第5節:Mad Soul
いち更新における文字数がだんだん多くなってきております(汗)。
今回はサブタイトルどうり、けっこうアカンやつ。
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「あはは、冗談冗談」
固まるオレに、笑いながらその人は言った。
「考えてみてよ。《想い》で繋がってないと、死者は装備できないんだから、貰ったって意味ないでしょ」
それもそうか、とオレは胸を撫で下ろす。
「ボクはペティア。《クロスロード》のアイドルもやってるんだけど、知らない?」
オレは「いいえ」と首を横に振る。
「そう。で、キミら、何て言うの?」
「オレは穣。こっちは美琴です」
「ふうん。二人はやっぱり付き合ってるわけ? それとも、もう結婚してるの?」
初対面なのにズケズケ訊いてくるペティアに、オレは嫌な印象を感じながらも、勢いに逆らえなくて、つい答えてしまう。
「いや、付き合ってはいますけど……」
「けど、なに?」
「え? いえ……結婚はまだ。ペティアさんだって、すごく強いから、《ソウルギア》になってる人とは──」
「はぁ?」
明らかな敵意に、オレは凍りついた。
「弱いくせに自慢か? リア充マウントか?」
「ペティアさん? オレ、なにか悪いこと言いました?」
「そういう無神経なのがムカつくンだろが。バカだろお前、バカ!」
声を荒らげるペティアの鎧の一部が剥がれ、巨大な爪になって右手に装着された。
「前言撤回ー。やっぱ彼女貰うわ」
「穣、逃げて! この人おかしいよ!」
美琴の言うとおりだ。言動が破綻してて、まともに相手してられない。
だけど、オレは一歩も動けない。ヘビに睨まれたカエルも同然だった。
威圧感が、悪霊なんかの比じゃない。
「問題でーす。《クロスロード》のなかで《ロードクロッサー》が死んだら、どうなるでしょーか?」
分からない。そもそも、死ぬわけがない。
《クロスロード》は、すでに死んだ人間の世界で、そこに二度目の死はない。
病も、傷も、死に繋がるいっさいが、ここには最初から創られていないのだから。
「あ、死なないって思ってる? ざんねん。オレ、もう何人も殺ってるもんね」
「嘘だ!」
「決めつけんじゃねぇよクソが!」
その瞬間、間合いが詰められ、爪が振り下ろされた。
「い──ぁ……!」
美琴の悲鳴が聞こえる。
オレがとっさに、鎧の腕で防御したからだ。
好みに纏っている《ソウルギア》は、美琴そのものなのだ。
「ごめん美琴!」
「イチャイチャキモいんだよ!」
「が──ッ?!」
爪が横に薙がれ、鎧に守られていない二の腕が斬られる。
痛みとともに、血が噴き出た。
「穣! なんで……ッ!」
「う、ああ……!」
起こったことが信じられず、オレは後退って、尻餅をついた。
「ね、痛いでしょ? 死ぬのよ。分かった?」
「な……なんで……?」
「バグかウイルスだってさ。悪霊もそうだって噂じゃん? 知らないの? ほらバカじゃん」
ウイルス? コンピューターウイルスが、この世界をおかしくしたのか?
「で、わかりを得たところで、選択肢。彼女、ボクにくれたら、キミも生かしといたげる。くれないなら、キミを殺してでも貰う。どっちがいい?」
選べるわけがない。
だが、声が出せない。
「穣、逃げて!」
できるならオレもそうしたい。
けれど、どうやったら逃げられる?
「チッ、チッ、チッ、はい時間切れ。トロいんだよ、死ねゴミ」
爪が頭に振り下ろされた。
「わぁぁぁ──ッ!!」
ガツンッ──叫んだオレの目と鼻の先で、ペティアの爪が跳ね返った。
見えない壁に当たったかのようだ。
「あ?!」
驚いた瞬間、今度はロープがオレの体に巻き付いた。
強い力で横に引っ張られ、気がつくと転送装置の前にいた。
「逃げるわ。一緒に入って!」
黒い《ソウルギア》を纏った女の人に、装置のなかへ連れ込まれる。
そのまま、中世っぽい知らない街へと、風景が変わる。
「はぁ……はぁ……ッ!」
装置から転がり出ると、オレは斬られた腕を押さえて、しゃがみ込んだ。
「穣ッ、穣! 血が……嘘でしょ……!」
もとの姿に戻った美琴すら取り乱している。
「ヒール使えないの? 見せて」
助けてくれた人が、オレの隣にかがんだ。
アバターなのだろうが、宝塚の男役が務まりそうな、カッコイイ系の美人だ。
その人は傷口に手をかざすと、何かを念じるように眼を閉じた。
「え?」
オレも美琴も目を疑う。
ザックリと裂けていた腕が、何ごともなかったかのように、元通りになったのだ。
お読みくださりありがとうございます。
この話もようやくアクションものっぽっくなってきましたが、次回は命の恩人とお話でもしてもらおうかと考えております……