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1 寒い懐事情

「どうです旦那、出来の方は」


「ありがとう。いい仕事だ」


「へへへ、どうも」


窓から潮風が吹き込んでくる部屋の中、白装束の詩人ビアトロ・ヴァトーレは悩んでいた。


今、彼の目の前には三つのものがならんでいる。


一つは先頃修理してもらった彼自身の身を守る硬革鎧。


残り二つは中身が詰まった革袋と中身の無いしぼんだ革袋。


詰まった袋の中身は宿代や食費、故に滞在には困らない。


しかし、しぼんだ袋の中身は武具の修理や遠出の際、荷運びに使う驢馬ろばを借りる時などに使う予算。


その予算は今回の修理で大分使ってしまったのでしばらく旅に出るのは厳しい。


「さて、どうするか」


悩んでいても懐は暖まらない。ビアトロは行動に移ることにした。


彼は眺めていた革袋をしまうと、直してもらった革鎧と白い外套を身に付け、日よけの外套がついた兜を被り、盾と短剣と長剣を腰に帯びて部屋をあとにする。


「あれ?ビアトロさん、出かけるの?」


階段を下り、宿の受付で外出の旨を告げたビアトロに一人の少女が声をかけてくる。


彼女の名はラトゥーニといい、ビアトロが現在逗留しているこの宿「海鳥の泊木亭(レファラ・ルブ)」を経営しているスリエード商会の代表、レトン・スリエードの娘である。


彼女とはふとしたきっかけで知り合い、この宿に案内された。


それだけではなく、彼がこの宿の酒場で歌を披露し、些末ながらも安定した日々の糧を得られるのも彼女と彼女の父、そして彼らとの出会いをもたらした旅と芸事と商売の神シムリーのおかげ。


年相応の天真爛漫さを持ちながら商人の娘らしい利にさといところもある彼女をビアトロは気に入っていた。


吟遊詩人として旅をしている以上、金持ちや権力者に招かれることも多い彼だが、多くは彼が見聞きした逸話や歌を披露してくれる事を目的とした見せ物扱いが多い。


無論、ビアトロもそれを承知の上で彼らと付き合ってきた。しかし、彼らはそれ以上の好意をこちらに寄せてくれている。


「ちょっと、仕事探しにルーメ・ラースにね」


「……じゃあ、裏路地にいくんだね」


ビアトロの言葉を聞いたラトはそれだけで何かを察したか、人懐っこそうな笑顔から一転して寂しそうな表情を浮かべる。


この数日ビアトロは彼女の案内でこの街を見て回っていた。おそらく今日もそのつもりだったのだろう。


「ああ」


「気を付けてね、あ、でも夕方までには戻ってきてね、ビアトロさんの歌目当てのお客さんだっているんだから」


同行できないことを残念がる、しおらしい表情から一転して商人の家の子らしい発言をするラトにビアトロは苦笑すると彼女に部屋の鍵を預け、宿を後にする。

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