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⑧子供向けアニメと大人向けアニメのお話

 前回の記事では、他国メディアのフィンランド語への翻訳実情があまり芳しくないことを書いた。

 特に子供向けのコンテンツは漫画もゲームも母国語で遊べるものが少なく、だからフィンランドのキッズたちは英語のものを手に取るのだと。


 今回ももうちょっとだけその話題を続けたい。

 

「私が子供だった頃と比べればそれでも最近は増えてきてるみたいですけどね。マインクラフトにもフィンランド語版があって、子供はみんなフィン語で遊ぶ」

「おー!」


 素晴らしい。流石は全世界で最も売れたビデオゲームである(※)。


「ゲームとか漫画は少しわかったけど、映像はどうなんだろう? たとえばアニメとか」


 僕はまた新しい質問をした。僕は気になることをどんどん聞いてしまうタイプだ。付き合わされる周囲はたまったもんじゃないだろうと時折思う。


「他国のアニメのフィンランド語版が制作される場合、吹き替えと字幕はどちらが主流なんだろ?」

「対象年齢によるかな。ジブリアニメは吹き替えが制作されるけど、『君の名は』とかは字幕のように。子供向け作品は吹き替えで大人向けは字幕」

「字幕も吹き替えも制作されない作品もあると思うんだけど、そういうのはテレビで放送されるの?」

「いえ、テレビ放送や映画館での上映がされるものは吹き替えか字幕のどちらかがついてます。でもネットフリックスのようなストリーミングサービスだと字幕も吹き替えもついていない作品もあります」


 僕が流しそうめんのように次々に放つ質問に律儀に受け答えてくれる一万キロの彼方の友人。この友人に僕がしてあげたことといえば、せいぜいが下北沢の日高屋で餃子とチャーハンを奢ってあげたことくらいだ。今度来日した時は焼き肉か居酒屋でも連れて行こう。

 

「ちなみにどんな作品がフィンランド語になってるの?」

「私が子供の頃にやってたのは、えーと、まずはもちろんポケモン。それからベイブレードに遊戯王……遊戯王GXだったかも」

「おお、俺でも知ってる人気作品だ!」

「でもなぜかナルトやワンピースは放送されなかったんですよね。全世界で人気なのに……」


 Rindouさんは残念そうに言ったあとで、彼女が少女時代を過ごした2000年代よりも、さらに以前の作品の名前を挙げてくれた。

 80年代、日本とヨーロッパのスタジオが共同制作した作品が多く作られ、これらもフィンランド語に翻訳された。代表的なのが『小さなアヒルの大きな愛の物語 あひるのクワック』、『アニメ80日間世界一周』、それに宮崎駿が参加していたあの『名探偵ホームズ』。


 と、ここまで旧時代の作品の名前を続けて目にするうち、連鎖的に思い浮かんだ名前があった。


「なんか日本の『銀牙』って犬のアニメがフィンランドで人気だって聞いたんだけど、あれはどうなんだろ?」


『銀牙 -流れ星 銀-』は高橋よしひろ先生による漫画作品で、日本の狩猟犬が主人公の骨太な(おとこ)のドラマである。日本では1986年にアニメ版がテレビ放送された。

 オリジナルが発表された日本でも大人気を博した本作が、どういうわけか遠い異国のフィンランドで熱狂的に愛されているらしいという話は、ネット上ではつとに有名である。


 このフィンランドの銀牙フィーバーについて、原作者の高橋先生は「フィンランドでは、ムーミンと銀牙くらいしかアニメ放送がなかったらしい。毎年のように流し、子どもたちの心に刷り込まれちゃったようだ」と冗談めかしてコメントしている(※2)。

 

 が、しかし……。


「いえ、銀牙はテレビ放送されてませんよ。あれはVHSで発売されたんです」

「まじで」

「はい。確かに大人気なんですけど、暴力的すぎてテレビで放送できない。だって犬がどんどん死んじゃうんですよ」


 まじか、と僕は思った。

 VHS……つまりOVAで天下を取ったのか……すごいぞ銀牙……。


「あ、そういえば、ドラゴンボールもVHS作品でした。こっちは吹き替えじゃなくて字幕ですけど」

「さっきナルトやワンピースも放送されなかったって言ってたけど、暴力的な要素がNGだったのかな?」

「そうかもしれませんね。テレビで放送されるアニメはあくまでも子供のものというような認識があります」


 今でも子供たちがアニメの為に早起きできるように朝に子供向け番組を流しています、とRindouさん。そういえば俺が子供の頃もモンスターファームとか朝にやってたなーと僕は思い出した。


「大人向けは昔はVHS、今ならDVDかストリーミングで、テレビでは滅多にやらないですね。昔深夜にエヴァンゲリオン放送してましたけど」

「それさー、俺が子供の時、日本じゃ普通に夕方にやってたんだよ。うっかり見たのがショッキングなシーンでトラウマになっちゃった」

「ありゃりゃ、どのシーンだろ」

「暴走した初号機が使徒食うところ。ミサトさんの『使徒を食ってる』って台詞が『人を食ってる』に聞こえて、設定なんか全然知らないから主人公のロボットが敵のパイロット食ってるんだと思って……」


 少年時代のショッキングな勘違いに、我々は六時間の時差を隔てて共に笑った。


 Rindouさんが「あ」と言ったのは、そんなときだった。


「いけない、伝説の作品があったのを忘れてました」

「伝説?」

「そう、伝説になった『デジモンアドベンチャー』」

※ この話をTwitter(現X)でしたところ、それを読んだ読者様が『Minecraftを作ったMojang Studiosはフィンランドのお隣スウェーデンの会社で、フィンランド語版はかなり初期の段階で他のヨーロッパの言語と共に実装されています。多分お隣さん効果です』と教えてくださりました。知らなかった! ありがとうございました!


※2 2018年2月16日のスポニチAnnexさんの記事『ムーミンと並ぶフィンランドの人気日本アニメ「銀牙」そのワケは…』より引用。

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