家、建てます
「どれどれ……これは……むむ、ホールがないのか」
ノルガーにラシオンへの伝言を頼んで地球に戻って来た天城は、パソコンで色んな建築関連サイトを巡り、『洋式邸宅』の資料を漁っていた。面白いかも、と思って武家屋敷や寝殿造りも考えてはみたが、周りとの様式が違いすぎるし、第一天城本人が住みづらい気がしてやめていた。
貴族屋敷と言っても、正直あいまいなイメージだけで、これといったイメージがピンとこない。専門の建築事務所に依頼…というのも考えてはみたけど、「貴族の洋式邸宅」の平面図なんか依頼したら、費用はともかく、正気を疑われがちだから。
「ううう、目ぼしいのがない………邸宅と言っても現代のばかりで……
あ、これ………」
色々と探っていたうちに、天城はある国の大統領府の模型があるのに気づいた。
ふと気になって探ってみたところ、ペーパークラフトから建築模型キット、さらに3Dモデルまで、いろんな種類が手に入れられる状態だった。
「ふむ……これ……
いいじゃん?」
更に詳しく探してみたら、内部構造まで再現されているのもあったので、天城はこれを『使わせていただく』ことにした。
そのままトゥシタに建てても問題視されることはないだろうけど、部屋の配置の調整とか外観に少し手を加えたいと思ったから、天城はその3Dデータを購入して、自分で少しいじることにした。
「居住空間は2階に集中させて……接客空間は1回と別館のパーティーホールに……
もう一つの別館は使用人の仕事空間…あれ?使用人前提か?
…まあ、掃除を手伝うメイドぐらいは必要かも…
いや待て、これってもしかして、想像以上の大所帯になるのでは?」
妙なところで鈍感な天城は、ここまで来てようやく、「貴族の面子に合う邸宅」というのは自分の3LDKマンションなどとは比べ物にもならないぐらい、家事が大変だということに気づいた。
「……貴族の身分でいられる分、雇用の責任もあるというのか………
うむ、ノブレス・オブリージュってやつであろうな。
…って、何格好つけてんだよ。はあ」
これでは、あの大邸宅の管理を一人で工面するか、使用人を雇えるぐらいのお金を稼ぐかの2択しかないからどっちみち大変なことになりそうだと、天城は思った。
……実は蜂蜜を売るだけでも大富豪になれるということには、まだ気づいていない。
「となると、使用人の部屋も用意しなければならないかな……
あ、その前に、あの世界でも電気施設を使いたいけど、なんかないか?」
色々と考えて、思いついたことに調査して居るうちに、いつの間にか日が沈んでいた。
***
「使用人?当たり前でしょう?」
「やっぱり?」
「ええ、お父様。
お父様の身の回りの世話担当や、家事の取り締まりと使用人を統率する執事、家事担当のメイド、メイド達を管理するハウスキーパー、料理人、庭師、コーチマン、フットマン…、お屋敷の警備……」
「待て待て待て、そんなに?」
「あら、これでも最低限の人員ですけど?
お父様はお独り身ですから、乳母や子守、レディーズメイドがいらないからその分少なくなりますけどね」
「そうです、父上。
チキュウでは身分制がないとおしゃったし、お住まいも広くないから父上一人でも問題なかったでしょうけど、この世界では貴族なら、その身分に相応しい人員を雇用するのが美徳ですし、そうしなければケチとみなされます」
薄々は気づいてはいたけど、それが当たっていたようだ。
「となると、使用人の住居空間も用意しなければならないな……
わかった。
はあ、人件費が大変なことに……」
「何、当分の間は王室年給で賄えるはずです。
転売事業が軌道に乗ると、そんなの端金にすぎない金額になるでしょうし」
ラシオンがそう大口を叩いても、セレステとしては安心できないことだった。
「…待て、年給?何それ?」
「うん?あ、そうか。
領地のない王族には、一定額の年給が支給されますよ。
領地を授けたり、事業受益ができれば『遠慮する』形になりますけど」
こちらの世界の財産がないことで悩んでいたセレステとしては、実にありがたい話だった。
もちろん、だからといっていつまでも迷惑をかけるわけにはいかないから、例の専売事業計画を進めなければならないが。
「あ、お父様、私たち用の部屋も、用意してくださいますよね?」
「え?いや王宮のすぐ近くだし、王妃がお泊まりになるなど恐れ多いことでは?」
「何をおっしゃいます。
父上のやることだから、お屋敷をチキュウの便利道具で詰める気でしょう?」
「……ちっ、ばれたか
わかったよ。王室専用の『離れ』を1棟、更に用意しよう」
「大好きです、お父様」
なんかやられた気がしないわけでもないが、どうせ邸宅の設備を見たら黙ってはいないはずだから、予め用意しておくのも悪くはない、とセレステは思った。
「それで、建築はいつから始める予定ですか?」
「ああ、それだけど……
あちらで『作って』いるから、多分2,3週…ここでは2〜3日?ぐらいかかると思うよ」
「それはまた、随分早い……って、え?
『作る』んですか?『建てる』のではなく? しかもあちらで?
いくら父上でも、建てたお屋敷を持って来られるのは難しいのでは?」
驚いて反問するラシオン。
『家を持ってくる』と聞くとこうなるのが当たり前だから、今セレステが何を企んでいるかわからない彼だから、別に大袈裟なことを言っているのではない。
「それはなー
当日の楽しみにしておきなさいよ。
じゃ、私は準備を整えてまたくるからね」
そう言って、セレステが地球行きのゲートで消えていった。
***
それから三日後。
「いや、なんなんだこれ?」
流石のセレステも、当惑を隠せずにいた。
『屋敷を建てにいく』と王に報告したら、1時間ぐらい待ってくれと言われて、何のことかと思いながら一度地球に戻って用意したものを持って8時間を待って、建築地にゲートを開いて出てきたセレステは、自分の目を疑いたくなった。
なぜか、王と王妃と王女がお出ましになっている。
そのそばに、宰相も来ている。
6人の大臣も彼らの周りに立っている。
特に、軍務大臣マルク・メンゲンは、自分の隣に越してくると聞いたから来てみないわけにもいかなかったんだろう。
宮廷魔術師長と、その夫の魔術学校学長も来ている。
国の重鎮が集まっているのに、随行員や護衛がついて来ないわけがない。
王一家と大臣一同がお出ましだというのに、貴族街から挨拶しに来ないわけがない。
それに、魔術師長と学長夫婦についてきた魔術師たちと魔術学校の学生たちまで。
なんか、盛大な人集りになっていたのだ。
とにかく、これはどういうことか聞かなければならなそうだった。
「陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう。
……して、陛下を始め皆様方におかれましては、一体いかなる御用向きでこちらへお越しに?」
「うむ、王父卿、それがな。
どうやって屋敷を建てる気なのか、気になってな」
「はい」
「それで、視察に行く…と言い出したら宰相も、大臣のみなもぜひ、と言ってな」
「はあ」
「……それではそなたが気まずい思いをするのではないかと思い、余一人で行くと言ったら王妃と王女が話を聞いてくれなくて…」
『だったらこっそり城を抜けて一人で来いって!
お忍びってのもあるだろうが!』
…と心の中で言ってみたが、それができない話というのはセレステもよくわかっている。
「承知いたしました。
でも、そうなると王城は今空に…?」
「いや、余の頼もしい弟が残って守っている」
「そうですか」
多分、『ボクもみたいんだよ!』と言っていたんだろうな、とセレステはノルガーのことを少し不憫に思った。
「なんか、盛大な行事になってしまった気がしてなりませんが…
陛下をはじめ、皆様方にご来場いただき、恐縮でございます。
お見苦しい工事風景かと存じますが、そろそろはじめさせていただきましょう。
申し訳ございませんが、念のため少しだけおさがりになっていただけますか?」
セレステに言われた通り下がる中、人波の後ろにいた魔術師と魔術学生たちの間では望遠鏡を取り出す者も何人か見えた。
「全く、見せ物じゃないんだけどな」
独り言を言いながら、セレステは開いておいたゲートからいくつかの段ボールと、スコップを取り出して、ゲートを閉じた。
「…王父卿?屋敷を『作って』くると言ったのでは?」
「はい。『作って』きております。
ここに」
そう答えながら、セレステは段ボールから何かを取り出した。
「小さな屋敷?」
「はい。建てたい屋敷の『模型』にございます」
その時、貴族たちの中から笑いを押し殺すような声が漏れ出た。
王の御前で失笑を漏らすなど、不敬な行為であろうが、この場合は仕方ないかもしれない。
いきなり異世界から来たという、新たなレギスがお屋敷と建てると言って、国王までお出ましになっている。
その前で、あの小さな『模型』の屋敷を取り出すなど、何の茶番なんだ、と思われても仕方がない場面だったのだ。
しかし、彼がその『模型』で何をするか、この国の魔術の頂点に立っている夫婦だけは、それが何を意味するか気づいてしまった。
「陛下、発言の許可を」
イアーレ・ナイランが王に奏上した。
「許可する」
「ありがたき幸せ。
レギス・セレステ。貴殿は今、私の予想していることを?」
「さすがコミス・ナイラン。お察しが早い」
それを聞いた魔術師夫婦の目が鋭い光を帯びた。
「よろしければ、近くで観察させていただけませんか?」
「それは…
まあ、お二人だけならいいでしょう。
しかし、私のそばからあまり離れないようにしてくださいね」
「!ありがとうございます!」
セレステの承諾を聞いた二人がウキウキしてセレステのところにかけていくのをみた貴族たちの間から、今度は疑問が広まった。
何が魔術師の頂点であるあの二人をして、あんなに子供のようにはしゃがせているのだ?
しかし、貴族たちは後ろにいる宮廷魔術師たちと、魔術学校の学生たちも彼女たちと同じ顔をしていることに気づいていなかった。
そんな群衆にはお構いなしに、セレステは持ってきたスコップで地面を少し掘り、段ボールから取り出した、モジュール単位に分離してあった屋敷の模型を組みはじめた。
「何と精密な造りでしょう。これはレギス御自らお作りに?」
「あ、いいえ。
でも説明するには少し長くなりますから、後でよろしいでしょうか。
今は作業を進めたいので」
「もちろんです。ささ、どうぞ」
組み終わったモジュールをさっき掘った穴に入れて、下の半分ぐらいを土の中に埋めたセレステは、二人を少し下がらせては、トライポッドでスマホをセットして撮影し始めた。それをみてスマホをまだみていないイアーレの目が鋭くなったが、何も言わなかった。
「では、始めます」
普通は何もしなくても大丈夫だけど、セレステは今日だけは少し趣向を変えてみたいと思って、わざと重々しく唱え出した。
「汝、無から積み上がりしものよ
我命ずる
偽りの殻を破れ捨て
汝の真の姿になるが良い!」
(訳:3Dプリンターで作った模型です。これが大きくなって本物になりますよ)
-ドン
「な、何だ?」
いきなり響いた轟音に、ざわつきが広がる。
-ドドン
また轟音が響いた瞬間、眩しい光が一瞬周りを包んだ。
「な、なんだ…
…あ、あれはいったい?」
「きゃああああ!」
「何ということだ…」
光が消えた後。
いきなりの光に驚いていたギャラリーが、ここが御前だということも忘れて大騒ぎを起こした、その目の前に。
ついさっきまで何もない更地だったところに、巨大な真っ白いお屋敷が、よく手の届いた広い庭と鉄柵まで同伴して、聳え立っていた。
01:22 追記
更新時間に追われ、急いで投稿したため、誤字脱字の確認が十分にできておりませんでした。
お読みになってくださった読者の皆様には、ご不便をおかけしてしまい大変申し訳ございません。




