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「そんなことない。藤咲さんは魅力的って思う」
「じゃあなんで私にラブレターをくれないの?」
「なんでって……」
ぼくは考える。
いや、考えるまでもない。
答えは明白だ。
「私のこと、好き?」
「うん。好き」
偽らざる本心。
「じゃあなんで私にラブレターをくれないの?」
彼女は同じ問いを繰り返す。
「うーん、なんてゆうか……」
ぼくは考える。
答えはもう出てるから、どうやって伝えればいいかを。
――そして。
「……無駄だから、かな」
「無駄?」
「うん。だって、サッカー部の東先輩だって、テニス部の西くんだってフラれてるんだよ? なのに。それなのに。ぼくにチャンスがあるわけないよね?」
「そんなこと、想いを伝えてみないとわからないじゃない」
「でもさっきぼくのこと全然好きじゃないって」
「うん、全然なんとも思ってない」
……わかっちゃいたけど面と向かっていわれるとぐさぁ。
残酷だよ、けっこー。
なんでぼくがこんなつらい目にあわなきゃいけないんだか。
「でもさ、それとこれとは話が別じゃない?」
「そうかなぁ……」
「そうよ。それに、伝えてみなければわからないでしょ? アンタのラブレターを読んで、私が心変わりすることもあるかもしれないじゃない」
「そうかなぁ……」
「そうよ。人の想いって、変化していくものでしょ? 好きな人をずっと好きなままとは限らないし、嫌いな人をずっと嫌いなままとは限らない。どうでもいい人が、ずっとどうでもいい人とは限らないじゃない」
「そう言われると、まぁ、そんな気がしないこともないかも」
なんか騙されてる気もするけど……
「でしょ?」
我が意を得たり、という風に藤咲さん。
「でもさ、やっぱり無駄だよ。ぼくと藤咲さんじゃ釣り合わないでしょ? 正直、無駄なことはしたくないんだよ。努力して実りそうなことならちょっと頑張るけど、どうあがいても無駄そうなことは最初からしたくないんだ。握手券付きのアイドルのCDを大量に買ったってアイドルとやれるわけじゃないでしょ? VチューバーにいくらスパチャしたってVチューバーとやれるわけじゃないでしょ? じゃあ、お金の無駄かなって。可能性ないなら、初めからなにもしない方がマシでしょ? 藤咲さんにラブレターを渡さない理由もそれと一緒。だって、無駄じゃん。どうせ付き合えないんだし。ラブレター書くのにも労力いるのに、無駄なことはしたくないよ」
ぼくはいった。
めずらしく長ゼリフで。
これが僕の偽らざる心だ。
「なにそれ」
藤咲さんは怒っていた。
同時にしらけてもいた。
「なんか……つまんない男」
それはそうでしょう。
自分自身、そう思うんだから。
「……藤咲さんにはわかんないよね。努力しなくても大抵のものが手に入る人には。努力しても大抵のものが手に入らない人間の気持ちなんて」
自分でも愚痴っぽくなってるなってのは理解してる。
けど、口が勝手にしゃべっていた。
藤咲さんはいら立ちを抑えきれないように頭をくしゃくしゃした。
「あー、もう、ちょっとは根性みせなさいよ!」
「そう言われましても」
ずずずいっとアップに迫る彼女。
おおう、近すぎ近すぎ。
「……最後に一つだけ確認したい。アンタ、私のこと、好きなの?」
「好きだよ。それはもう伝えたと思うけど」
「ちゃんと確認したかったの。これでべつに好きじゃないって答えるようなら、私ももう、あきらめるつもりだった。けど、あんたが私のことを好きってゆうなら、諦めない。アンタは無駄だから想いを伝えないってゆうけど、そうじゃないでしょ? 本当に好きだったら、想いを伝えずにはいられないはずよ」
そんなもんだろうか。
「………とにかく、意地でもアンタからラブレターもらってみせるんだからね! アンタがごちゃごちゃ言い訳できなくなるくらい、心の底から、私に惚れさせてみせるんだから!」
彼女は一度立ち去りかけて。
けれど、振り返り、
「ぜっっっっっっったい私に惚れさせてみせるんだからね!」
今度こそ本当に立ち去って行った。
すでに見えなくなった彼女の背中に、ぼくは語りかける。
「それはムリだよ、藤咲さん」
だってぼくはもう、とっくに藤咲さんのことが好きなんだから。