第6節:Strangers Cross
科白の多い回です。
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「私はクリス。見てのとおりの《ソウルオーバー》。それで、こっちが相棒の……」
「転生者のエヴァ。よろしく」
クリスの鎧が光になって、もとの姿に戻る。
ポニーテールとメガネの、純朴そうな女の人だ。
「ありがとうございました。危ないところを、助けていただいて」
オレと美琴も名乗り返して、礼を言った。
「うん。助けられてよかった。ヒール知らなかったってことは、最近になったの?」
「半年くらいです。でも《ソウルオーバー》って呼び方とか、ヒールのことは知りませんでした」
「私達以外の……その、《ソウルオーバー》に遭ったのも、今日が初めてなんです」
「そうか……」
エヴァが考え込みながら応える。
「よりにも寄って、とんでもない奴と……」
「そんなヤバい人なんですか?」
ヤバさはさっき身をもって知ったが。
「立ち話もなんだし──」
クリスが提案した。
「どっかで落ち着きましょうか」
「さっきの、ペ……なんとか、追ってきませんか?」
「ぺなんとか……ッ」
クリスが噴き出す。
「ワープ先は無数にあるし、絞り込んで当てるのは無理だね。いくら奴でも、他人のログまではそう簡単に見られないだろう」
半笑いのエヴァの言葉で、オレも美琴もひとまず気持ちが落ち着いた。
そうしてオレたちは、その街にあるパブのひとつに入った。
「やっぱり、この街はもう純AIだらけだ。悪霊のせいで、こういう何か起こりそうな場所には転生者が寄りつかないんだろうな」
エヴァが言った。
純AIとは、転生した死者とは別に、《クロスロード》内に用意された完全なAI住民──いわゆるNPCだ。
住民のように振る舞うし一見すると見分けがつかないが、転生者にだけは判別できるらしい。
クリス達はエール、オレと美琴は紅茶を頼んだ。《クロスロード》の酒は味が再現されているだけで、酩酊効果も年齢制限もないが、なんとなく気が引けるのだ。
「きみ達、ひょっとして本名名乗ってる?」
「え? ええ」
「うーん、先輩ヅラみたいなこと言ってごめんだけど、これからは通称みたいなの持っといたほうがいいよ。ボクらもそうしてる」
「でも私、転生したときからずっと、生前の名前でしたけれど」
「これまでは大丈夫だったんだけどね。さっきのペティアみたいなのが出てくると、名前から住んでるところを特定される場合もあるんだ。リアルほど広くないし、人もまだ少ないからね。とくに《ソウルオーバー》は目立つよ」
ぞくっ……オレは背筋を冷やして、美琴と顔を合わせる。
「あの、ペティアって人、なんなんですか?」
「チーターって言ったら分かる? 少し違うけど、そんな感じ」
「そんな……《クロスロード》の管理者は対処してないんですか?!」
「お手上げらしいわ──悪霊と関係があるって説だけど、《ソウルオーバー》になった《ロードクロッサー》は管理不能になるの」
「管理側で制御できなくなるんですか? じゃぁ、アカウントの停止も」
「そう」
「じゃぁ、どうやったら止められるんです? あの人、何人も……殺してるって」
「……殺すしかないよ」
エヴァが冷たく言い放った。
お読みくださりありがとうございます。
色々と話そびれてる部分はありますが、それは次回、話の展開とともにテンポよくいきたいと思っています。