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 藤咲さんが納得するようなラヴなレターをとっとと書け――か。

 まぁ、そーなんだろうね。

 話を聞く限り、それが正しい行為なんだ。

 ぼくみたいな下級国民が藤咲さんみたいな上級国民の足をひっぱっちゃダメだ。

 一刻も早く彼女にラヴなレターを渡して、芸能界デビューしてもらわなきゃ。

 けれどぼくはいまだかつてラヴなレターを書いたことがないわけで。

 というか、まともに手紙を書いたような記憶もとくにないわけで。

 話すことも文章を書くことも苦手なわけで。

「あー、どーすりゃいーんだろ」 

 こまって頭をクシャクシャしたところでなにも解決なんてしないわけで。

「そうだ文房具屋、行こう」

 とりあえず、京都へ行くような軽いノリで文房具屋へ。

 購入したのは封筒と便箋。便箋の方はちょっと多めに。書き損じを見越して。

 あと徹夜も見こしてドラッグストアによってエナジードリンク的なものも何本か購入。

 ついでにカップ麺とスナック菓子も。

 思わぬところで財布を軽くしてしまったぼくはけれどそんな現状とは裏腹に意気揚々と帰途を辿るわけで。

「今夜は寝かさないぞ☆」

 などとうっかり口走ってはみるものの、寝かせてもらえないのはこのぼくの方なわけで。

 そんでもって帰宅後さっそくラヴなレターの作成に取り掛かる。

「えっと、『はじめみたときから、あなたのことが好きでした』……うーん、なんか小学生の作文みたいだなぁ……『お前のこと、メッチャ好きやねん』……なんかキャラがそもそも違う……『こけしたみたいなメイドさんに脅されたのでこうしてラヴなレターを書いてます』……正直者か……」

 と、このように。

 ラヴなレターの作成は困難を極めた。

 クシャクシャに丸めて捨てられた書き損じのラヴなレターが部屋中に散乱するころ。

「……で、できたぁ……!」

 ぼくはとうとうラヴなレターを完成させたわけで。

 そのころにはカーテンの隙間から陽の光が入り込んでいて、チュンチュンと、雀の鳴き声が聞こえてきていた。




 教室では昨日のすぅえくぅすぃショーの話題で持ちきりだった。

「昨日やばかったな、マジやばかった!」

「マジすっげぇの! やっべ! すっげ!」

「つーかさ、マジやばくね?」

 いまだ興奮冷めやらぬ様子でそうさえずる繁殖精神旺盛なガイズ。

 語彙力死んでまんがな。

 クラスの女子が汚物でも見るような目で「ちょっと男子ぃ、朝から品のない話やめてよね!」と怒ってきても彼らはおかまいなし。

「やっべ!」

「すっげ!」

「マジやっべ!」

 だから一体ナニがどう凄くてやばかったのか。

 それを具体的にいわなければ意味ないでしょ?

 つーかあのこけしにいったいどんなやばみや凄みがあるというのか。

 もはやタチの悪い呪いにかけられたとしか思えない。

 あるいは集団催眠にでもかけられたのか。

 でも……ほんのちょこっと……0・000000001パーセントほどの確率で、ほんとうにすぅえくぅすぃだった可能性もないこともなかったのかもしれない。

 ぼくはひょっとしてとんでもないものを見逃してしまったのだろうか――そんな風にちょっとした後悔にさいなまれたのだけど。

 ガラッ。

 そのとき藤咲さんが教室に入ってきて。

 そのすぐ後ろから入って来た犬丸さんを見て。

 ――あっ、やっぱいいです。

 後悔は、跡形もなくふきとんだ。

 不思議だったのは、この教室のガイズを興奮させたはずのそもそもの張本人である犬丸さんが教室に入ってきてもだれも彼女を気に止める様子がなかったことだ。

 え? なんで? どゆこと?

 お前らのいう「やばい、すごい」は犬丸さんに向けられたものではなかったのか。なぜ今、昨日の圧倒的なまでのすぅえくぅすぃの張本人であられるはずの犬丸さんを一切気にかけないのか。

 いったい昨日、旧体育館でなにがあったとゆうんだああああああああああああああああああああああああああああ!

 心の中で絶叫するぼく。

 そのとき、犬丸さんと目があって。

 ふっ、と。

 彼女はぼくをさげすむようにほくそ笑むのだった。




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