第4節:Soul Over
前回のあとがきで言ったことを簡単に覆しました。勢いって怖いですね。
今回から話が一気に動き出します。
4
その日も、オレたちは《クロスロード》の街中で、一緒に映画を観たり、ゲーセン入ったり、パフェを食べたりしてた。
システムが脳神経と繋がってるから、《ロードクロッサー》のオレにも、ものの味や匂いは感じられる。腹は膨れないけど。
ていうか、五感が繋がってるなら、《クロスロード》内で死んだ《ロードクロッサー》はどうなるんだ?
そのとき、オレたちの、そして周りにいる人たちのポケットから、キィンキィンとサイレンが鳴った。
スマホのアラート。悪霊がどこかに出たのだ。
「南西、やすらぎの村!」
近くはない。連中はなぜかエリア転送装置を使えないから、人々もひとまず安堵する。
だが、オレと美琴だけは、急いで近くの装置に走った。
転送装置は街中のところどころに置かれていて、大昔の電話ボックスのような形をしている。
「まだ閉鎖はされてない。行くよ」
「うん」
二人して入り、行き先を入力すれば、たちまち目的地に着く。
やすらぎの村は、ファンタジー世界の村風に作られたエリアだ。派手な娯楽は少ないが、自然に寄り添った穏やかな暮らしを好む人たちが多く住んでいる。
が、その穏やかさが今、迫り来る黒い影に脅かされていた。
到着したとたん、オレたちの目の前で、人がひとり、悪霊の餌食になった。
「美琴!」
オレは美琴を、そしてここの人々を守りたいと、強く想う。
「オッケー!」
美琴がオレを抱きしめた。
その瞬間、美琴の体は光に変わり、オレの鎧へと変身した。
《ソウルギア》……死者の想いが生者の装備になる現象。
悪霊に追い詰められ、偶然にも発動したときから、オレたちはこの力で、この世界を守っていこうと誓った。
世界中にも何人かいるらしいが、そうとうな少数で、まだ他の人には有ったことがない。
「覚悟しろ、化け物ども!」
装甲の一部を弓に展開して、群がる悪霊どもに光の矢を連続で放つ。矢は無尽蔵だから、弾切れを気にする必要はない。
が、軌道を曲げたり、矢を分身させるといった大技を撃つと、美琴が疲れやすくなる。
「反応、三時の方向──え、待って?!」
「なに? え?」
ナビゲーターをしてくれてる美琴の声で、オレも異変に気付いた。
側面に展開したマップのなかに示されている悪霊のマーカーが、すごいスピードで減ってゆくのだ。
やすらぎの村の脅威はまたたく間に排除され、そして彼女が、オレたちの前に現れた。
「はぁい《ソウルオーバー》。きみ、このへんの自警団?」
十代半ばの、おっとりした感じの女の子だった。
ただし、それは顔だけで、首から下は炎が形を留めたような禍々しい鎧に包まれている。
「《ソウルオーバー》?」
「《ソウルギア》を使える《ロードクロッサー》のことを、そう言うんだよ? 使ってるのに、知らなかったの?」
「え? ええ……。ところで、スゴく強いんですね、あなた」
「そーお? こんなザコ、相手にする価値もないし、ほっといてもよかったんだけどね」
オレの背筋がゾクッと冷えた。
「ほっとくって……! ここの人は、助けなくていいっていうんですか!」
「力がないやつが死ぬのは当然でしょ? それにボクが興味あるのはキミだけだし。悪霊どもは、邪魔だから始末しただけ」
「オレに……?」
自分以外の《ソウルギア》を使える人に会えたと思ったら、会話のペースについてゆけない。
それにこの人、言葉のふしぶしから残酷さを感じる。
いったい、なんなんだ?
「きみ……んーん、キミが纏ってる、《ソウルギア》の子、可愛いね。ボクにくれない?」
お読みくださりありがとうございます。
さてさて、新たに登場した少女はいったい何ものなんでしょうか。