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「へい、すとっぷゆー」

 夕暮れ。

 校門にいたるまでの閑散とした道のり。

 校庭の方から聞こえる部活動にいそしむ若人の声をBGMと聞き流しながら黄昏色の日差しの中をのんびり歩いていたぼくの前にすっと影が立ちはだかり、流ちょうな、それはそれはとてもとても流ちょうな日本語的発音の英語らしき言語で、その人物は、そう言った。

 言葉の意味はわからんが、たぶん「止まれ」的なことをいってるんだと瞬時に解釈したぼくは――

 スタスタスタ

 そのチンマイ人影を華麗にスルー。

「オウ、アナータハ、エイーゴ、ワーカリマセンカ?」

 今度は外国人的な発音の日本語で呼び止めてくる。

 おもしろすぎでしょ、この子。

 失笑。

 と同時に振り返る。

 するとそこにいたのは例のメイド服を着たちっこいこけしのような少女。

 無表情でこちらを見ている。

「あっ、こけし……ゲフンゲフン、藤咲さんちのメイドさん」

 ぼくはいった。

 彼女はいい返す。

「チーズ牛丼……ゲフンゲフン、チーズ牛丼くん」

「咳き込む前と後で呼称が一切変化してませんよ?」

「じゃあチーくん」

「なにがじゃあなんだか」

「ちょっとお時間よろしいでしょうか?」

「今日はちょっと」

「なにか用事でも?」

「家に帰ります」

「帰ってなにを?」

「くつろぎます」

「てめぇふざけたことぬかしてんじゃねーぞ? ああ?」

 マガジン系ヤンキーばりにピキピキすごんでくる。

 怖くは、ない。

「……あ、でもちょっとだけなら大丈夫かな、はは」

 怖くはない。

 怖くはないが……無下にするのもいくない。

 ちょっとだけなら付き合ってやろうではないか。

「よかった。このダイナマイツを使用しないで済みます」

「ロウソクに見えますが……」

「ダイナマイツです」

「そうなんだ」

 彼女が言うならそうなんだろうね――彼女の中ではな。

「あ、申し遅れました。わたくし、ヘンリエッタお嬢様の侍女をさせていただいております、犬丸Q子と申します」

 こけしメイドこと犬丸Q子さんはシャランっとスカートの両端を持ち上げて、ペコリ。

 子供が必死に背伸びをしているみたいで微笑ましいっちゃ微笑ましい。

「日本のセックスシンボルです」

「日本のセックスシンボル!? い、一体どこからそのやうな自信が……あわわわわ」

 ぼくは震えた。

 震えるしかなかった。

 その全身からみなぎってくるような自信は一体どこからあふれてくるといふのか。

「うっふーん♡」

 セクシー気取ってパチンっとウインクしてくる犬丸さん。

 ふよふよと漂ってくる毛の生えた歪なハートのようなものを、ぼくは当然、避けた。

 ムッとする犬丸さん。

 それから犬丸さんは歪なハートのようなものをぼくにバチンバチンと飛ばしてきたけれど、ぼくは華麗なフットワークで全弾回避。弾幕シューティングで鍛えた回避能力がまさかこのようなところで役に立つとは。

「ふぅふぅふぅ」

「はぁはぁはぁ」

 息切れするふたり。

「やりますねぇ」

「そっちこそ」

 見つめ合い、にやっと笑う犬丸さんとぼく。

 長い闘いの末、いつしかふたりの間には、友情にも似たとても奇妙な純情な感情が生まれ始めていた。

「じゃ、帰るね」

 顔の汗を袖で拭きつつ踵を返すぼく。

「って、オイイイイイィィィ! 見逃す気ですかああああああああ! この圧倒的な臨場感で迫る一大すぅえくぅすぃをおおおおおおおお!」

 しかしまわりこまれた。

 ぼくは悟る。

 犬丸さんからは逃げられない。

「ふふ……圧倒的なすぅえくぅすぃの前に屈しましたね?」

 いや、そーゆーわけではないのだが。

 てかすぅえくぅすぃすぅえくぅすぃうるせーなぁ。

 てかどこがすぅえくぅすぃなんだか。

 ぼくはあらためて犬丸さんを眺める。

 こけしのような髪型。こけしのような顔。

 低い鼻。

 死んだ魚のような目。

 圧倒的なまでの寸胴。

 そのくせ、微妙に突き出た腹。

 小学生のような背丈。

 ……一体これのどこにすぅえくぅすぃさが秘められているといふのか。

 百歩ゆずってキュー○ー人形よりちょいマシぐらい?

 冷静になって考えてみればなんでこんなこけしのすぅえくぅすぃショーに足を運ぼうとしていたんだか。出来ることならあのときのぼくに「なにが目的で旧体育館へ行こうとしているのか」と小一時間問い詰めたい。


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