旨を王夫妻に伝えた。

王夫妻も二階で見下ろすばかりではいられないので、少し間をおいて降りてくることにした。

一緒に降りてきたら、賓客たちの反応を観察しにくくなるからだ。


階段を下りながら、セレステこと天城は、自分のことで感心していた。


『いや、こんな歳だから処世の骨ぐらいは掴んでいないとむしろおかしいけど…

 ここまですらすらと、『ご貴族様』ならではの言葉遣いができるキャラクターだったかな?私。

 もちろんビアラ夫人に徹底的に仕込まれたおかげでもあるけどな。

 自分ながら、驚くほどだよ』


そう思いながら、階段をほぼ降り終わったところで、今度はピンマイクは使わず、少し声を上げて周りの貴族たちに言葉を投げた。


「さあ、皆の方。楽しんでおられたかな?」


ちょうど階段の周りには若そうな貴族たちがいたので、開会辞の時とは少し言葉のトーンを変えてみた。

たぶん、年上―上位の貴族たちが後ろで様子見をするために、若い連中を前に出しているんだろ。

しかし、周りの皆は何か言いたくて我慢できなそうな顔をしているが、誰一人先にセレステに話しかけようとはしていない。


いや、その実、できないでいたのだ。

貴族社会というのは徹底的な階級製に基づくものだから、よほどのことではない限り、格下の者が目上の者に先に話しかけるのは不敬、というのがあるからだ。

もちろん、勤め先の宮廷や、官庁でなら例外になる。いちいち上級者の許しを待っていてはことが進まないからだ。


でもここは社交界、しかも、最上位の貴族のレギス・バシにしてパーティーホストであるセレストの前で不敬を働くなど粗相は、誰だって願っていないものだ。


『でもこれじゃ、アンケートができなくなる。

 仕方ない、少しきっかけを作ってあげよう』


そう思ったセレステは、真っ先に目に入ってきたハスキー・カニセイドに話しかけた。


「そこの君、ビカリ・パレシエンテだな?

 確か、内務大臣殿の懐刀、だと…」


「!は、はい!

 ビカリ・トベット・パレシエンテと申します!

 わたくしなどの名前をお覚えでしたなんて、誠に光栄と存じます!」


いかにもハスキーらしいはしゃぎとか、大きい声とかいかにも体育系に見えるカニセイドの青年だったが、その実はかなり優秀な官僚だった。


まあ、ビアラ夫人は『懐刀』とまでは言っていなかったけど、煽てられて気持ちを悪くすることはまずないのだから。


「ああ、まあ、これから君たち内務にはお世話になるかも知れんな。

 その時はよろしく頼もう。

 さて、パーティーは楽しんでいたかね?

 何でも急に準備したもので、粗相でもあったのではないか心配だ」


「とんでもございません!

 このような素晴らしいパーティー料理は、このパレシエンテ、見たこともありません」


その答えに、周りの若い貴族たちが言葉こそ発していないが、同意の視線を交わしていた。

たぶん、若者やビカリ以下の下級貴族たちは大体同じ意見なんだろう。


「そこの君は、コミス・ジバンテのご息女、ミラニネ嬢だな?

 噂に違わぬ麗しさだね。ご両親もさぞ誇りに思われているだろう。

 今後のために、令嬢のみんなにも意見を聞いておきたいところだな」


今度は鯖猫フェリノイの令嬢に話しかけた。

もちろん、カニセイドにだけ反応を聞くわけにはいかないからだ。

ちなみに、『麗しい』と言ったのは絶対お世辞ではない。

繰り返しになるけど、猫派のセレステにとって、それだけ『かわいい』と考えているからだった。

…まあ、あのいかつい見た目のガルカンをもかわいいと思うほどの重症だから、客観性は無きに等しいが。

そんなセレステの思惑とは関係なく、当事者のミラニネ令嬢は感極まった表情で質問に答えた。


「身にあまるお言葉です。

 今日のような素晴らしいおもてなしに、誰がいて非を唱えられましょうか。

 特にあのお干し物の…あれをなんといえばいいでしょう。

 あの香しい干し物の風香に、見知らぬソースの…ああ、言葉では表現できないほどのあの味に、それを支えてくれる下地のあの菓子パンのようなもの。

 実に美味でございました」


「ああ、そうか。

 ありがたい意見だね」


次は誰に聞いてみよう…と思って周りを見回したセレステは、言葉を飲んでしまった。


ウルソートの若者たちが、今にでも泣きださんばかりのうるうるとした瞳で、自分を尊敬?敬愛?いや、崇拝?に近い視線で見つめていたからだ。


『蜂蜜が命をかけて取ってくるぐらいの貴重品だということは、あれ以降聞いていたけど…いや、それでも君たち貴族だろう?そこまで感激する?』


…そのハチミツの大瓶が、準備棟の食糧保管庫に結構積んであるということを知ったら、このまま貴族の面子もなにも顧みず突撃するのではないか、とふと心配になったが、まあ、いくらなんでもそれはないだろう。


「楽しんでくれているようで何よりだ。

 では、若い者同士で実りのある時間を過ごしてくれればいいな。

 カナッペは…あ、この料理の名称だけど、どんどん出してくる。

 遠慮せず楽しんでくれ」


…ウルソートの令嬢の一人が、ついに泣き出した。

心の中では『いや、泣くことはないだろ!』と思いながらも、慈愛溢れる笑みで見ないふりをしてくれることができたのも、ビアラ夫人の特訓のたまものだった。


「これはこれは宰相殿、ご来場いただき誠に感謝しております。

 それがお気に召されたようですな?」


トロリーでの1次攻撃を終え、メイドと、宮廷から派遣してもらった給仕役割の下級侍従たちがトレイにカナッペや飲み物を載せてサービングしているなか、シシャモカナッペをもう1個もらっていた宰相に近づきながら、セレステが話しかけた。

同じレギスで、ずっと年上だからちゃんと丁寧語で話しかけている。


「おお、レギス・セレステ。

 存分に楽しんでおりましたぞ。老躯には多少響かないか心配になるぐらいですじゃ。

 しかし…この邸宅、何と華やかなことか。

 王城に引けを取らないぐらいで、掃除や管理もさぞ大変じゃろうて」


そう言って、さっき手に取っていたシシャモカナッペを口に放り込んでは、宰相はちらっと、セレステに目をやった。


『む?そこで王城の話?

 …ははあ~ん。そう出るんですか、宰相さんよ』


自分でも建てておいて少しやり過ぎたかな、という気にしていたことだが、『いくら王室の一員と認められていても、王宮より華やかな邸宅は不届き千万と思わぬか?』ということを、言葉のうらに隠していたのだ。

華やかというか、照明が明るいからそう見えるだけだけど。


「さすがは宰相殿、家事のこともよくわかっていらっしゃる。

 この邸宅だけならまだしも、陛下御一家の別荘用邸宅の方も、いつ幸行あそばしてもそのままご利用できるように準備を整うのも大変でして」

(訳:だから王家用の邸宅もいつもスタンバらせていますけど?

 人の家事のお節介はやめてもらえません?)


「ふむ…

 しかし、これまた不思議なお料理の数々でしたな。

 皆、目がないのもわかる気がしますじゃ。

 はまり過ぎて日々の食事がつまらなくなったら困るほどですな」

(訳:まさか、美食で中毒でもさせる気ではあるまいな?)


「まさか、特別な一時というものです。

 それより、お口に合いましたようでなによりです」

(訳:そう毎日食べられると思います?

 疑う割にはあなたも結構召しあがったようで?)


「ああ、さすがは聡明な方のおもてなしだったですじゃ。

 ビアラ夫人が、いい仕事をしたようですな」

(訳:ぬぬ、食えない男よ。

 ビアラ夫人の入れ知恵が、功を奏しすぎたようじゃな)


「はい。成り上がりの私なんかにはもったいないお師匠でした。

 夫人には感謝の念…」


と応酬していたら、横から大きな声が聞こえた。


「レギス・セレステ!」


びっくりして声をかけた相手を見たら、法務大臣のコミス・ランデハレ・バルハ・パールの興奮した顔が見えた。多分、毛の下の顔は赤らんでいるにちがいない。


「ああ、コミス・バルハ。

 パーティーは楽しんでおられましたか?」


皮肉合戦から足を引きたいと思っていたところ、ちょうどいいと思って、セレステはバルハの方に向き直った。宰相も同じ気持ちだったのか、無断に話に割って入った無礼を叱ることなく、つぎのシシャモカナッペを取りに静かにその場から離れていった。


「はい!お屋敷も、あのお料理も、すばらしいことが連続していてこのランデハレ・バルハ、感激しております。

 それに、さっき若い連中にかけてくださった慈愛あふれるお言葉に、自分の娘なんか泣いてしまったとか」


『あれが、あんたの娘だったかい!』


セレステは、元々人の顔を覚えるのが苦手だった。

1,2回しかあっていない人の顔はすぐ忘れるというか初めから記憶に殆ど残らないから、あとで相手が挨拶してくるのに「すみません、どちらさまでしたっけ?」と問い返す、非礼になってしまうことも多々あった。

そんなセレステなのに、会ったことのないこの世界の貴族を覚えられたのは…


『全部別の種族で、毛も模様が全部違うから』だった。


いったいどういう遺伝構造かはわからないが、王家がそうであるように、同じ種族の内では親と子の形質…わかりやすく言えば、「品種」が異なる。シェパードの親からポメラニアンの子が生まれても、シャム猫からノルウェージャンフォレストが生まれても全然おかしいことではなかった。


しかし…


『熊は皆同じ顔にしか見えないんだから!』


ツキノワグマとマレーグマの区別ならできても、ヒグマとグリズリーはどこが違うのかすら考えてみたこともないセレステにとって、毛の模様すらないウルソートを区別するなど、まだ早い話だった。


「いや、少し心配でしたけどウルソートの皆さんが満足されたようで何よりですね。

 このようなパーティーではなくても、ウルソートの方々が気軽に蜂蜜を味わえるよう、善処してみたいと考えていますけど…ご興味はありますか?」


それを聞いたランデハレの目に、信じられない話を聞いたかのような、驚愕の光を帯びた。

しかし次の瞬間、それは強い決意の光に代わった。


「正直、信じがたい話です。

 しかし、あなたなら…レギス・セレステなら、できる気がします。

 それは私だけではなく、我らウルソート全ての…」


ランデハレは、感極まって言葉が出ないようにだった。


「はいはい。お気持ちは察します。

 では、詳しいことは後日相談させていただきたいと思いますので、今日は思う存分パーティーを楽しんでください。

 さもないと、若い連中に全部取られますよ?」


「おっと、それはいかん!

 では、何のお話か楽しみにしております!」


そういい残して、ランデハレは蜂蜜カナッペのトレイを持った給仕を探しにその場から離れていった。


「本当、蜂蜜なんかであそこまで喜んでもらえるとな…」


セレステは、苦笑しながらもなんかいいことをしたような気がしていた。



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