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『うっふーん。これより旧体育館にてわたくし、犬丸Q子による超絶すぅえくぅすぅぃショーが開催されます。観覧ご希望の方は今すぐこちらへダッシュでGO! 早くしてくださいん。間に合わなくても知りませんよ? あっはーん』

 まったく抑揚のない、かつ、なんの感情も含まない機械的なセリフだったのだけれど、思春期真っ盛りのガイズは色めき立った。

「あ、やば、今日歯医者だったわ、俺、行かないと」

「ごめん藤咲さん、俺今日親にお使い頼まれてたんだった」

「あ、なんか用事思い出した! どんな用事かは思い出せないけど用事があることだけは思い出した! 行かなきゃ!」 

 今の今まで藤咲さんを取り囲んでいた繁殖精神旺盛なガイズはわざとらしくそんな感じのことを口々にいって教室を出て行った。

 その点ぼくは冷静そのものさ。

 つーか。

 あんな放送したらすぐに教師連中が止めに来るでしょうに。

 などと思っていたら。

「女子高生の残り香クンカクンカしてるばやいじゃねぇ!」

 なんと。

 しれっと男子生徒にまじって藤咲さんを取り囲んでいた校長が窓枠を勢いよく乗り越えて外に飛び出していったではないですか。

 それを見て慌てふためいたのは他ならぬこのぼくだ。

 なにせぼくは今いったばかりだがどうせ教師連中に止められるでしょうにとそんなことを悠長に思い、旧体育館へと一歩踏み出しかけた足をかろうじて踏みとどめていたところなのだ。

 それが。校長が目の色を変えて廊下を伝うのではなくもう矢も盾もたまらないって感じに窓枠を飛び越えて校庭を横切り旧体育館までショートカットを試みたことで、ぼくの中に自然、あせりにも似た感情が芽生え始めていた。

 校長先生はそのいかがわしげなイヴェント止めるために旧体育館へ急いだ――という可能性もある。

 が、ない。

 断言する。

 ないんだ、そんなことは。

 校長のあの獲物を狙うような鋭い目、だらしなく緩みきった顔、荒い鼻息、極限まで膨張しきった下半身……それらを鑑みれば……真実は、いつも一つ!

 あえて言おう。

 あれはスケベのみを期待しての行動である、と。

 決して校長という立場を与えられ渋々生徒たちを止めに行く、というような悲しき大人の行動ではなかった。

 むしろ彼は誰よりも欲望に忠実だったといえよう。

 ならば。

 行かねばなるまいこのぼくも。

 あるいは他の良識ある教師が止めに入るかもしれない……けど、それでも、こっちには校長という最強カードがある。

 他の教師が雑魚モンスターカードだとしたら、我らが校長は、ブルーなんちゃらホワイトなんちゃら級のカード。

 量産型ザコ教師がかなうハズもなく……

 まぁ、そういったわけでもぼくも遅ればせながら廊下を足早に歩き始めたんだけど……

「アンタはこっち」

 そんな声とともに藤咲さんに首根っこをつかまれ、屋上へとズルズル引きずり込まれた――そんな現状。

「やっぱりあの放送って……」

「そうよ? アンタとふたりっきりになるためにあの子が考えたの。ポンコツにしてはなかなかやるわよね」

 藤咲さんは上機嫌。

 けれどそのことばにダウト!と唱えたいぼくです。

 ポンコツ?

 いえいえ、有能でしょう。

 人気者ゆえ常に男子生徒やときに男性教諭に囲まれてなかなか一人になる時間の取れない彼女から発情しきったガイズを引き離すのにあれ以上の策略がありますかっての。

 ポンコツどころか超一流の策士ですらある。

 思春期の男ってのはとにかくやりたいんだ。いや、思春期じゃなくっても、男って生き物は、常に下半身の暴走を必死で抑えこみながら生きてるんだ。

 好きじゃなくても。恋人や奥さんじゃなくっても。タイプじゃなくっても。それどころかけっこうなおブスでも。

 やれるならやりたい――

 そーゆー生き物なんだ、男って。

 あのポンコツとか称されているこけしのような色気ひとつ感じさせることのないチンマイ寸胴メイドは、けれど、その辺を熟知しているのだろう。

 とすると、真にポンコツなのは、ある種有能なメイドを今まで有効活用できていなかった藤咲さんの方といえなくも……げふんげふん。

 いや、やめておこう。

 藤咲さんは完璧で非の打ちどころのない美少女なんだ。

 いくら地の文とはいえ、悪口は、いくない。


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