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暇だから言ってみた。「光あれ」  作者: アインソフ
ようこそトゥシタへ
17/23

あいわかった

「実物、ですか?」


「…はい」


二人の間に、気まずい沈黙が流れた。

二人を取り囲んでいた魔術師たちも、二人の沈黙に気圧されたかのように、呼吸音すら殺して二人を見守るだけだった。

今すぐにでもその実物を見せてもらいたいという欲望に駆られそうなナイランだったが、どうにか堪え切れた。

この場合、それより優先すべきことがある気がしたからだ。


「見せていただきたい、とは存じますが、今はそれより…」


セレステも、同じことを考えているようだった。


「まずは陛下に報告しなければならない、気がしますね。なんとなく」


「はい。私もそうされるべきだと思います」


「では、このことに関しては…」


王の指示があるまで内密に、と言おうとしたセレステだったが、それに気づいたか、ナイランが真顔になって言った。


「レギス・セレステ。いえ、王父卿閣下。

 左様な場合には、『他言無用だ』と、一言命じればよろしいのです。

 陛下が貴方にレギスの位と、王父卿の職を授けられたのは、まさにこういう時のため。

 貴族の権限を振るうことにも、そろそろ慣れていただく必要があると存じます」


ナイランの助言は、重くセレステの胸に突き刺さった。

最上位貴族の位の授かったとはいえ、別にこれといった実感も、感慨もなかったのだ。

それもそのはず、身分制のない現代社会で、上流層でもない一般市民として生まれてこの方生きてきた『日本人の天城』としては、貴族の称号などを聞いても、セレブかお金持ちぐらいの感覚しかなかったからだ。


この世界に来た以来、ただ『愛する家族』のラシオン一家に再会し、ただ好きなおやつを渡してやりたい、という素朴な願いを抱いていたはずが、どういうわけか、事態がだんだん膨れ上がり、国家の政にまで巻き込まれてしまっていた。

…もはや、後戻りできないだろう。


しかし、その『愛する家族』がこの国の王家であり、それゆえ自分が『レギス・バシ(王家のレギス)』という大仰な位まで授かった以上、成すべきことはもう決まっているのではないか。


- 愛する王家のために尽力する


ならば、腹を括ろう。


「あいわかった。

 では、改めて申す」


さっきラシオンとじゃれあっていた時代劇語りを、こういう形に活用する羽目になるとは思いもしていなかったな、とセレステは思った。


「王父卿、レギス・セレステの名の元に汝らに命ずる。

 今日この場であったことは、国王陛下の別命があるまで、他言無用とするがよい

 みな、よいな?」


「「は…はい!」」


ありったけ上品ぶってそういっといて、『どうだ、かっこよかったかな?』と、セレステは思ったが、どういうことか一斉に返答する魔術師たちの表情が…おかしかった。


「あの、レギス・セレステ?」


「はい?」


ナイランの顔は、何か笑いを押し殺ろしているようだった。


「なにもそこまで格式張らなくても…ぶふっ」


セレステの顔がカッと、真っ赤になった。

考えてみれば、当たり前なことだった。

別に格式張る場面でもなかったのに、一人でノリノリ…


「あら?お顔の色が急に赤く…お具合でも悪くなったのでしょうか?」


「いいえ!急いで陛下に報告に行きたいと思いますので、これで!」


セレステは、お茶を濁してゲートをくぐった。

私も顔に毛が生えてたらよかったのに、と思いながら。


                 ***


ゲート拠点としてあてがわれた部屋に戻ってきたセレステは、赤くなった顔が元に戻るのを待って、呼び鈴で部屋付きの侍従を呼びだして、王に謁見の要請を伝えるように指示した。

まだ昼間だから執務中のはずで、それでなくても王に会うためには踏むべき手順というのがあるから。


『…さすがに、これからは手順を守るべきだね』


少し待っていたら、例のプライベートの部屋に来るように、とのお達しが来た。正規の謁見室や執務室では見る目があるから、王家との用件はほとんどあの部屋で済ませていたのだ。

ノルガ―に言われたこともあるので歩いて行こうかとも思ったが、いまはこの『実物になってしまったギター』を持っていかなければならない。別に重いわけではないけど、まだこれを見られるわけにはいかない。


「ノルガ―のやつ、あそこにいたらまた小言をいうんだろうな」


と思いながら、プライベートの間へ繋ぐゲートを開いた。


「またかよ!自重しろとあれほど…なんだそれ?」


予想の通り、小言を言おうとして、セレステが持っているギターを見て驚くノルガ―を見て心の中で『そらみろ』と笑いながら、ラシオンに礼をした。


「陛下におかれましてはご機嫌麗しゅうー」


「またなんの戯れですかそれは…うん?

 いや、本当になんですかそれ?見たことがないものですけど」


「いや、それがねー」


と、セレステはラシオン兄弟に、今日魔術庁であったことを説明した。

事物の拡大・縮小ができることが分かったこと、拡大・縮小を複製と同時には使えないということ、一度変性したものは逆戻りできないこと。

それらを聞いている内に、セレステはラシオンの尻尾の先が左右にピクピクうごめくのをみて、相当興味津々に聞いているなと、感心していた。アンテロ(獣人)になって言葉を話せるようになっても、前世の習性はまだ残っているようで微笑ましい気がした。

…既にカニセイド系のガルンデルやマルク・メンゲンの尻尾が感情を表すのを見ていたけど、猫派の彼としてはフェリノイの尻尾のことをわかったのがもっと嬉しかった。

そして、その尻尾はポン、と、2倍はあるように膨らむことが起きた。


「父上?今何と?」


「これだよ」


ミニチュアを実物にすることができたという説明が信じられないように反問するラシオンに、セレステはポケットに入れていたミニチュアのギターと、さっき本物にしてしまったギターを一緒に差し出した。


「これが…」


ミニチュアを触ってみて、今度は手元の本物のギターを触ってみるラシオン。

プラスチックを見たことはなくても、木製の実物と全然違う材質というのはわかる。

それに、単なるプラスチックの塊であるミニチュアとは違って、実物のギターのボディは、共鳴のために空になっている。


「こんなことが…ありえるのか?」


「私もわからないんだ。

 どうしてそんなことができたのかな…」


どうしてこんなことができたのか、張本人のセレステにもわからない。

検証するにも、どうしてできたかわからないし、誤ったらなにが起きるか恐ろしいと感じている。


「親父、それを大きくする時にな。

 何か普段とは違うことを言ったり、考えたりしなかった?」


「うん?

 いや、普段は特に何か唱えたりはしないけど…

 今日は魔術師たちがわかるように、拡大とか縮小とかいいながら…」


「それを大きくする時も?」


「うん?いや、これは本物のサイズが決まっているからな…

 《《実物》》大になれ、と…

 おや?どうしたんだ二人?」


呆気にとられた顔で自分を見るノルガ―と、頭痛そうな表情で額に手を載せたラシオンをみて、怪訝そうにそう聞くセレステだったがー


「「それだよ!」」


「なにが?!」


「《《実物》》大!」


「いやまさか…

 …いやそんなこと…

 ………あり?

 …………ありかも…

 どんだけアバウトなんだよ、私の能力発動のキーワード?」


呆れた顔でツッコんでくるノルガ―に、そんなことあるかと反対したいセレステだったが、自分で考えても答えはそれしかない気がした。


「父上…くれぐれもですね…?

 危険そうなキーワードは事前に十分考えて、安全の確認をしてから言いましょうね?

 ね?わかりましたか?これは王命ですからねぇぇ!?」


「ははぁ!」


「…だれか、どうにかしてくれよ、このバカ親子…」


それが、正直なノルガーの感想だった。


                 ***


「しかし、またすごい能力に目覚めましたね」


バカ騒ぎの後、雰囲気が落ち着いたら、3人はようやく真面目に話せるようになった。


「だよな。地球で実物は手に入れられないものでも、模型さえ用意できればこちらでは実体化できるから…

 いや、さっきは驚きすぎて気づいてなかったけど、これ、考えようによっては恐ろしい能力ではないか?」


複製の能力だけでも、この国の政治に影響を及ぼしかねないぐらいだった。

それなのに、地球の発達した技術の産物をこの世界に持って来られる能力にまで目覚めたなんて。

大臣たちを初めとする貴族たちがこのことを知ったら、どんな顔をするかー


「とりあえずは情報を統制する必要はあるとは思いますが…

 魔術師たちが見ていたから、もう遅いか」


「あ、それならさっき、王父卿権限で他言無用と命令しておいた」


「お?よく気づいたね?」


案外だといいたそうな顔でそういうノルガ―。


「ナイラン殿に聞いたよ。

 貴族の権限になれろ、ってことも」


「ああ、彼女でしたか。

 気の利いた対応をしてくれて助かった。

 でも、彼女の言う通りです。

 父上をレギスにし、王父卿の職を授けたのは、こんな時に振るう権限と…」


「貴族に絡まれた時、地位で押さえてやれ、と?」


「そういうことです。

 まさかこんなすぐにその権限を振るうことになるとは、予想できませんでしたけど」


「まあな」


セレステとしても、薄々気づいてはいたことだった。

あの大臣たちとのいざこざはなんとか乗り越えたけど、宮廷にも、そしてまだ出会っていない貴族社会にも、いきなり現れた部外者の彼が王家の一員となり、貴族の最上の位であるレギスと、名誉職とはいえ王父卿という地位を手に入れたのを、面白くないと考えている貴族や権力者はいくらでもいるはずだった。

異世界人の自分が、この王家のために頑張るということは、そんな反感を持つ貴族たちとぶつかって乗り越えなければならないということでもある。その時、王の力に頼ってばかりではいられないのだ。

父として、子供たちを守る気でいたいなら。


「別の話になりますが、ちょうどいい機会だ。

 父上、王都内にお屋敷を用意して差し上げましょう」


「いきなり?」


「いきなりじゃないよ。

 親父もこの国の貴族として振るまいたらな、屋敷ぐらいは必要になるんだ」


「いや、生活する家なら地球にあるし…

 このまま王宮で…って、流石にダメかな?」


「ダメに決まってあろうが。

 社交の場とか、色んな相談の場所とかが必要になるだろうけど、それを王宮でやる気ではないだろう?」


太々しいセレステでも、それはないと思えた。


「それでも、それらしいお屋敷を用意するには時間がかかりますからね。

 それまで父上は、王宮で過ごすことになりますね」


「いや、待て。

 お屋敷となると、建てるにも買い取るにも、予算がいるだろう?」


「それはもちろん」


「やめとけ。お前に迷惑をかけるわけにはいかない。

 臣下のくせに、国家予算か王家の財産で家を建てていただくなんて、あり得ない」


ラシオンも、流石にその通りだと思った。

いくら王家の一員と認めたとはいえ、アンテロではないセレステにあれほどの特例を認めたら贔屓がすぎると貴族たちが反発しないわけがない。

だからと言って、この世界での財産はまだ持っていないセレステに、王家の援助なしに何ができるというのだ?


「でも、父上?」


「心配するな。

 いや、本当、とんだ偶然ではないか。

 こんな時にちょうどいい能力に目覚めてくれたな、私」


「……?」


不敵に笑うセレステに、また何を企んで…、とノルガーは不安な気持ちを覚えた。

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