冷蔵庫に貼られている幽霊
ホラー要素のないホラーコメディです。ジャンルは迷いに迷って純文ジャンル。
アパートの家賃が他の部屋より698円安い。
事故物件が理由だと気づいたのは、冷蔵庫に見慣れぬマグネットが貼ってあったからだ。
実家にある古い冷蔵庫ならともかく、新しい型の冷蔵庫はそもそもマグネットがくっつくはずがない。
それなのに所狭しと張り付いている。
ポストによく投函されているぼったくりのマグネット。
はがそうにも透明なそいつらに触ることすらできない。
こわいな。
論理的に考えよう。
見えるが触れない。たぶん宙に浮いている。
これらが導く結論はひとつ。
マグネットの幽霊だ。
マグネットの幽霊ってなんだよ。
ぼったくりのマグネットはポストにやたら投かんされるが、よく見ることなく捨てる人がほとんどだろう。
本来の役目を果たせなかったから恨んでいるのはわかる。
恨みがあるから化けて出るのもわかる。
あれ? わかっちゃったな。
まあ、害がなさそうだしいいか。
その日から俺とマグネットの幽霊の同居生活が始まった。
「せいれーつ。今日は彼女が来るから、俺の名前に並んでおいてくれ」
シュッ。
“上井田”と形作る幽霊たち。
冷蔵庫の上で自由にさせていたら、意思疎通がとれるようになっていた。
案外かわいいもので、呼べば反応するし、なでれば喜ぶ(触れないのだが)。
人を呼ぶときはネタインテリアとしてあえて見せることで、俺の家が幽霊屋敷であることをごまかしている。
寺生まれの友人を呼んで除霊してもいいが、愛着がわいてしまったのでそのままにしている。
家に来た彼女が冷蔵庫を見て驚く。
「うわ、なにこれ。ぼったくりのマグネット?」
「そう。面白いでしょ」
「集めてんの? 今度うちのポストに入ってたらあげるね」
彼女が広めたおかげで、ぼったくりのマグネットを集めていると知れ渡った。
俺は定期的にマグネットをもらうようになってしまった。
もらったマグネットを捨てるたびに冷蔵庫にはマグネットの幽霊が増える。
今日も我が家の冷蔵庫にはマグネットが貼られている。
終




