消える食料
朔太郎は庭に生えている立派な木の近くにいた。
そんな彼に少し離れたとこから呼びかけるが、聞こえていないのか返事が返ってこない。
近寄ってみると、朔太郎は何かブツブツ言っている。
いや、話している。彼の奥にもう1人誰かがいるのだ。
おかっぱ頭で赤い着物を着た人形みたいに可愛らしい女の子。朔太郎はその女の子と目線を合わせようとしゃがみこんで話していた。
「朔太郎、その方は?」
「…こっちか」
私の話など聞いていないのか、朔太郎はその場から素早く足を動かした。その後ろを駆け足になりながら追い掛け回す。
「朔太郎、いい加減にしてください。説明を求めます」
「言わなくたってお前ももう感じてるだろ」
「確かに嫌な雰囲気と憎悪が流れているのは分かります、でもそこじゃないです。今話していたのは"妖"じゃないですか」
そう言うと、朔太郎は足を止め、私の方を振り向く。
その表情は特に私をバカにしている様な顔とかそんなのではなく真顔で、こればかりは何を言われるか分からず少し警戒をしてしまっていた。
暫くの沈黙が流れ朔太郎が口を開いた瞬間、私の後ろの方から私達を呼ぶ声が聞こえる。
その主は、京極さんだ。
「お二人共、ようやく見つけました」
「京極さん、どうなさいましたか?」
「いえ、一応応接係なので、部屋の案内をと…」
「あ、すみません。勝手に出歩いたりして…」
「あんたでもいい。質問に答えてくれ」
朔太郎は私の肩に手を置き、少し後ろに引いた。
そして京極さんに質問を始める。
「はい、私に分かることなら」
「息子は、なにか見えてたか?」
「なにか、とは?」
「お前らが見えないような物だ、一部の人間が見えるような。例えば、神様とか」
「…そういえば、最近よく坊ちゃんは女の子がいると言っていました」
「女の子?」
京極さんはちょっと前の話ですが、と続けた。
「私は坊ちゃんのお世話係もさせて頂いているのですが、たまに1人で話したりしてるんですよ。それで、誰と話しているのかと聞くと、女の子と話しているって言うんです」
「…ならあれは、気味悪がっていたのか」
「あ、はい。特に一成様…旦那様はそういう類の話を全く信じてなくて、より一層気味悪がっているんです。あんな幼い男の子を。奥様の美玖様もあの様によく脅えています。今回の件も神隠しだのなんだの言ってますし」
「ふーん?因みにあんたは?聞いた本人的にどうなんだよ、神隠しだと思うか?」
「現に、私は坊ちゃんに直接話しを聞いている身なので神隠しと言われたらそうにしか…」
困った顔をした京極さんは手を顎に当て考えている。
朔太郎に至っては、先程よりもスッキリした顔をしていた。
「なら、最後に一つだけ。坊ちゃんの名前は?」
「?あ、言ってませんでしたね。坊ちゃんは宗様と申します」
「しゅう…なるほどな」
「あの、何がなるほどなんで…」
「京極さん!」
2人が話しているのを割って入ってきたのは、この家で働いてるであろう女性だった。
かなり慌てていたのか息切れをしてきる。
「どうしました」
「また、無くなったんです!ほんとに気味が悪い!」
「無くなった?」
朔太郎が聞き直す。
すると京極さんが私たちに説明をしてくれた。
「最近、頻繁に食材や調理した食事が忽然と姿を消すんです。それで、使用人が怖がってしまって…」
「それ、いつ頃からだ?」
「えっと…昔からちょくちょくありましたが、坊ちゃんが行方不明になられてからは毎日ですね」
少し失礼します、と軽く礼をして京極さんはその場を後にした。