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⑤サウナのお話

 今回の記事に使わせていただいたサウナの画像は、Rindouさんを通じてフィンランド・コミュニティの皆さんからご提供いただきました。

 枚数は多いですが、各ご家庭でそれぞれに違うサウナの姿を、日本の皆さんにも是非ご覧いただきたいと思います。

『女子高生が部活動で戦車戦をする』という知らない人が聞いたらぽかんとしてしまいそうなコンセプトでおなじみのアニメ『ガールズ&パンツァー』、その最終章第四話が劇場公開されたのが2023年の十月のこと。

 僕と妻は大満足で映画館から帰宅したあと、真っ先にRindouさんに話しかけた。

 今回の映画で戦った対戦相手が、フィンランドをモチーフにしたチームだったからである。


 敵チームのリーダーがフィンランドの伝統楽器を弾いていたとか、Rindouさんのお父さんと同じ名前のキャラクターがいたとか、新キャラクターはシモ・ヘイヘをモデルにした狙撃手だったとか……一時間という上映時間の随所に鏤められたフィンランド要素を、僕たちは思いつく限りに話して聞かせた。


 さて、その締めくくりに。


「そういえば、試合のあとで敵味方で一緒に仲良くサウナに入るシーンがあったんだけどさ」

「はい」

「そのサウナがとんでもないんだよ。なんと走らなくなった廃バスを改造したサウナ。いくらフィンランドでもそんなヘンテコなサウナないよね?」


 まったく、いくらフィクションとはいえ誇張しすぎだよなぁ。

 そんなやれやれ的ニュアンスを込めて僕が聞くと、Rindouさんは。 


「いえ、ありますよ?」

「……へ?」

「というか、もっとすごいのが山ほどありますよ」


 それから、Rindouさんは次々に『もっとすごいの』の例を挙げてくれた。


 廃バスどころか走行するバスの中に作られたサウナ。

 ボスニア湾を航行するヨットの上に作られたサウナ。

 営業中のバーガーキングの店内に併設されたサウナ。


「私がいつか行ってみたいのは、ヘルシンキにある観覧車サウナかな。ゆっくり回る観覧車のゴンドラがサウナになってて、景色とサウナを一緒に楽しめるんです」

「……フィンランド人にとって、サウナってなんなの……?」


 ということで、今回はサウナのお話。


挿絵(By みてみん)



   ※



 世界で最も有名なフィンランド語はといえば、これはもうまず間違いなく『サウナ=Sauna』だろうと僕は思う。

 フィンランド語で『煙の出る小屋』を意味するサウナは、いまさら説明するまでもないだろうけど一種の蒸し風呂である。

 ストーブで熱せられた焼け石に水をかけて蒸気を発生させ、その蒸気で室内の温度と湿度を上昇させて温まるのだ。


 日本でも1960年代に巻き起こった第一次ブーム以降すっかり定着し、昨今では『サウナ=おじさん』のイメージも薄れて若い人にも人気を博している(ところで日本では蒸気を発生させるための石のことをロウリュウと呼ぶのだと誤解されることも多いようだけど、これは間違いである。『ロウリュ=löyly』は水をかけて蒸気を発生させる行為そのものを、あるいはそれにより発生した蒸気のことを指す言葉であり、水をかける焼け石は『サウナストーン』と呼ぶのだ)。


挿絵(By みてみん)


 さて、このように日本でも愛されているサウナなのだけれど、本場フィンランドにおける愛され度合いはもっとすごい。

 総人口555万人と日本の兵庫県よりわずかに多いくらいの国民数に対して、フィンランド国内に存在するサウナの数はおよそ300万。これはすべてのフィンランド国民が「せーの!」で入浴しても大丈夫な数だという。


 いかにも、サウナはスオミ民族のアイデンティティであり魂なのである。そしてそれは、あたかも万物に宿る自然霊(アニマ)を思わせてどこにでも宿っている。

 観覧車のゴンドラに、走行するバスの車内に、バーガーキングの店内にサウナは宿る。サウナは各家庭に当たり前のように設けられており、街中には公衆サウナがあちことに点在し、なんと国会議事堂の中にまでサウナは存在する。


「そうだよねRindouさん?」

「んー、確かに各家庭にはありますし国会議事堂にもあるって聞きますけど、公衆サウナは最近減ってきてますよ」


 あれ、そうなの?


「だってみんなうちにあるんですもん。わざわざ外に行かない」

「あー、そういうことか」

「うん。一戸建てには絶対ついてるし(※)、室内にパーソナルサウナのついてる集合物件も増えてるし、もし部屋についてなくてもアパートの入ってるビルの地下には必ずレンタルサウナがあるはずです」


 公衆サウナが減っていると聞いたときは『すわ、フィンランドのサウナ文化も衰退の兆しか!?』なんて考えてしまったけど、実態はその逆、みんなが自分のサウナを所有するからこそ公衆サウナが消えていくのだ。

 なんだかその構図は、絶滅しかけている日本の銭湯を思わせる。


挿絵(By みてみん)


「日本の銭湯はかつて近所の人たちが交流するコミュニティセンターの役割を果たしてたらしい」

「フィンランドのサウナもそうですよ。無口な人でもサウナでは心を開いたって聞きます。だけど最近は家で入浴する方が便利ですからね」


 なるほどなぁ、と僕はしみじみ肯いた。

 日本のテレビ番組がフィンランドのサウナ文化を取り上げる時、フィーチャーされるのは『男女混合で入浴して楽しくおしゃべりするフィンランドの人々』という姿であることが多いように思うけど、あれは間違った情報だったのだろうか。


「あ、それもむっちゃあります たとえば私がスタッフとして参加しているアニメイベントの打ち上げのサウナは、毎回すごく騒がしい!」

「打ち上げでサウナ!?」

「はい! フィンランドでは普通のことです! 会社の飲み会サウナ、ヨウルサウナ(ヨウル=クリスマス)、夏至祭サウナ、なんでもサウナです!」


 僕は少しだけ考えてから、はっと気付く。


「わかった! プライベートな時間としてくつろぎたい入浴としてのサウナと、みんなで盛り上がるパーティー的なサウナは別物なんだ!」

「そう! 全然別物です!」

 

 この友達同士で楽しむパーティー的なサウナを、フィンランドでは『グループサウナ』と呼ぶらしい。


挿絵(By みてみん)


 ところで、古き時代のフィンランドにおいて、サウナは神聖な清められた場所であると見做されていた。煙と熱の殺菌効果によって清潔さが保たれたサウナは、古代では妊婦の出産や病人の治療、さらには祈祷の場としても使われた。

 僕は個人的な趣味としてフィンランド叙事詩の小説化を試みているのだけれど、その神話の中でも、主人公たる老賢者は氷の国の魔女が送り込んだ病の気をサウナの熱と湯気によって退けているし、他の英雄たちも瞑想や禊ぎの儀式にサウナを使っている。


 そうした歴史と民俗信仰的な思想の名残として、現在でもフィンランドではサウナで大騒ぎしたりすることは禁止されて……。


「うっそだーw 全然そんなことないです!w サウナパーティーではみんなむっちゃお喋りして楽しみます!」

「そうなの!?」

「ですよー! お酒飲んで盛り上がります! あとサウナストーブでソーセージ焼いて食べたりとか!」


 でも食べものよりもやっぱりお酒ですねー! とRindouさん。


「サウナストーンにビールかけるとすごくいい匂いがするんですよー! 焼きたてのパンみたいな匂いです!」

「サウナの禁忌項目の一つに『飲酒・泥酔状態での入浴』ってあったんだけど……」

 

 フィンランドの皆さん、急性アルコール中毒にはくれぐれも注意してね!


挿絵(By みてみん)


 一般公衆サウナが減っている一方で、大都市においてはヘルシンキの『Löyly』をはじめとするおしゃれな大規模公衆サウナも誕生している。

 フィンランドでは予約なしでふらっと入れるサウナを『公衆サウナ』、予約申請して利用するサウナを『レンタルサウナ』と呼びそれ以外の区分は存在しないようだけれど、上記の大規模サウナは日本のレジャー銭湯を想起させる。

 本文中で触れたバーガーキングのサウナ、観覧車のサウナなどはレンタルサウナだが、これらに日本的な名称を与えるなら『コンセプトサウナ』とかだろうか?


※ちなみにこの時、「一戸建てには絶対ついてる」と証言してくれたRindouさんは、一拍遅れて「ないとおかしい」とまで言い切った。

 ついてなかったらおかしいとフィンランドでは見做される、それがサウナ……!


 前書きにも書いた通り、今回サウナの画像はRindouさんを通じてフィンランドの皆様からご提供頂きました。

 残念ながら本分中には頂いたすべてを使用することができませんでしたが、使えなかったものについても最後にこちらでご紹介させていただきます。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


 フィンランドの皆様、たくさんの写真をありがとうございました!

 皆さんの大切な文化であるサウナは、我々日本人も大好きです!


 Kiitos, Suomi, kaikista kuvista!

 Sauna on tärkeä osa kulttuurianne, ja me japanilaiset rakastamme sitä myös!


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