眠らない喫茶店
掲載日:2025/12/03
街の灯りが遠ざかる頃
細道を通って辿り着くのは
小さな喫茶店
此処だけはまだ息をしている
カランと鳴る鐘の音
温かい珈琲を淹れる音
ぶつかり合う食器の奏でる音
様々な音が響き渡る
煩わしくなんてなくて
むしろ心地いい
真っ黒の珈琲の中に
誰かが忘れていった砂糖を溶かす
湯気とともにそっと揺れて
夜の端を撫でてゆく
眠れない人
眠りたくない人
帰れない人
帰りたくない人
ただ少しだけ
世界から目を逸らしたい人が
肌の温度を求めるように
ひとりふたりと集まって
言葉にならない空白だけを
ゆっくりとテーブルに並べてゆく
窓の外を過ぎるタクシーの光
誰かの足音
カップの中の珈琲が
きらりと照らされて揺れる
時間は確かに進んでいるのに
此処だけはゆったりとしている
まるで夜に抱きしめられた
泣き虫の三日月みたいだ
朝が来れば
此処もやがて日常に戻る
出勤前の人
仕事をする人
恋愛話をする人
多くの音で溢れかえる
けれど知っている
眠らない喫茶店はいつも此処にあって
誰かに寄り添いたいとき
静かな暗い闇夜を
ほんの少しだけ
優しく照らしてくれること
ご覧いただきありがとうございました。
眠らない喫茶店は、あなたにそっと寄り添ってくれるだろう。
誰かに届きますように。




