親と子
「お母さん!お父さん!」
「宗!」
美玖さんは宗くんを見つけると涙を流しながら抱きしめていた。その姿は子を思う素晴らしい母に見える。
その2人を見て立っている一成さんも、安心したような表情を浮かべており、内心本当に心配していたということが理解出来た。
「体調は大丈夫か?念の為、病院に…」
「……そうね、京極にお願いしましょう」
その後、使用人の方と宗くんは病院へ向かった。
なぜ付いていたのが使用人かと言うと、ご両親には少し話したいことがあるため、残ってもらう必要があったからだ。
今私たちは、最初にいた応接間に戻って事の経緯を話せる範囲で話した。
「蔵…。あんなに探していたが、なぜ気づかなかったのだろう…。蔵の存在は私も知っていたのに」
……確かに妙だ。あの蔵は確かに山の奥にあり、見に行くには少し面倒臭い。しかし、警察と使用人総出で探して、尚且つ家の主人が存在を知っている蔵を探さずに捜索が終わるものなのか。
その疑問も、この事件を解決すれば分かるはず。
「今回の失踪事件は、犯人がいる。そいつを探すまでの滞在を許可して欲しい」
「え、で、でも宗は帰ってきたし…。この家の人間を疑うなんて…」
美玖さんの使用人を疑いたくないという気持ちがあるのか、犯人探しにやけに消極的だった。しかし、桜小路家の主人である一成さんがそれを否定した。
「何を言っているんだ!無事に帰ってきたから良かったものの、もし次同じようなことが起きて何かあってからでは遅いんだぞ!」
「そ、それはそうだけど…!」
一成さんの言葉はかなり強く聞こえるが、宗くんを思って出てきたものなのだろう。
だが、今の言葉を初めに2人の口喧嘩はヒートアップしていく。このままだと話が進まないと思い、私が仲裁に入ろうとした時だった。
声を上げる前に朔太郎が私の隣で、静かに口を開いた。
「話を続けたい。夫婦喧嘩なら後にしてくれ」
その声は口喧嘩をしていた2人よりも小さい音量だった筈なのに、しっかりと聞き取れた。
目の前にいる桜小路夫妻にも聞こえたらしく、口喧嘩は直ぐに納まった。
「どうだろう、滞在を許可してくれるか?」
「……分かった、いいだろう」
正直驚いた。美玖さんがあんなに声を出せる人だとは思っていなかったのだ。
最初に彼女を見た時、ずっと震えたままだった。そのためか、自身の意見を積極的に発言するタイプではないと言う印象を受けていたのだ。
それに、今回の美玖さんの発言。実の息子が帰ってきたことにより、犯人を捜すことよりも安心が勝ってしまったのかもしれない。
しかし、犯人を野放しするということは犯行がまた起こってしまうことになる可能性がある。美玖さんの発言は、かなりリスクのあることだったのだ。
先程までいた談話室から退室し、朔太郎と廊下を歩いていた。
彼は黙ったまま歩いている。
「おい八神、お前どう思った?」
「どう、とは?」
文脈もなしに朔太郎は私へ質問を投げてきた。
しかし、その問いの意図が分からずに質問し返すと、朔太郎は廊下を歩きながら話し始めた。その顔は、またしても呆れて見える。
「あの女、オレは犯人を庇っているように見えた」
「…え、それって」
朔太郎が言いたいことがやっとわかった。それは、美玖さんが犯人と繋がっている可能性があるというのだ。
しかし、彼が私にこう聞くということはそう見えただけで確信がないのだと思う。
私の隣を歩く朔太郎は、鋭い目つきしながら廊下の横にある庭を見つめていた。