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そういうところも大嫌い《千文字作文》

作者: 下菊みこと

「君なんて嫌いだ」


「そうですか」


澄まし顔に、また嫌になる。


「でも、私は好きですよ」


優しく微笑んでくる彼女に毒を吐く。


「そういうところも大嫌いだ」


「そうですか」


俺は保ってあと三ヶ月、らしい。俺のことなんてさっさと忘れて、幸せになればいいのに。


「そうそう。知り合いに呪術師の方がいまして」


「…なんの話だ?」


「その方が、貴方の病気を完治させてくださるそうですよ」


「なんだその胡散臭い話」


「その証拠に。あれほど苦しそうだった咳が止まりましたね」


言われて気付く。血混じりの咳が全く出ない。


「え、え、本当に…?」


「ええ、あとで治癒術師の先生に確認してもらってくださいね」


「…ありがとう!これでまだ君と一緒にいられる!」


俺がそう言えば、彼女は目を伏せた。


「それは無理なんです」


「え?」


「呪術師の方が言うには、私も同じ病気に既にかかっているそうです。今は初期症状だけですけどね。そして、この病気を完治させるほどの魔力を持つのはその方くらいのもの。魔力が回復するまでには時間もかかるそうで…私は多分、間に合わないでしょう」


彼女の言葉に、絶望が胸に押し寄せる。


「どうして…どうして自分の病気を治さなかった!なんで僕を優先したんだ!そんなの嬉しくもなんともない!君が犠牲になる必要なんてなかったのに!」


「貴方に先立たれるより、先に逝って貴方に苦しんでもらいたかったんです」


「…は?」


「ずっと、私を想って苦しんで…その苦しみこそが、貴方からの愛、でしょう?」


彼女のぶっ飛んだ思考に、思わず閉口する。


…ああ、やっぱり僕は、彼女が嫌いだ。


「大嫌いだ」


「そうですか」


「…でも、どうしようもないほど愛してる」


僕の言葉に、彼女は微笑む。


「私もです」


「…君を想って、一生苦しむよ。だから、なるべく早くお迎えにきてくれ」


「ふふ、それは貴方次第です」


「…思い出を、今からたくさん作ろう。僕が一生、苦しんでいられるように」


「はい、もちろんです」


ああ、とても嫌だけど。でも。


それが彼女の望む愛だというのなら、一生を捧げよう。

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