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 んでもって一時間目の休み時間。

 ぼくはポケットに忍ばせたラヴなレターをはて一体いつ藤咲さんに渡せばいーのかしらと思い悩んでいた。

 なにせ彼女はこの学校関係者各位の男性999人からラヴなレターをもらい、女子生徒ほぼ全員を敵に回した圧倒的な超モテ女子。

 当然、休み時間とかはつねに繁殖精神旺盛なオスガキどもに囲まれているわけで。

 はて、いったいこの鉄壁の包囲網の中で、いつ彼女にポケットのこれを渡せばいいというのか。

 ……と、そんなことを思い悩んでいると。

「おっ、なんだこれ」

「おいおい、これラブレターじゃねーか!」

 失策だ。

 上着のポケットからちょびっとだけ封筒が飛び出していたらしく、それを俺たちは前前前世からのソウルメイトだと公言して憚らない二人組――マサツグくんとミヤモトくんに見つかって、取り上げられてしまう。

「ちょっ……なにすんだよ、返せよ」

 果敢に取り返そうとマサツグくんとミヤモトくんに挑むぼくだったが、

 てい、どすんっ、

 マサツグくんとミヤモトくんに軽く押されただけで床に尻もちをついてしまう。

「よわっ」とつぶやいたマサツグくんとミヤモトくんはふたりでニヤニヤ笑っている。

 なんて奴らだ。

 死ねよもう。

 まぁ、現状、ぼくの方が彼らより弱いわけで。

 ぼくといえばナメクジなみの戦闘力なわけで。

 死人が出るとしたらぼくの方なんですけどね、てへっ。

「おいおいおい、こいつ死ぬぜ。見ろよ、ラブレターなんて持ってきてやがる」

 マサツグくんはわざとらしい大声でそう言って、クラス中の注目をあつめた。

 その中には当然、藤咲さんもいたわけで。

「…………」

 彼女は相変わらずのお美しいお面で騒動の中心であるマサツグくんを見た――虫けらでも見るような目で。

 そして、やおら彼女は立ち上がり、これ見よがしにぼくが徹夜でしたためたラヴなレターを高々と掲げているマサツグくんへ、スタスタと近寄ったかと思えば、ひょいっとそれを彼の手から奪い取っていた。

「……あっ、藤咲さん……」

 気まずげな表情を浮かべるマサツグくんとミヤモトくん。

 そんなふたりをまるで気に留める様子もなく封筒の宛名を確認する藤咲さん。

 そこには当然、彼女の名前がしめされているわけで。

「これ、私宛のようだけど?」

 鋭い瞳。冷たく彼女はそういった。

「……あ、いや、それは……」 

 とたんにしどろもどろになるマサツグくん。

 ミヤモトくんとマサツグくん。

 二人そろえば俺たちゃ最強と豪語する彼らは、単体では、たぶん、ぼくより弱い。その証拠にどちらかが学校を休んだ時、残された片割れは、教室の隅で、限りなく気配を消し、無になっている。だれにも気づかれないようにと。まるで即身仏だ。当然、ぼくに絡んでくることもない。

 そんな彼らだからして、スクールカースト最強の藤咲さんに逆らえるわけもなく。

「あ、俺用事思い出した、ちょっと出てくるわ」

 マサツグくんの心の友であるはずのミヤモトくんはマサツグくんをあっさり見捨てて教室を出て行き。

 残されたマサツグくんは、

「あ、ごめん、電話かかってきたから」

 と、おそらくはかかってきていないスマホを取り出し、エア電話を始めた。

「あ、うん、オレオレ、あー、そうなんだ、へぇ……」

 なんとかおそらく存在すらしていないだろう相手と会話を続けているマサツグくんだったが、その顔には、誰の目にも明らかなほど大量の汗が浮かび上がっている。

 そんなマサツグくんをしばらく鋭い目で睨んでいた藤咲さんだったけど、やがて、呆れたように小さく首をふって、ぼくへと向き直った。

 手紙をひらひらさせて、

「差出人、あなたよね」

 こくりとうなずくぼく。

「受け取っても?」

「どうぞ」

 答えるなり、藤咲さん、封筒を開封する。

 ……えっ、ここで?

 面食らうぼく。

 とくに気にした様子のない藤咲さん。

 そのまま彼女は折りたたまれた便箋を広げ、目を落とす。

 ごくり、と唾を飲むぼく。

 冷たい目で文字を追う、彼女の視線の動きが、怖かった。

 やがて。

「全然だめね」

 そう言って彼女はぼくが徹夜でしたためたラヴなレターをビリビリと破り捨てる。

 唖然とするぼくを、鋭い彼女の視線が射抜く。

「想いが全然伝わってこない。記念すべき1000枚目のラブレターにして最後となるラブレターにはふさわしくない」

 そんなこといわれましても……

「これが3通目や107通目や817通目なら全然かまわない。でもね、あなたからのラブレターは私にとって、とても大事なものなの。だから、こんなつまらない文面じゃだめ。もっと、あなたの、想いをぶつけて? 熱いを想いを。心からの想いを。胸が焦がれるような想いを、そして、私の胸を焦がすような想いのたけを――ちゃんと、ぶつけて?」

 じっとぼくを見つめてくる藤咲さん。

 その瞳は鋭いだけじゃなく、ゆらゆらと揺れていて……どこか切なげでもあった。




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