迅の崩壊予知 ~間男の傲慢と、因果応報の絶望連鎖~
俺は迅。二十三歳の広告代理店社員。若手として頭角を現し、派手な生活を送っている。大学時代は遊び人として名を馳せ、女性を次々と落としてきた。彼女たちは俺の自信と魅力に惹かれる。刺激を求め、日常を彩るアクセサリーみたいなものだ。凛音に出会ったのも、そんな延長だった。文学部の勉強会で、大学にアドバイスをしに行った時。彼女は二十一歳の大学生で、幼馴染の彼氏持ち。完璧なターゲット。退屈な日常から逃げたい女の子は、俺の得意分野だ。
初めて声をかけたのは、勉強会の後。みんなが解散する中、俺は凛音に近づいた。
「凛音さん、君の小説解釈、なかなか鋭いね。もっと詳しく聞かせてくれない? カフェでさ。」
彼女は少し照れながら頷いた。俺の笑顔が効いた。自信たっぷりに、彼女の目を捉えた。あの瞬間、微かな予感が胸をよぎった。夢のような、ぼんやりした映像。俺が転落する姿。でも、気のせいだと思った。俺の人生は完璧だ。会社では上司に気に入られ、機密データを少し漏らして小遣い稼ぎ。誰にもバレないはず。
その夜、アパートでビールを飲んでいたら、眠りに落ちた。奇妙な夢を見た。影のような男が俺を睨み、俺の人生が崩壊する。予知みたいにリアル。朝起きて、凛音からのメッセージを見た。「今日はありがとうございました。迅さん、面白かったです。」 心がざわついた。予感のようなものが、俺を蝕み始めた。大学時代を思い出した。あの頃も、似たような夢を見たことがあった。遊びすぎて、彼女に捨てられる夢。でも、現実はいつも俺の味方だった。今回もそうだろ。
数日後、凛音とカフェで会った。勉強会の延長と言い訳して。彼女の話は、退屈な彼氏のことばかり。
「迅さん、蒼弥は優しいけど、なんかマンネリで……日常が味気ないんです。」
俺は手を握り、囁いた。
「それなら、俺が刺激を与えてやるよ。君みたいな子、俺の冒険にぴったりだ。」
凛音の目が輝いた。予感が再び閃いた。夢の中で、凛音が俺を裏切り、俺が孤独に沈む姿。でも、無視した。俺は無敵。彼女をホテルに連れ込み、抱いた。事後のベッドで、凛音が言った。
「迅さん、こんなこと、蒼弥にバレたら……怖いよ。」
俺は笑ってキスした。
「バレないさ。君の彼氏はただの大学生。俺は社会人だよ。すべてコントロールできる。」
傲慢だった。浮気のスリルが、俺を高揚させた。でも、その夜の夢は鮮明だった。蒼弥という男の顔が浮かび、復讐の影が迫る。事故、借金、精神の崩壊。心臓が早鐘のように鳴った。凛音の彼氏が、予知みたいな力を持ってるって聞いた。まさか、俺の夢もその影響? 連鎖みたいで、面白くもあった。刺激の延長だと思った。
浮気は本格化した。凛音は俺に夢中になり、密会を繰り返した。会社では、俺の機密漏洩が少しずつ危うくなっていた。上司に軽く注意された。
「迅、データの扱い、気をつけろよ。漏れたら大事だ。」
俺は適当に頷いた。予感の夢が増え、毎晩のように訪れた。夢の中で、匿名メールが会社に届き、俺がクビになる。現実味が増した。凛音に話した。
「凛音、俺も最近変な夢見るよ。未来みたいなの。転落する自分。」
彼女は目を丸くした。
「私も! 蒼弥の予知の影響かも。迅さん、怖くない?」
俺は肩をすくめた。
「怖い? 面白いよ。運命の連鎖みたいで、興奮するだろ。」
でも、心の奥で、不安が膨らんだ。大学時代の回想が蘇った。あの頃、似た夢で彼女を失ったことがあった。遊びが過ぎて、精神的に追い詰められた。でも、立ち直った。今回もそうだ。凛音との関係を深め、彼女の罪悪感を煽った。俺の自信が、それを支えていた。
ある日、会社で異変が起きた。匿名メールが届き、俺の機密漏洩の証拠が暴露された。上司に呼ばれた部屋で、俺は青ざめた。
「迅、君のデータが外部に流れてる。クライアントが激怒だ。クビだぞ。警察沙汰になるかも。」
俺は叫んだ。
「そんな、罠だ! 誰かの陰謀! 凛音の彼氏かも……。」
証拠は完璧。予感の夢通り。蒼弥の予知直感が、俺に感染したみたいだ。連鎖が、俺の傲慢を砕き始めた。会社を追い出され、借金が発覚した。派手な生活で積み重ねたカードローン。取り立てが来て、友人たちが去った。
その夜、凛音に別れを告げた。苛立ちを彼女にぶつけた。ホテルで、俺は言った。
「凛音、全部お前のせいだ。君の彼氏が俺を陥れたんだろ? 別れよう。」
凛音は泣きじゃくった。
「迅さん、そんな……私を捨てないで!」
俺は部屋を出た。予感の映像が、現実になった。孤独の始まり。車を運転中、パニックが襲った。夢のフラッシュバック。電柱に衝突。病院のベッドで目覚め、軽傷だったが、免許停止と賠償金。予知の連鎖が、俺を蝕む。
退院後、俺の人生は地獄。借金取りに追われ、アパートを追い出された。路頭に迷い、精神が崩壊した。毎晩の夢は、蒼弥の嘲笑と凛音の絶望。現実と夢の区別がつかなくなった。大学時代の友人たちに連絡した。助けを求めた。
「よお、迅だ。金貸してくれ。会社クビになってさ。」
友人の声は冷たかった。
「迅、お前みたいな奴、もう関わりたくない。借金まみれの転落人生だろ。」
家族さえ見放した。予感の夢が、すべてを予見していた。因果応報。俺の傲慢が、浮気を呼び、復讐を招いた。凛音に連絡した。最後の望みで。
「凛音、俺のせいだった。許してくれ。助けて。」
彼女の返事は、短かった。
「迅さん、もう遅いよ。あなたが私を捨てたみたいに、私もすべて失った。」
絶望の極み。俺は一人、街の片隅で蹲った。予知の連鎖が、俺を徹底的に不幸に追いやった。仕事なし、金なし、友人なし。精神崩壊の果てに、俺は自らを呪った。なぜ、凛音を誘惑した? なぜ、蒼弥を軽視した? 後悔の叫びは、虚空に消える。
今、俺は影のように生きる。崩壊の予知は、永遠の呪い。因果応報の代償。間男の末路は、こんなものか。もう遅い。すべてが。




