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⑦出張おはなし会の依頼?! でも、事件が起きまして……。

 閲覧ありがとうございます。

 本日二話目です。

 午後になって、館長からの呼び出しがあった。モリエちゃんと二人で館長室を訪ねた。

 挨拶をして中に入ると、先客がいた。

 エルケさんによく似た容貌の青年だった。ソファから素早く立ち上がり、わたしたちに挨拶した。


「初めまして。エルケの従兄のディルクと申します。この星に住んでおります。この度は、遠いところをわざわざご訪問いただき、ありがとうございます。感謝しております」


 えっ? 話した。それも、流暢な星間連合共用語で。どういうこと?

 わたしたちが驚いた顔をしたのを見て、慌てて館長が説明を始めた。


「ディルクさんも、もとは留学生なんだよ。エルケさんと同じ時期に、一緒に学校で学んでいたそうだ。ディルクさんは、今はこちらに戻って、星間連合との連絡係を務めている。今回の訪問に当たっても、関係諸機関に根回しをしてくれて、随分助けてもらったよ。」


 少し恥ずかしそうに笑ったディルクさんの顔は、エルケさんによく似ている。


「それで、君たち二人にここへ来てもらった用件については、……ディルクさんから説明してもらう。」


 館長に促されて、ディルクさんが話を始めた。


「昨日そして一昨日、児童室のお二人に、たいそうなおもてなしを受け、こちらへ来館した者たちはみなとても 喜んでおりました。御世話をかけました。戻った者から話を聞いて、どうしても来てみたいと申し出る者が、たいへんな数になってしまいました。次々と押しかけては、ご迷惑になると思いまして、誠に勝手なお願いではありますが、かなうなら、町の方へお出かけいただけないかと、館長にご相談に参りました」


 ディルクさんが、館長の方を見た。館長が頷きながら、話の続きを引き取った。


「岩窟都市内の神殿広場に、皆さんを集めてくださるそうだ。『キコーネくん』は使えないので、別の方法で読み聞かせをすることになる。ぬいぐるみ作りや小物作りの材料や道具を持って行けそうなら、作業をする場所も準備してくださるという話だ。わたしはかまわないが、君たちはどうだ? 準備できるか?」


 館長はさらっと言ったが、相当興奮しているはずだ。向こうから、わざわざ岩窟都市へ招待してくれたのだもの。こちらを受け入れてくれたということだ。これは、最大級の感謝の気持ちの表れと受け取っても差し支えないだろう。おまけに、場所は神殿広場だ。この星の「神」の秘密に少し近づけそうな予感がする。


「わかりました。ご招待に応じたいと思います。準備は、これからすぐに取りかかれば間に合います。」


 わたしがそう答えると、館長もディルクさんもほっとした顔をした。

 入館制限をするのは申し訳なかったし、一日にできる読み聞かせの回数は限度があるし、正直、明日の開館には不安があった。防護服はちょっと面倒だが、たくさんの人に楽しんでもらうためだもの、我慢しよう。

 唯一気になるのが、評議員の動きだ。話を知れば、絶対についてくると言うだろう。それは拒めない。

 まあ、わたしが心配することじゃないか。そのあたりは、館長に任せておこう。


 細かな予定は、この後、ディルクさんと館長で詰めておくという。わたしとモリエちゃんは、急いで児童室に行き、明日の準備を始めることになった。何人ぐらい集まるのかわからないが、できる限りたくさんのぬいぐるみを積んでいこうと思う。「キコーネくん」の代わりに、また大型絵本を用意しないといけない。やりきりますよ、神様を!


 その日の夕刻。わたしたちが、児童室での作業を終え片付けをしていたとき、艦内が少し騒がしくなった。今日は休館日なので、プライベートなスペースにいる人が多いはずだが、何だかざわついている。


 原因は、フォーゲルザング評議員だった。通路を通る人たちの話によると、乗組員用の車両を貸せと騒いでいるらしい。車両倉庫の方では、これから夜の時間帯に入ることもあり、安全面からも貸し出しはできないと断ったが、膠着状態が続いているようだ。

 あっ! ドウガシマさんが通った。これで、丸く収まるといいけれどね。


 夕食をとりに食堂に行くと、さっきの騒動の話で持ちきりだった。ミールボックスを貰って、自室に戻るつもりだったが、ちょっと話を聞きたくなって、隅の方の空いている席に腰を下ろした。


「今朝、随行員の人が二人、私物のバイクで出かけて行ったんだよ。砂漠の方のオアシスに向かったらしい。それが、まだ戻っていないんだって」

「そりゃあ、まずいな。どこまで行ったか知らないけど、砂漠でエネルギー切れになったら最悪だよ」

「おまけに、まったく連絡がとれないらしい。それで、評議員が騒ぎ出したんだ。自分で探しに行くって」

「もう今日は無理ですって、ドウガシマ部長に説得されて、今日は引き下がったらしいけど、明日は朝から大さわぎになるでしょうね」

「随行員の人たち、館長に断りもせず勝手に出かけて行ったそうよ。迷惑な話よね」


 そういうことか……。でも、ちょっと変よね。だって、二人の後を警備部の人が追いかけて行くのを見たもの。

 途中で巻かれた? いや、そんなはずはない。うちの警備部が、そんなしくじりをすることはない。

 ということは……。


 わたしは、ミールボックスを持ったまま、警備室へ向かった。反対側から歩いてくるのは、キネヅカさんだ。

 ヘルメットを抱え、体に張り付くようなライダーススーツを身にまとっている。かっこいい。

 わたしに気がつくと、にやっと笑った。「どうぞ」というように、入り口を開けて待っていてくれた。


 急いで、警備室に滑り込む。休館日なので、警備室もがらんとしている。ドウガシマさんもまだ戻っていない。

 その静かな警備室で、館長が一人でソファに座っていた。やっぱりね……。

 あら、でも、何だか元気ない感じ? 髪の毛もぐしゃぐしゃだし。

 わたしが部屋にいることに気づくと、ちょっと驚いたような顔をして声をかけてきた。


「なんだよ! やけに鼻がきくじゃないか? 何を確かめに来た?」

「昨日、館長は、言ってましたよね。評議員や随行員の監視を怠らないようにするって。艦内は大騒ぎですけど、ここはやけに落ち着いていて静かですよね。ということは、随行員さんたちの動向を、館長や警備部は掴んでいるってことじゃないですか? どうして、評議員に伝えないのかはわかりませんが。」

「わかったよ。名探偵さんに教えてやってくれよ。キネヅカさん。」


 そういうと、館長はごろんとソファに寝転んでしまった。やれやれという顔で、それを見ていたキネヅカさんが、自分のデスクの方へわたしを呼び寄せ、話を聞かせてくれた。


「随行員の二人の行き先は、ここからバイクで一時間ほどのところにあるオアシスだったわ。隠れる物がない砂漠で追跡するのは、至難の業でね。こっちが尾行していることには気づいているようだったけれど、無理に逃げる様子もなかったのでそのままついて行くことにしたの。

 彼らは、オアシスでバイクを降り、そこにある古い小さな神殿に向かったわ。誰もいないようだった。わたしとテラドマリさんは、少し離れたところで彼らの様子を観察することにした。ただの観光という可能性もあったしね。

 やがて、彼らは、神殿の側にある大きな池へ近づき、じっと池の中をのぞき込んでいた。そして、持っていた金属棒で池の縁をつつき始めたの。何かを取ろうとしているように見えたわ。すると……、突然水面が盛り上がり、水が溢れてきて、逃げようとした二人を飲み込んでしまった。

 何か生物が姿を現すかと思ったのだけど、見えたのは水の塊だけ。二人を飲み込んだまま、溢れた水はものすごい速さで池へ引いていった。突然のことで、すぐに対応ができなかった。二人を助けられなかったのはこちらのミスだわ……。

 慌てて池に近づき水面を覗いたけれど、二人の姿はもう見えなかった。驚くほど水は澄んでいるのに。その後、ドウガシマさんに連絡をとって、しばらくそこで待ってみたのだけれど、もう何も起こらなかった。今さっき、ようやくテラドマリさんと図書艦に戻ってきたの。」


 盛り上がる水に飲み込まれて姿を消した……。水の様子はなんとなくわかる。あの日、エルケさんから届いたイメージがそれだろう。まるで、生き物のように、溢れうねり広がる水……。


「石は『神』に関係があると考えて、神殿を調べようとしたのだろう。池で何か見つけたのかもしれない。キネヅカさんの責任じゃないさ。想定外のことが起きたんだ。水に襲われるなんて、誰も考えつかないさ。

 こうなれば、もう、エルケさんに話を聞くしかない。こちらが見たことを正直に伝えて、何が起きたのか教えてもらおう。二人の救出はそれからだ。生きていれば……だが。

 おそらくまだ評議員も知らない重大な秘密が、この星には隠されている。秘密を明らかにすることが、この星の不利益になるのなら、エルケさんは我々に話すことを躊躇うだろう。それでも、今は、どうしても話して欲しい。彼女が、それを話してもいいと思う可能性がある相手は、……。わかるよな?」

 

 そう言うと館長は、ソファから起き上がり、わたしたちの方に近づいてきた。

 そして、いきなりわたしの右手を掴むと、袋に入れた例の石を握らせた。えっ、返してくれるの?


「これがあった方が、話をしやすいだろう。これを渡されたことを伝えれば、エルケさんの信頼を得られるんじゃないかと思う。これは、この星の人にとって特別なものらしいから」


 不思議な温もりが石から伝わってくる。貴重で価値ある物かもしれないが、こんな辺境まで押しかけて、命をかけて手に入れようとするなんて――。評議員やそのお仲間たちの石への執着心が、わたしは恐ろしい。

 

「わかりました。エルケさんに事情を話して、随行員のお二人を助けるために、力を貸して欲しいとお願いしてみます。それにしても、どうして評議員に伝えないんですか?」


 すでにぐしゃぐしゃになっている髪の毛を、さらに手でゴシゴシとかき混ぜながら、館長が辛そうに答える。


「それはできない……。いや、したくない! 評議員は、本部に連絡して、軍や宙域保安隊の出動を要請しようとするだろう。そして、この星を危険な未開の辺境惑星として、星間連合の管理下に置こうとするだろう。それは、だめだ!この星を不幸にする。だから、なんとか我々の手で解決したいんだ。」


 館長の「辺境愛」は、筋金入りだ。呆れかえるほどだ。

 しかし、わたしだって、このニューアレキサンドリア号の乗組員だ。その思いに応えなければと思う。

 キネヅカさんにかかえられるようにして、デスクの椅子に座らされた館長。

 そのぐしゃぐしゃの頭を、「任せておけ」という気持ちを込めて、わたしは左手で優しく撫でてやった。

 

 警備室を出て、そのままプライベートスペースのエルケさんの部屋を訪ねることにした。

 あっ! 通路を歩きながら、警備室にミールボックスを忘れてきたことに気づく。

 まあ、いいか。たぶん、キネヅカさんはまだ夕食を食べていないよね。お召し上がりくださいませ!


 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 続きは昼頃に投稿します。

 お付き合いいただければ幸いです。

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