17 半魚妖精(ラタペ・ルフォ)とその加護
顔や二の腕に残る傷跡。
依頼主から聞かされていた風貌、ではこの人物が……
「……ほう、まさかここまでこれるやつがいるとはな」
相手は初めビアトロに驚いていたが、すぐに彼を値踏みするかのような目を向けはじめる。
「あなたがラトプ?」
その視線にさらされながらの誰何の声に相手はうなずく。
「ああ。さて、あんた親父に頼まれたんだろう。俺をここから連れ出してくれ」
まるでビアトロを待ちかねていたかのようなラトプのふてぶてしい態度にビアトロは面食らう。
「え、ええ」
そこでビアトロは気づく、祭壇の影に水路に浸かって上半身だけを見せている女性が隠れていた事に。
その姿を見たビアトロには心当たりがあった。
「まさか半魚妖精?」
半魚妖精とはラタペ・ルダ同様海神ラタペイロスの下僕である水の妖精たちである。
人同様の姿を取ることもできるが、水中では下半身を魚のようにすることができると言われている。
「あ、ああ。
……心配するな、こいつは多分さっき聞こえてきた音色の主だ」
ラトプの言葉にビアトロを見て怯えた表情を浮かべていた半魚妖精は若干の安堵の表情を見せる。
「彼女達は臆病でな、めったに人前には姿を表さない」
「ええ」
旅のさなか耳にした噂を思い出しビアトロは頷く。
「彼女は俺がここにいる間、面倒をみてくれたのさ。
……世話になったな、海神の加護に感謝する」
後半の自分に向けたラトプの言葉に半魚妖精は無言で頭を下げると水路に飛び込み、姿を消す。