探偵處あやかし屋
時は現在。
女は学校帰りなのか制服姿に、小さな体には似合わない竹刀袋を担ぎ歩いていた。
自身のアルバイト先に向け、足を進めるのだ。
女の名は八神あお。現役の女子高生であり、とある探偵事務所でアルバイトをしている。
黄金に輝く瞳以外は、見た所何の変哲もない女性である。
(あれ、何か来てる)
曲がり角を曲がり路地に入り、少し不気味なビルに向かって進む。上方には『あやかし屋』なんて何をしているか分からない事務所の看板が見え、普通の人なら絶対に絶対近寄ろうとは思わない。
ビルの中に進み、事務所の入口前にある珍しい形のポストを覗いて、いつも通り依頼が無いかを確認する。
すると、普段全くと言っていいほど届かない郵便物が事務所宛に届いていた。
手紙の裏を見てみると、差出人らしき名前が丁寧な字で書かれている。
封を綺麗に開け、読みながら事務所の扉を開けると中へ足を踏み入れた。
「お疲れ様です」
事務所内に入って挨拶をすると、おかえりなさい!と元気な声が奥の方から聞こえてきた。カチャカチャと食器の音が聞こえるあたり、洗い物かお茶の準備をしていたのだろう。
同時に、いびきを立て事務所のソファーに寝そべっている男に目が行く。
男の顔には漫画の週刊誌が開いたまま乗っており、大方読んでる途中に睡魔に襲われたということが分かる。
週刊誌を顔から退かし、八神はあきれた声で男に声をかけた。
「朔太郎、いつも言っているじゃないですか。事務所では寝ないでください」
「……あ?んだよ」
少し不機嫌そうに目を覚ました男、名を朔太郎。
八神同様、この探偵事務所のメンバーだ。
この朔太郎という男、見た目は黒髪で整った顔をしており、いかにも好青年という感じであるにも関わらず、いつもけだるげな態度で、事務所にいる間は今みたいに寝ては食べてという、所謂『ぐーだら生活』をしている。
しかし、仕事となれば話は別だった。この事務所は諸事情故に働いている者がかなり少ない。それでも仕事に遅れが見られないのは、この朔太郎が色々と手を回してくれているからだ。
八神も依頼を受ける際、人数合わせの結果、朔太郎と組まされることが多かった。その度に、彼に助けられたことが何回とある。
だが、ドが付くほど真面目な八神には朔太郎の私生活がどうしても理解できなかった。
そして、朔太郎自身からもあまり好まれていないらしく、良く一緒に仕事をする間柄でも仲が良いとは言い難い関係だった。
「また夜遅くまで起きていたんですか?」
「関係ねーだろ」
「関係大有りです。心配しているんですよ」
「は?」
「仕事に支障が出ますし。昼夜逆転はさすがに危ないと思いますし。あ、そんなことより依頼が来ましたよ。所長に許可をいただいてから調査です。そのために起こしたんですから」
「ほんっとに行け好かねー奴!!」
上半身起こしながら、ぐああ、と頭を抱える朔太郎を横目に、八神は手紙に書かれている依頼内容に目を落とした。
そして、この依頼が何故あやかし屋の事務所に来たのかを理解した。
「朔太郎、今回の依頼は『神隠し』です」