ヨウル・スペシャル~①フィンランドのクリスマスツリーのお話~
12.21追記
『ヒュバー・ヨウルア』というフィンランド語をご存知の方は、おそらくこの文章を読んでおられる方の中にはおられないのではないかと思う。
かくいう僕もまた一年に一度思い出すだけで、シーズンが来るまでは完全に忘れている言葉だ。
僕がこのフィンランド語にはじめて触れたのは、数年前のクリスマスのことだった。
いつものグループチャットに「メリークリスマス!」と打ち込んだ僕に、Rindouさんはこう返した。
「Hyvää joulua!!」
さぁ、これでみなさんもうおわかりでしょう。
つまり「Hyvää joulua (ヒュバー・ヨウルア)」とは、フィンランドにおける「メリークリスマス」の挨拶なのです。
ということで、今回はフィンランドのクリスマスである『ヨウル』のお話。
※
冒頭で触れたように、僕はこのフィンランド式のクリスマスの挨拶を普段はすっかり忘れている。思い出すのは一年に一度、クリスマスシーズンにだけ。
そうそれは、あたかも十二月以外の月には押し入れの奥深くしまい込まれているクリスマスツリーのように……。
「あ、そういえば友達の作家さんが言ってたんだけどさ」
「はい」
「フィンランドでは仲の良い友達や家族とクリスマスツリーを伐りにいくって、ほんと?」
ああ、なんと流れるように美しい文章の運び! と自画自賛しちゃう僕である。
そういうわけで、クリスマス特集一発目の話題は『フィンランドのクリスマスツリー事情』から。
クリスマスツリーを(ツリー飾りではなく、ツリーそのものを)自力調達というのはなんとも胡乱な話だけど、しかし他ならぬフィンランドの話ときては結構信憑性を感じてしまう。
国土の七割が森に囲まれた『森と湖の国』なれば、そのくらいのことは誰でも朝飯前とやってのけるのかもしれない。
それに僕にとってフィンランドの一般的な女性像は『斧』なのである。Rindouさんも前に見せてもらった写真の中でかっこよく斧を構えていたし、ムーミンの作者であるトーヴェ・ヤンソン先生も伝記映画の中で手斧を振り回していた。
フィンランド人が三人も集まれば木の一本や二本はタバコ一本吸い終わる間に切り倒してしまう、そんなこともあるのかもしれないとそう思った……のだが。
「昔はやったらしいですけどねー。最近はやらないですね。ちゃんと許可を取るか、でなきゃ森そのものを所有していないといけない」
「あー、流石に木はベリーとかキノコみたいに自由に持ってきちゃうわけにいかないか」
さしもの『jokaisenoikeudet (すべての人の権利)』もそこまでは認めていないらしい。
「最近はフィンランドでも人工ツリーが人気ですよ。本物は確かにいい匂いがするし雰囲気もいいんですが、やっぱめんどくさいw」
「ですよねー」
そりゃそうだろなぁ。なんせ本物のもみの木は押し入れの中にしまっておくってわけにもいかないし。
「あ、でも、去年お見せした我が家のクリスマスの写真に映ってるツリーは本物の木ですよ。」
「まじで」
ということで、写真を引っ張り出してきた。
この写真は2023年のクリスマスイブのもの。Rindouさんが着ているのは彼女のひいお婆ちゃんが着ていた民族衣装だという。
正直ツリーよりもこのドラマチックな民族衣装のほうを掘り下げたくなるのだけれど、今回はツリーの話である。歴史的なカンサリスプク(※1)に身を包んだRindouさんの背後、テレビの横にあるのがそれである。
「さすがに小さいやつですけどねw」
「いやそれだってすごいよ。日本じゃ本物の樹のツリーを飾る一般家庭なんてまずないもん」
しみじみと感歎する僕である。うーむ、すごい。
「……このツリーって、クリスマスが終わったらどうするの? 次の年まで保管しておくの?」
「まさかw すぐ崩れちゃうから捨てるしかないw」
枝も葉っぱもバラバラになっちゃって大変、とのこと。人工ツリーの人気を高める「本物の面倒くささ」とはこういうことなのだろう。
※ カンサリスプク
kansallispuku。フィンランドの民族衣装の総称(より厳密にはフィンランド南部に暮らすフィン人の民族衣装で、北部ラップランドに暮らすサーミ人の民族衣装はここには含まれない)。カンサリスプク自体が『民族衣装』を示すフィンランド語でもあり、たとえば『日本の民族衣装』はフィンランド語で『Japanin kansallispuku (ジャパニン・カンサリスプク)』となる。
一言で民族衣装と言っても街や地域によってそれぞれ固有のデザインがあり、Rindouさんが着ているのは『jurva (ユルヴァ)』という街の伝統デザイン。『jurvan puku (ユルヴァン・プク)』と呼ばれる。
Rindouさんの顔を隠しているマークは彼女のTwitter(@rindoo )のアイコンです。「そのままでもいいよーw」って言われたけど、日本人の感覚的にそれは憚りがあったので、ひとまずこうさせていただいた。
記事公開後にRindouさんから頂いた写真を二枚追加しました。
ここと導入部分の最後に、Rindouさんのお婆ちゃんの家の今年のクリスマスツリーの写真だそうです。
後書き部分の写真は父方のお婆ちゃんの家のツリーで、去年のものと同様の本物の木のクリスマスツリー。記事内に挿入したのは母方のお婆ちゃんの家の人工クリスマスツリー。
どちらもかなり立派な印象があり、またクリスマス飾りも日本のものと少し違うような(クリスマスツリーをまじまじ見たことなんか久しくないので確かなことはいえないけど)。




