16 古の仕掛け
夜中の海岸で静寂のなか、打ち寄せる波のような子守唄のように穏やかな旋律。
地下水道で反響する竪琴の音色。
しばらくその音色が通路に響いていたが、次第にこちらを警戒するかのように揺らめいていた触手の動きが鈍くなり、やがて水路のなかに沈んでいく。
「なんとかなったか」
あたりを見渡し、他に何もいないことを確認するとようやくビアトロは安堵する。しかし、この先もラタペ・ルダに襲われない保証はない。
彼は松明をしまうと再び旋律を奏でだし、壁に灯る明かりに導かれるまま指を止めることなく歩き始める。
ほどなく進むと、行き止まりに突き当たる。
道を間違えたか?といぶかしむビアトロだが、行き止まりには何かの台座と壺が置かれていた。
周囲を確認したビアトロは再び松明に明かりを灯し、台座に近寄ってよく見ると、そこには何やら文字が彫られていた。
「これは古代文字か」
古代文字とは今ビアトロ達が使っている文字の原型になったものであり、多少の知識があれば解読自体はそれほど困難ではない。
しかし、こんな文字が使われているということはやはり……
ビアトロは刻まれた文字を読み解き、かかれていた通りに地下道から水を汲み上げ、壺を水で満たす。
と、重さが鍵になったのか、台座が沈み、石の扉が音をたてて開いていく。
扉が開いた先は開けた部屋になっており、そこには上の神殿同様の海神を模した石像と段状の祭壇、そのそばを流れる壁の向こうにつながっていると思われる水路があり、祭壇の近くには一人の男がいた。